あの思い出は河童だったのかも 3
サル?サルなの?
僕にとっては苦い思い出だったのだけど、その時の騒動については少しだけ思い出した。
サルが出たと話していたのは、僕の会社の男子社員だった。
奇妙に思ったのは、この溜め池の近くには山がないことだった。
山から人里に紛れ込むにしても、距離がありすぎるんじゃないかと思った。
ただ、それ以上の感想はなかった。
誰かが追いかけた…というよりも女子が怖がったから追いやったら、溜め池に逃げたらしい。
サルが泳げるのか知らないが、温泉に入るサルもいるんだから…程度の連想で止まった。
「タケルがちょっと追いかけて、サルにしてはケガ短くて黒っぽかったから外来種かなって…あれか」
「うん、俺もサルとか見たことないけど、みんながサルって言ってたからサルなんだろうなって」
「ちょっとタケル君。そのサルのことなんでもいいから教えて。思い出せる?」
お、ヒロミちゃんも興味を持ちだしたのか。調査官って色々目撃情報の聞き取りとかもするのかな。
「いや、俺の記憶も怪しくて、大きさすらおぼろげだよ。記憶は毛足が短めで黒っぽかったのと、見たときは四つ足歩行だったこと。
あとは、イヌネコよりは手足が長く思えたからサルだったのかもな…くらい」
「そう。ありがとう」
ダイちゃんも興味を持ちだした。
「タケルさん、そのサルが河童かも知れないってことですか?」
「うーん。サルかも知れないんだけどさ。俺の中では河童の可能性を捨てきれなくなったってくらいだ」
「なんで河童の可能性があるんですか?」
「ヒロミちゃんが調査をするって言ったから、かな」
「河童じゃなくて竜はいるんですかね?」
「そこはわからないんだよ。可能性はよその池や湖よりは高いかも…くらいだな」
ダイちゃん、少々混乱気味。僕だって同じだ。
タケルがダイちゃんに向かって、河童について話し始めた。
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…あくまでも俺の想像なんだけどね、河童が想像上の生き物じゃなければ、という前提だよ。
河童ってさ、頭に皿があって、亀みたいに甲羅があって、とか典型的なイメージがあるよね。
くちばしみたいのがあるとかね。全部が本当かはわからないけれど、何らかのヒントにはなると思うんだよね。
で、俺がこうやって地面に六角形を連続して描くと、亀の甲羅模様に見えるだろ?甲羅じゃなくても模様があれば、甲羅模様だって思うってこと。
で、俺が見たサルには亀の甲羅のような模様は無かったんだけど、ウリ坊って知ってる?そうそう、イノシシの子供。小さいときに模様があるんだっけ?小さいうちか大きくなってからか…年代で模様が出るタイミングがあるとしたら、可能性はあるかなって、そう思っている。
次に河童は河の童って書くんだけど、これは体のサイズじゃないかと思ってる。
子供くらいのサイズの水辺にすむ生き物って意味かな。ボールに入れておくモンスターじゃないけどね。
子供と相撲を取るって言う伝説は、競技としての相撲じゃなくて「力くらべ」みたいなもんじゃないかな。相撲でぶつかり稽古ってあるだろ?まわしとか取らなくても相撲らしいことは出来るんだ。
泳ぎが得意というのは、今回は言うまでもなく棲んでいるところが水の近くかその中だってこと…くらいかな
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「随分と考察が進んでいるのね」
ヒロミちゃんがちょっとため息交じりにタケルに話しかけた。続けて問う。
「で、タケル君はいつ頃からそんな風に考え始めたの?」
「んー。小学校の頃にさヒロミちゃんとか転校生と話してたことがスタートなんだけど。
ちょっと聞くけど、ガットは道端のどぶに足を突っ込んじゃったことある?」
「小さいときはあった」
「それをなんて言ってた?」
「…『カッポリ』かな」
「ダイちゃんは?」
「俺はちょっと離れてるとこなんですけど『カッパとる』です」
「ヒロミちゃんは?」
「小さいときは『カッパはまる』だったわ」
みんなの答えを聞いてから、タケルは全員の顔をみて話を続けた。
「こんな感じで河童と関係ある単語になっているところって北海道とかにもあるけど多くはない」
「河童が身近ってこと?」
「その上に、すごく言語感覚が近い田舎のエリアで言葉が分化されているのは珍しいと思う」
「どういうことすか?」
「単語って意味が通じてこそ価値があるんだけどね、狭い地域で言葉が違うときってその場所で事件があったんじゃないかと思うんだよね。それも河童がらみで」
…納得いくような、いかないような。全員が同じ気持ちだったんじゃないだろうか。
「あ、もちろん俺の想像、妄想だよ。
たださ…この地域では河童のことを水虎って呼ぶんだよ、そして虎の最大の特徴って背中に模様があることなんじゃないかな」
…タケルの表情がいつもより真剣味があったように見えた。
ご覧いただきありがとうございます。
タケル、河童について語ります。




