ポケットの中にはポケットがひとつ 2
いきなり告白するタケル
ヒロミちゃんは慌てながらママに話しかける。
「ママ、ママ。タケル君に不都合な影響とかあるのが心配だから黙っておこうって思ってるんだけど」
「大丈夫よ、ヒロミちゃん。タケル君のことは黙っておくわ。そもそも私たちの調査範囲ってメインがチルドレンなわけだし、タケル君ひとりの報告が漏れたって困らないわよ」
「でも、能力が2つあるチルドレンなんてこの国に5人もいないし…」
「チルドレンにはね。きっと能力の複数持ちなんて、これからも沢山出てくるわよ」
切羽詰まったヒロミちゃんの口調に対してママののんびりとしたことったら…
タケルものんびりしているけど、ママもそういうタイプなんだろうな。ママが続ける。
「タケル君にはちょっと助けて欲しいこともあるのよ。
あたしたちはその空間っていうの?それを感じ取ることが出来ないから理解もできていないこともあるし、機構が狙っていることの核心部分も知らされていないのね。
彼らがやっていることは社会にとって悪いことだとは思わないけど、ヒントみたいなものがあるならアドバイスが欲しいのよ」
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タケルがうーん、と唸りながら「アドバイスなんて立派なことは言えないけど…」と語り始めた。
ママとヒロミちゃんは興味深そうに聞いている。ここあたりは僕も聞いたことがあるけれど何回聞いても理解が及ばないところがある。僕もタケルの言葉に耳を傾けることにしよう。
…ママが話している空間、それは俺とガットの間ではポケットって呼んでいるんだ。
あちこちにある、と言えばある。けど、コップサイズというか、ジョッキサイズというか人間が入り込めるようなサイズのものはほとんどないと言ってもいいと思う。
で、見えるだけの人間と中に体や物を突っ込める人間がいるはずだよ。
で、小さいうち…言葉を話せるまでは見えている子もちらほら見かける。話せる頃には感覚を無くしているんじゃないかな。
あくまでも俺の憶測なんだけど、ひょっとしたら小さいうちって色んな能力の芽みたいのは人間全員に備わっていて、使わないものは芽が退化するっていうか…小さくなっていくんだと思う。
だから、チルドレンも俺やヒロミちゃんも能力が発現するのは小さいうちで、それは能力の芽が退化しちゃう前だったんじゃないかな。
この前ヒロミちゃんも話していたように、コンプレックスを持っている子供が能力を発動しやすいって考えてるんだけど、かけっことかお遊戯とか?とにかく不器用だったり体力的に追いつけない子供が自身でもがいている結果、別の手段として芽が大きくなるんじゃないか…そう思っている。
で、ポケット…ポケットで通していいかな?大きなものは平地よりは山の中、同じ地形なら大きな岩の近くにある、というのは俺の経験の範囲ね。今日の調査でも大きな岩を探しているんじゃないかって話したのはそういうこと。
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「タケル君、私たちよりも色んなことを知ってるのね。約束するわ、タケル君が考えていることを全部話してくれても、私たちは秘密を守る」
ママの言葉にタケルも頷き、そして話を続けた。
…この町にもポケットは沢山あって、ついこの前は子供のオモチャをポケットから見つけた。
いつか見せてもいいけど、オモチャそのものはなんの変哲もないものだよ。壊れたヨーヨーだからね。
ポケットは俺が知る限り動かないんだけど、川のクネクネしたところで見つかることもあるから、地形が変わるくらいの時間の移り変わりでは移動しているかもしれない。
さっき見えるだけって話したけどポケットの中に手を入れられる…みたいのを俺たちは介入って言ってる。意識的に介入できる知り合いはいない。
最近間違って足を突っ込んじゃった女の子はいたけどね。
他にまだ話してないことあったかな。子供のころにミニカーで遊んでいるうちに介入出来るようになった、くらいかな。
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「大きなポケットに入ったこと、ある?」
ママが聞いてきた。僕の記憶だと、気味が悪いからという理由で入ったことはない筈だ。
「…あるよ。実は大きなポケットに入ったことはあるんだけど、話しても理解できそうな人間もいなかったし。俺の考えもまとまってないんだよ」
タケルは秘密主義ではないけれど、理解できないことは話題にしない方だったかもしれない。
元々ミニカー遊びにしても突き詰めるタイプというか、凝り性というか、そんなところあったもんな。
僕はそんなタケルの性格は承知しているから特段気にしない…けど、大きなポケットのことは気になる。
ご覧いただきありがとうございます。
ちょっとヒミツもあるものですよね、誰でも




