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転校生は美少女で能力があったような 5

ヒロミちゃん、登場です

 今日最大の後悔は、シャワーを浴びないでこの店に来たことかも知れない。

僕はちょっと緊張している。初恋の転校生、僕のプリンセスなヒロミちゃんがもうすぐこの店に来る。


「タケル、僕ちょっと緊張してきた」


「なんで?緊張ってガットには似合わないだろ?」


「だって、小4で転校して以来なんだよ、俺オッサンだし。ガッカリしないかな」


「お前がオッサンならヒロミちゃんだってオバチャンかもしれねえじゃん」


「ヒロミちゃんがオバチャンなわけないだろ!」


「いやいや、時間の流れってのは平等だよ。ヒロミちゃんがランドセル背負ってきたらそれこそホラーだぜ」


 タケルという人間は、ロマンの余地というものを感じ取れない人間なのだ。

ランドセルを背負って来いと言ってるんじじゃなくて、キラキラしたヒロミちゃんでいて欲しい、そんな気持ち解ってくれよ。いや、解れ。


「別に今でもかわいいし綺麗な子よ、ヒロミちゃんは」


ママの言葉に少しだけ安心する僕。 …安心ってなんだ?

__


ドアの開く音がした。僕はドキドキして入口の方を見ることが出来ないから、気が付かない振りをしてビールを喉に流す。


「こんばんは」


あ、ちょっと聞き覚えのある声だった。少しハスキーで、けど低い声じゃなくて。

間違いない、ヒロミちゃんだ。ヒロミちゃんだよ、おい、タケル。

僕はヒロミちゃんに目線を向けることが出来ない代わりにタケルの方を見た。


「おー、ヒロミちゃん。数十年ぶりー。変わらないね」


タケルは相変わらず間延びした声でヒロミちゃんに声をかけた。


「タケル君とガット君?懐かしいわ。お久しぶり、お元気そうね」


以前のヒロミちゃんより元気な声だった。

安心した僕は、初めて気が付いたような振りをして、ヒロミちゃんの方を向く。

ヒロミちゃんの笑顔は健在だった。少し控えめで優しい笑顔だった。


「ひ、久しぶり。この町にいたんだね」


やっとのことで言えたセリフも声がひっくり返ってしまった。


「うん、転勤してきたの。ママ、私もビールお願いします。タケル君、隣いいかな?」


「うん、何十年ぶりの隣かなー」


ヒロミちゃんは僕の後ろを通り過ぎて、タケルの隣に。

タケルも嬉しそうにヒロミちゃんを見ている。


「そうだよねー。タケル君大きくなったね。私は相変わらずで大きくならなかったよー、ずるい」


「そんなことを言われてもなあ。でも、普通の身長じゃん。俺たち身長のことは悩んだもんね」


タケルはわざわざ席から降りて、ヒロミちゃんの身長を確認した…仲が良かったんだな。


「ヒロミちゃんの噂話で盛り上がってたわよ、このガキども」


「えー、どんな話?身長の話とかじゃないよね、まだコンプレックスあるんだからやめてー」


ママは笑いながらヒロミちゃんに話し、ヒロミちゃんも明るく笑っている。

タケルがヒロミちゃんに頭を下げた。


「ごめん。あの話…しちゃった」


「あ…話しちゃったんだ。こら、もう。でも許す、会えたからね」


「ありがとう、許してくれるかなーと、ちょっとだけ思ってたよ」


()()()の前だったら、ちょっと怒ってたかも。でもあの後だから、いいよ」


…?? 大災害の前ならダメで、後ならいいの?ちょっとわからない。


「え、それってどういうこと?」


「あ、あたし今は教育関係の仕事しているんだけどね。大災害のときは太平洋側の学校で先生してたの」


「そうか、大変な思いをしたんだね。」


「そっかぁ、ヒロミちゃん先生になりたいって言ってたもんね、おめでとう。嬉しいよ」


タケルの自然に明るく言える性格、俺にもくれ。それも能力なのか?


「うん、ありがとう。大変だったんだけど、大災害以降は教育関連でも違う仕事になったの」


「どんな仕事になったんだい?」


「僕も気になる」


ちょっと身を乗り出して、ヒロミちゃんにアピールする僕。我ながら滑稽なポーズだ。


「今はチルドレンの調査官と臨時教員をやってるんだ」


…そのとき僕はコップを持っていなかったけど、持っていたら3回目の記録を達成しただろう。

ご覧いただきありがとうございます。

ヒロミちゃんの意外なお仕事。ちょっと気になります。

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