あの思い出は河童だったのかも 5
ヒロミちゃん、驚いちゃいました
ヒロミちゃんもどこから聞いたものかわからないくらいに動揺しているみたいだ。
タケルはタケルで、どうしようか迷っているみたいだったけど、話を続ける。
「いや、ごめん。話してなかったけど、このコップあるじゃん?」
といって、神社の近くまで持って行き、ダイちゃんがこちらを見ていないことを確認した。
そして腰の高さあたりのところで力を込めるようにしてコップを消して見せた。
あー、タケルが自分から話してなかったから僕も黙っていたけど。ばらしちゃったか。
僕たちがポケットと呼んでいる空間に、タケルがコップを隠したんだろう。
ヒロミちゃん、呆然としてる。
この前『西の果て』で能力が2つ以上ある人間は珍しいって言ってたもんな。
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「…えっと、それタケル君がやったのって、能力なの?」
「子供のときに出来るようになったから、そうなんだろうなって思う」
「ふたつ目の能力ってことよね」
「うん、ふたつ目」
「どれだけ珍しいことかわかる?」
「全然。俺の他にはヒロミちゃんと、それっぽいのが少しいただけだし」
…ヒロミちゃん、溜め息。
「…今度ゆっくりお話しさせて、タケル君のことは秘密にするから。
これ、ママは知らないのよね?」
「ママは知らないんじゃないかな。助かるよ」
タケルはそう言ってコップを取り出した。
ダイちゃんはまだバッテリーを交換している。なんかごめんね、ダイちゃん。
「とりあえず今はこの話はここまでにさせて。
ガット君はタケル君のことを知っているみたいだけど、これって大きなテーマと言えるのよ」
…わかった。僕とタケルは頷いて答える。
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2回目のボート探索が始まって、ダイちゃんが帰ってっ来た。
「このデータって、全部集まるまで見れないんすか?」
「データのズレとか補正とかあるけど、断片的なデータなら見ることは出来るかも」
ボートから送られてきたデータがあるのか、ヒロミちゃんがパソコンに画面を映し出してみる。
今のことろ、大きな岩みたいなものは見つからなかった。
もしも社のようなものが過去にあったとしても腐ってしまっているか、新しい岸辺に移設しているんじゃないだろうか。1回目のデータでは収穫なしだったが、進み具合は順調のようだ。
「もしさ、大きな岩とかが見つかったらどうするの?」
「専門のダイバーを呼んで、潜ってもらうわ」
「ふーん。そのとき俺は来なくても大丈夫だよね」
至って平凡なタケルとヒロミちゃんの会話だけど、タケルが居合わせない方が良いのは明白だ。
なにかの拍子でタケルの能力がヒロミちゃん側の関係者に知られるのは避けたい。
ダイちゃんは「ダイバーさんすか、大がかりなんすねぇ」と感心しているけれど。
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4回目のボート探索で、目当てのエリアは調査が終わったらしい。
大きな岩はカメラでは見つからなかったが、ソナーやカメラの合成やらで岩らしいものがありそうだとヒロミちゃんが言っている。僕には全然理解できなかったけど。
まだお昼をちょっと回ったばかり、ペースが良かったので調査を早々に切り上げて、それから昼食にしようと決めたのだった。ヒロミちゃんが、
「どうしよう。近くにおいしい中華料理もあるみたいだし、焼肉屋さんもあるわよ。どこに行きたい?」
と言ったのだけど、一番体を動かしたのはダイちゃんだったから、彼の意見を聞いてみる。
「良かったら、なんすけど…」
ダイちゃんの提案は、キャンプ場の近くにバーベキューの道具ごと貸してくれる肉屋があるから、そこで肉や野菜を買ってバーベキューをやらないか、というものだった。
ヒロミちゃんは大賛成、僕もタケルも異存はない。
調査していた場所の向かい側にあるキャンプ場でバーべーキューが始まった。
道具の片づけと運転手のヒロミちゃんはアルコールを飲めなかったけれど、彼女の許可と勧めもあって僕たちは早目のビールにもありつけた。肉は牛肉以外に豚肉や羊の肉も買った。
この時期はトウモロコシも出回るし、夏野菜も潤沢だ。
僕たちはビールとバーベキューに十分満足して、その日の調査日程を終えたのだった。
帰りの車でダイちゃんを自宅付近で降ろし、僕とタケルは荷物を倉庫に戻した後に「西の果て」に近いところでヒロミちゃんに降ろしてもらう。
また後で「西の果て」で合流と決まったからだ。ダイちゃんも後から合流する。
タケルが満足そうな顔をしながら、僕の方を見てこう言った。
「ガット、あの池には河童がいるかも知れないぜ」
ご覧いただきありがとうございます。
いるんですかね、河童。




