あの思い出は河童だったのかも 1
今回もヒロミちゃん登場
ヒロミちゃんと再開してから、僕の休日は少し充実している。
別に恋愛関係とかそういうことはないし、むしろタケルにその確率が高い。
そのほかの部分で僕の中二スピリットを満足させることが多いからだ。
夏祭りが終わり、お盆が終わると北国は涼しくなってくる。
タケルだけは稼業を継いでいるから夏休みらしい夏休みは無かったけれど、僕は夏祭りの手伝いや墓参りや、工場の仕事では感染症の影響で出勤調整などがあり、あっという間に8月も終わろうとしている。
ヒロミちゃんとは「西の果て」と僕が日本語訳しているスナックで、タケルと3人で飲んでいた。
そのとき、ママが「ガット君、うちらの仕事手伝ってみる?」と言い出した。
あれ?秘密組織みたいな任務じゃないの?俺、撃たれて死ぬとかイヤなんだけど。
でもヒロミちゃんの前だし、落ち着いたオトナのオトコを演出するのだ。
「ど、どんなおてちゅだいでしょうか」
…既に噛んだ、1噛み。
「緊張しなくていいわよ、資材の運び込みと運転、同行者みたいな感じね」
「危なくないんですか?その…スパイ的な」
「あはは、ガット君は想像力が逞しかったもんね。その心配はないわ」
ヒロミちゃんも
「今回は私の助手だから、出来たらガット君にやってもらえたら助かるの」
…そう言われて断るガット君は世の中にいない。即OKだ。
「そういうことなら、いつでも大丈夫です!どこでも行きましゅ!」
…また噛んだ、2噛み。
「どこでもって言っても隣の町よ。そこの溜め池の調査。ガット君の休みの日に付き合ってくれたら助かるんだけど…お昼ご飯おごるわ」
「ヒロミちゃん、ガット君にはギャラも出すからね」
「それでもお昼ご飯くらいはおごるわよ、ママ。今回のギャラ、大きいもん」
「…やっぱり僕、撃たれたりするの?」
「もー、そんなんじゃないってば。大きな予算が付いてるの。調査と言ってもハズレな対象も多いから気楽なものだと思って。気にしないで」
タケルがボソッと付け加える。
「ひょっとして、それって湖底の探索みたいなやつ?」
「えー、なんでわかっちゃうの?まだほとんど話してないのに。タケル君すごいね」
ヒロミちゃんも目をまん丸にして驚いた。
「…俺も行っていいかな、ギャラはいらないから」
「タケル君のお仕事に迷惑にならない様なら、より助かるわ。ふつうは4人くらいで調査するの。3人なら安心だもの」
「そうね、ガット君とタケル君の都合が良い日が良いわ。ギャラは出すわ」
ママもそう言ってくれた。撃たれる心配もない。
しいて言えば当日にリア充爆誕を目にするかも知れないこの身の悲しさ、くらいだ。
__
内容はこういうことだった。
隣町の溜め池は元々から水がある場所で、完全な人工物ではない。
そこに霊場のポイントがあるのかも知れないから、そこを探すということ。
探すといっても、ポイントが目に見えるわけではなくて、ポイントがある確率が高い地形かを調べるらしい。
…ん?どこかで似たような話したような。
タケルは落ち着いたもので、
「河童でも探すんだろうな。竜神かもしれないけど」
とサラッという。ヒロミちゃんも
「そういうことよー!さすがタケル君、話がはやい!」
タケルの背中をバンバン叩く。君たち、とっくにそういう関係に進行したの?
タケルはニヤニヤして、ママに尋ねる。
「ママ、もう一人いてもいいんだろ?ダイちゃん、連れて行っていいかな」
「いいけど、詳しいことは言えないわよ」
「もちろん。とりあえずダイちゃん呼ぶね」
タケルが電話をかけて、15分もしないうちにダイちゃんがやってきた。
「お久しぶりっす。ちょうど友達と飲んでて1次会がお開きになったところで」
「そっちの用事は抜けて大丈夫だったの?」
「はい、同級生とかですし。みんなタクシー呼んでました」
ダイちゃんいつも通り明るい。僕と違って友達も多いんだろうな。
「タケルさんとガットさん、いつものメンバーに…」
「ああ、紹介するよ。小学校の同級生でヒロミちゃん」
「ヒロミさんですね、ダイです。よろしくお願いします。」
「ヒロミです。ダイちゃんって呼んでもいいの?」
「オッケーです。みんなそう呼んでるんで」
「じゃあ乾杯ね」
…ヒロミちゃんとダイちゃん、なんかうちとけるの早いな。
「で、タケルさん。面白い話ってなんすか?」
ダイちゃんがビールをひと口飲んでからタケルに聞いた
「この前のマタギの話、あっただろ?俺たちも竜を見られるかも知れないぜ」
「そうなんすか?タケルさんが言うなら信じられちゃうんすよね」
「で、荷物持ちを手伝って欲しいんだけど、休み取れる日とかあるかな」
「今は週末ならいつでもオッケーです」
ヒロミちゃんとママが少しだけ、話について来れていない。
僕がそれを補うためにダイちゃんに話を振った。
「ダイちゃん、マタギの話をもう一度してくれないかな」
「そうっすね。信じてくれる人はほとんどいないと思うんですけど…」
ダイちゃんは伝説の話だから…と話し始めたが、ダイちゃんの話を信じない人間がここにいないことをダイちゃんだけが知らない。
ご覧いただきありがとうございます。
ダイちゃん、愛嬌あるから好きなんですよね。




