ポケットの中にはポケットがひとつ 4
想像にも整合性ですよね
ママが溜め息をひとつ。
「ここまで私たちの想定と合致しているとはね。タケル君のそのひと言、私には大きく響いたわよ」
どういうこと?つか、どゆこと?中二スピリットが空回りしているよ。
ヒロミちゃんが補足するように言う。
「私たちも機構が大きなポケットを探していることの核心はそこにあると思っているわ。
タケル君の話を聞いた結果、つながる話も多かったわ」
「伝承レベルの…ってこと?俺もちょっと想像はしてたけど。今度はヒロミちゃんから話してみてよ」
「わかった。これは伝承の話との整合性みたいなことだから、昔話みたいに気楽に聞いてね」
…ポケットって昔からあるものだとは、私たちも思っているの。チルドレンの話とタケル君の話も合致しているわ。
まずは神隠しね、子供がいなくなって見つかったり見つからなかったり。神隠しの伝承とポケットは関係があるとは思っていて、ひとつ目のポケットに入った子供がそのまま帰ってきたら一日中迷子だったのかもね、みたいな話で終わってるんじゃないかと想像できるわね。
その次の話が伝承部分。ふたつ目のポケットに入った人は出てくると時間が過ぎていて…という話。世界各地にそのような話はあるの。浦島太郎、リップヴァンウィンクル、中国にも洞窟の中で碁を打つ仙人と出会う男の話があるのは知ってるかもね。どれも帰ってきたら時間だけが過ぎている。
くわえて言うと、浦島太郎が乗った亀というのは今日タケル君が想像していたように、背中に模様のある水棲の動物って可能性もあるわ。
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「ちょっと待って。話が出来すぎじゃないか?それに浦島太郎って海の話じゃないのか?」
僕だけが話に追いつていない様で不安だ。ヒロミちゃんが続ける。
…浦島太郎のいた場所が砂浜だけじゃなくて、岸壁もあるならポケットは存在してもおかしくないのよ。
最近の話でいうと、大災害の後に爪痕の激しいところにはポケットが多く見つかっているというレポートもあるの。チルドレンの発生はその後だから前後を比較はできていないけれど、ポケットの発生と地震や噴火レベルの話、そして霊場の存在とは関連があるんじゃないかって踏んでいる理由のひとつなの。
岸壁っていうのは火山活動の痕跡なんだから、その点ではポケットがあることは不思議なことじゃないのよ。
ヒロミちゃんの説明に整合性を感じる。
ヒロミちゃんの話を聞いていたタケルも、頷きながら話し始めた。
「中国にもそんな話があるのは知らなかったけど、リップヴァンウィンクルの話は絵本かなにかで読んだ気がする。映画だったかも。子供のときには怖い話だなと思ってたけど、自分で体験した時はホントに怖かったよ。今は西暦何年だ!?みたいになったね」
「第3のポケットの話は聞いたことがある?」
「ないよ。昔話でもふたつ目のポケットに入ったで終わりだろ?」
「そうね、私たちもこれ以上は整合性が取れないから上手く話せないけど、その向こう側になにかがあったとしたら…想像も出来ないわ」
「俺が思っていたポケットのイメージはこうなんだ」
とタケルは話をつないだ。
…ポケットの中にポケットが出来ているっていうのは、俺たちの勘違いなんじゃないかって思っているのね。俺たちが言っているふたつ目のポケットの方が先にあって、なにかの拍子で風船が膨らむようにひとつ目のポケットが現れたんじゃないかって思うようになった。
というのは、ひとつ目のポケットには必ず介入できないポイントがあって、そこあたりにふたつ目のポケットがあるからなんだ。なんていうのかな、ふたつ目のポケットはひとつ目の根っこの部分というか。花に例えるなら茎とか枝で、そっち側の方が本体なんだろうなって感覚が俺にはしっくりするよ。
それと、浦島太郎の伝説は来訪者の視点だと思うけど、もし大きなポケットがあったら隠れ家としては最高だよなと思ってる。意図的に介入できるなら外敵にやられにくいだろうね。
ふたつ目のポケットに介入できる人間は少ないと思っていて、たとえひとつ目のポケットに入れたとしても更に奥に介入できるかは疑問だな。俺も感覚的には違う力で潜り込んだから。
これを逆に考えると、昔の人の感覚で考えるとポケットに介入できた人間とかは神様扱いされたんじゃないかと思う。なにも知識がないところに突然消える人間がいたら神様か化け物だもんな。
昔の世界って言葉が発達していないじゃない?これも俺の想像なんだけど、言葉を覚える頃にポケットが見えなくなっているって話したけど、言葉が発達していなかったらポケットが見えたり介入できる人間も多かったのかなって思ってる。そういう部族がいたら神々ってことにならないかな。
タケルはひと息ついて、こう言った。
「そうやって特別な人間のひとりがふたつ目のポケットに引きこもったのが『天の岩戸伝説』じゃないかと思う」
ご覧いただきありがとうございます。
一見壮大な話ですが、世間話のお話です。




