ポケットの中にはポケットがひとつ 1
調査も終わり、その夜です
唐突なタケルの言葉に、僕は面食らった。
「いきなりだな。なにか証拠でもつかんだのかい?」
「いや、今までの体験とスイコの言い伝え、そしてヒロミちゃんが調査対象としたことの合成だ」
「つまり、決定的な根拠はないってこと?」
「俺たちは河童や竜の話をしてるんだぜ、決定的な根拠がある方が不自然だろ」
相変わらずタケルは楽天的というか、会話が柔軟というか…
「とにかく、俺が見つけたポケットよりは期待していいかも知れない」
僕にはまだ理解できない要素があるのかも知れない。
タケルもヒロミちゃんが来たら、改めてタケルの仮説を話すと言っている。
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僕たちが「西の果て」で、改めてビールを飲み始めたのは日も暮れない早い時間だった。
調査も早く終わったので、ママも早めに店を開けてくれていた。
「どう、収穫はあったみたい?」
ママはのんびりとした口調で聞いてくるが、とっくに情報は入っているだろう。
「どうなんだろう。技術的なことはサッパリだから」
タケルものんびりとした口調だ。僕も技術的なことはわからないけど、どのように話したものか…
「ヒロミちゃんの話だと、調査が段取り良く進んだみたいで助かったわ。もしも似たような作業があったらまたお願いしたいくらいだって言ってたわよ」
「そうなんだ…。山に機材運ぶとかなら俺もダイちゃんも得意だよ」
…僕がカウントされていない気がするが、スルーしてママに聞いてみる。
「ママ、詳細は詮索しないけどこれからも調査作業ってありそうなの?」
「意外と多いのよ。特に山あいの池とかはね。」
「タイミングが合うようなら是非お手伝いしたいです。あ、ギャラはいらないですから」
「そんなこと心配しないでも大丈夫よ。あたしのお金じゃないけどね、あはは」
それから30分、ダイちゃんも到着した。ヒロミちゃんが戻ってくるまで後30分くらいか。
「ダイちゃん、お疲れ様。河童も竜も見れなくて済まなかったな」
「いえ、作業も楽しかったっすしバーベキューも美味しくて最高っしたぁ」
「そう言ってくれると助かるよ。疲れたかい?」
「いえあのボート、軽いなと思ってネットで調べたら市販クラスだと最新型で、それに機器を取り付けたカスタムボートだったんす。もう少し丁寧に扱わなきゃいけなかったかもっす」
「持ち運びのとき、毛布でくるむくらいすれば良かったかなぁ」
タケルとダイちゃんはボートに興味が出て来たらしい。
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ボートや機材の談義が落ち着いたころにヒロミちゃんが到着した。
ヒロミちゃんは少しお疲れかな、と思ったけれど至って元気な様子だった。調査にも収穫があったのかも知れない。
そして、改めて乾杯だ…3杯目か、明日は日曜だけど酒はこれでやめておこう。僕は酒が強い方ではない。タケルだって酒豪じゃないからな、飲みすぎたら二日酔いにはなるだろう。
「じゃじゃーん」
ヒロミちゃんが僕たちに見せてくれた紙には、今日の調査結果の一部、衛星写真に今日の調査で判った昔の池の岸が曲線で描かれていた。これくらいは見せても大丈夫ってことなんだろう。
「みんなのおかげで半日ちょっとで調査が終わったの。あたし1人だったら4日はかかったと思うわ」
改めて感謝されて、良かったなあと思う僕。この季節は雨に祟られやすい。4日もあれば一度は雨だろうし、作業性は格段に落ちる。
「これが池なのか。思ったより広いんだな」
タケルも感心しながらプリントされたものを見た。
「ちっちゃな池なら竜も棲めそうにないっすもんね」
ダイちゃん、なんとなく的確なコメントだよ。言われて僕も同感だ。
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まだまだ早い土曜の夜、ダイちゃんは友達からの誘いが来て、別の店に出かけて行った。
世間話が途切れたとき、タケルがヒロミちゃんに話しかける。
「やっぱりさ、ママに話そうと思う」
「なになに、あたしに相談かしら?君たち付き合い始めたとか?」
「ちょっとママ、そういう話じゃないの。タケル君、今日のことよね?」
ヒロミちゃんはちょっと心配そうな面持ちだ。
「…うん。ママ、俺ね…今日の調査の対象のこと、見えてるみたい」
「あらー、そうなの?ちょっとだけそうかなぁと思ったことはあったんだけど、そうなのね」
意外と驚かないママだった。一方ヒロミちゃんはビックリしている。そりゃそうだろうな。
ご覧いただきありがとうございます。
タケル、意外と口は堅くないのか。君。




