ポケットの中にはポケットがひとつ 5
今夜のタケルは想像力豊か
「スケール大きすぎない?それ」
さすがに僕も同意には戸惑うレベルだった。
「そうでもないだろ。能力が日常的だとしたら、ショックをを受けて引きこもった女の子のうちに近所の子供たちがその子を迎えにぞろぞろ出かけました…って話だろ。ドアを開けるのが力持ちの男の子でさ」
「頭では理解した。けど、僕の今までの幻想というか、その固定観念みたいのが邪魔してる」
「そうかもな。テレビだと大きな怪獣をやっつける身長40mくらいのヒーローがショーになると人間の大きさだった時、俺もすぐには呑み込めなかった。怪獣も人間サイズだったしな」
タケルの言うとおりだ。もし人間の話を神様の話に脚色するというプロセスを辿るとしたら、大ゲンカは戦争になるし、涙は湖を造り、くしゃみだって台風になりかねない。神話とはそういうものだ。
「でもさ、なんで1つ目のポケットじゃなくて2つ目のポケットに隠れたって思うの?」
「世の中がちょっと暗くなったってだけじゃそんなに困らないかもなって思ったからかな。
暗いというのは真っ暗というのじゃなくて日照が足りなくて作物が採れないとかそういう期間が続いたということじゃないかと思う。
ほら、火山が爆発して空が暗くなると不作になってそれでフランス革命につながったって話を読んだことなかった?」
「そういう説があることは、いつだったか別の店で話したね」
「そう、そんな感じでさ。ずっと出てこないから皆が不安になったとするなら引きこもりの期間が長いんじゃないかなーって思ったのよ。それだけ」
…それだけって、太陽神を『ぼくらのクラスのお日さま係』くらいにスケールダウンしてるよ、君。
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「タケル君の話は興味深いわ。能力を持つ人たちで出来た集落があったんじゃないかという言い伝えも全国にあるわね」
ママが付け加えた。
ママが言うには、世界中に神話や言い伝えがあり、その中には別の地域がコピーして言い伝えたようなものもあるけれど、神話や昔話というのは単なる作り話にとしておくには排除できないリアリティがあるということだ。
それはこの国でも同様で、機構が注目しているのは火山に近い場所だという。別の部門は南の島に昔話がとても多いことに注目しているらしい。そうか、島も火山活動の結果か。
昔話や伝説は山間の集落に残ることが考えられる、とも話してくれた。
特に東北地方ではつい数十年前までは一生をひとつのエリアから出ない人もいて、古い文化が受け継がれるには適しているそうだ。
そんな物語の多くのひとつが神話の中に組み込まれ、結び付けられたり序列が生まれたり排斥されたりしたと考えることが出来そうだ。ゆえに神話の流れには虚飾が混在する可能性も高いということか。
そしてママが言う「能力を持つ人たちで出来た集落」か…
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「ねえタケル君。河童の話なんだけど」
ヒロミちゃんもタケルに聞きたいことがあるようだ。
「入れない2つ目のポケットってどんな感じだったの?」
「うーん。さっき話したように5か所のポケットがあったんだよね。で、ここが難しいっていうか説明付かないんだけど、直径が小さいっていうのかな…物理的な理由で入れないのと同じなんだよ。
小さいから大人は通れない。だけどサルとか大きな蛇だったら通れそうなサイズでさ。で、俺が考えたのは、この向こう側に大きな蛇が棲んでいてもおかしくないってのと、中での時間だけゆっくりだったら長いこと言い伝えとして残りやすいのかなって考えた」
「なるほど。タケル君は河童や竜なら小さめのポケットにも入れると思っていたわけかぁ」
ヒロミちゃんは腑に落ちたのか、タケルに向かって微笑んだ。
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もし、3つ目のポケットあったとしたら…僕はその考えが捨てきれていない。
捨てきれていない限りは妄想にも手がかりとなるようなものを捨てきれないでいる。
タケルやヒロミちゃんの意見も聞いてみたい。
「タケル、万が一3つ目のポケットがあるとしたらその向こうはどうなっていると思う?」
タケル、少し考えてこう答えた。
「なんか想像も出来ないけど、それが『あの世』ってやつかもね」
よくわからないがヒロミちゃんもママも頷いているから、当たらずとも遠からず…なのか知れない。
こうして僕とタケルは一段と深入りした気がする。
ママたちから見れば、安心してこの地域の調査サポートを手伝ってもらえる人材ということだろう。
ご覧いただきありがとうございます。
ちょっと書き直しながらやっています。




