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オッサンでも地味に暮らしていても能力はある 2

酒飲みの話はくどい…のかな

 少しだけ、この町の話をしよう。


 雪国に定義があるのかはわからないけれど、僕が住んでいる場所よりも南にも雪国と呼ばれているところはあるし、雪国と言って差支えはないだろう。個人的には吹雪の町だと言いたいけれど。


真冬には吹雪も起きるし、積雪の観測地点としても有名なところもこの管理地域、以前の「県」にはある。


()()()以降は「管理地域」という言葉になったけれど、ほとんどの大人は「県」と言っている。管理地域の下に「管理区域」がある。これが郵便番号の上3桁を使用している。


()()()のときに必要な物資を地方に送る際に、ちょうど便利だったと聞いているが、詳しくはわからない。有名な大学の先生が提唱した、としか記憶にもない。


 この町のコードは「02037」だ。

知っている人もいるかもしれないが、旧青森県の津軽地方にある、人口は5万すれすれの田舎町。


そこで僕とタケルは育った。

小学校のクラスも一緒で、好きな漫画も同じだったし、町内も一緒だったから夏祭りも一緒だ。

そんな小さな町の小さな出来事だから、華やかな話はこれといって聞かない。


僕はこの町でとある工場の事務職をしている。地味といえば地味な仕事だ。

独身で自由な時間もあるけれど、つまらない町で一生を過ごすのだろうなと思っていた。


…タケルがちょっとした能力を持っていると知らなかったら。

__


「さて、改めて今日のことを教えてくれないか?」


モヒートに口をつけた僕はタケルに催促した。


「ガット、いつものように大したことでもないんだ。

 ただ、このバーにもある()()()()のことなんだ」


()()()()と僕たちが呼んでいるのは、今ある空間の中に時々見つける隙間のようなものだ。


僕には見えないけれど、タケルには見えるようで、見えるだけの人間もいるけれど、ポケットの空間に介入できるのは少ないとタケルは話している。


「へえ、新しいポケットだったのかい?」


「いや、川に近い飲み屋街の近くに井戸みたいのがあるだろ?あそこのポケットだ」


「タケルが教えてくれた、あそこだろ?なにがあったんだろう」


「今日、お昼前くらいかな。小さな女の子がポケットに足を挟まれて泣いていた」


 ポケットに介入できる子供がこの町にもいることがわかった。

僕にとっては少し意外だったのだが。


「珍しいな。その子はポケットに介入する力があるってことだろ?」


「そういうことになる。ただ、介入できてもいいことは特に無いし、小さい子にとっては見えない落とし穴みたいなものだから、怖いだけさ」


 ポケットは空間なので見えるだけなら手も出せない。更に介入できる人間は、その中に手を突っ込むことも出来るから、事故も起きやすいみたいだ。


「それで、君はどうした?」


「足を外してやった」


「近くに親はいたのか?」


「うん、いた」


「ポケットのことはバレたということか?」


「いや、ポケットの場所が井戸の付け根部分だったから、親や周りの人から見たら付け根に足が挟まったように見えただけだろ」


僕は少し安心した。ポケットがあると言われても、ほとんどの人間は見分けることも出来ないし、指でつついたところで、中には入れないからだ。


そして、僕が心配していたのはタケルがポケットに介入できることが世間に知られることだ。

こうやって静かに暮らしているけれど、タケルの能力がバレるのはタケル自身が望んでいないからだ。


「それなら安心だ。女の子にケガはなかったかい?」


「うん、擦り傷とかもなかったからな」


「もし君がいなかったらどうなっていた?」


「多分大丈夫だっただと思う。俺が介入できたのはたまたまだったとしても、感覚的には引っこ抜くのに近いからな」


「じゃあ、無視してもよかったのかな」


ちょっと冷たいが、タケルの不幸と女の子の不幸を僕は天秤にかけるような言い方をした。


「そうはいかないさ。俺だって小さいときに助けてもらったからな」


「ああ、前に聞いたよ。用水路に落ちたときのことだよね」


「うん」


「…ここまでの話だけなら、たまにあるポケットの話だけど…」


「そうだな。で、ポケットの奥のほうに懐かしいものがあった」


「面白いものだったのか?」


「壊れちゃってたんだけど、ヨーヨーがあった」


「誰かが隠したのかな?ていうか、どれくらい前のものなんだ?」


「…スーパーヨーヨーだった」


「え。スーパーヨーヨー?井戸の近くで?」


スーパーヨーヨーというのは、今でこそ当たり前なのかもしれないが、僕たちが小さいときにちょっとしたブームになったヨーヨーだ。

糸と本体が固定されていなくて、伸びきったところでヨーヨーが空回りできるタイプのものを、僕たちはスーパーヨーヨーと呼んでいる。


 僕が気になったのは見つかった場所のことだった


「君が無くしたものだったとかじゃないんだよね」


「さすがにそこまで出来すぎた話じゃないんだけど…」


そう言って、タケルはカウンターの上にコトリとヨーヨーを置いた。


「名前が彫ってあるね。…ケンジ、ケンジってあのケンジか?」


「わからないけど、可能性はあるから今日呼んだ」


「ケンジとはよく遊んだけど、転校しちゃったしな。けど、あいつもポケットに介入できたかも知れないってことか」


「あいつ、口下手なところがあったからなあ」


「懐かしいな。どうしてるんだろう、ケンジ」


僕がそういうと、タケルは彼の席のテーブル下にある()()()()にヨーヨーをそっと隠した。

ご覧いただき、ありがとうございます。

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