転校生は美少女で能力があったような 4
ヒロミちゃん情報
「いくつか疑問があるんだけど」
僕はちょっと気づいたことを話してみた。
「ヒロミちゃんが能力…能力だとして、それを隠す気持ちはなんとなくわかる。
それと君だけに秘密を打ち明けたかった気持ちもわかる。
ひとつ目の疑問は、ヒロミちゃんが能力をいつ頃発動したのか。
それは聞いた?」
「聞いた。何歳ころに出来るようになったの?って。わからないけど、学校に入る前に少しできてたって言ってた。入学式のときにちょっと飛んでみたら失敗して、タイツに穴が開いて叱られたって言ってたからな」
「二つ目の疑問は、ジャンプなしで急に浮かないのか?ということだけど」
「それもわかんない。陸上選手だって助走ってあるじゃん。
段々加速するは助走なのか儀式なのか、ヒロミちゃんもわからないと思うよ」
「そうか、最後の疑問だ。ヒロミちゃんがいくら小さくても体重って10キロはあるよな」
「…そこなんだよ。俺も今まで話さなかったのはさ、想像を超えているレベルだったからだよ」
「もしかしたらヒロミちゃんが10kg級の念動能力があったかも知れない?」
「うん、だとしたらチルドレンの中でもかなり特別なクラスってことなんだよね」
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予想はしたものの、想像を超えている情報に僕は次の言葉をつなげることができない。
大量に発動したチルドレン。そのクラスを超える人間が生まれる確率は低い。
なにか今までの常識と異なる要因があると考えるのが妥当だろう。
しかし…しかし…今日はそれ以上は頭がまわらない。
こんな時は話題を気楽なものにして飲みなおすに限る。
タケルもこれ以上の考えはまとまっていない様だったし、二人とも追加のビールを注文する。
「しかし暑い日だったよね」
なにが『しかし』なんだか解らないけど、こういう時は『しかし』に頼る僕。
「なにが『しかし』なんだか解からないって顔してるぞ」
…タケルはこういう時に限って容赦がない。
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会話の沈黙を打ち消そうとしてか、ママが話題を振ってくる。
「同級生の女の子の話だったの?初恋だったとか?いいわねえ…あたしにもあったのよ、初恋」
「ママの初恋って、同級生だったの?」
「まあね。田舎の初恋って小学生なら大体同級生だった気がするわ」
「ママのクラスのアイドル的な存在って誰だったの?」
「ヒロコちゃん。美少女だったわよぉ。お母さんも美人だったし、お父さんも背が高くてかっこよかっ
たわね。生まれるべくして生まれた美少女だなって思ったもん。」
「ママは僕たちの小学校の先輩なんだっけ」
ママがいうにはヒロコちゃんのお父さんは公務員で転勤族。
ヒロコちゃんがこの町に戻ってきたのは高校三年生のときだそうだ。
美少女が美女になって帰ってきたから、町中の若者の憧れとなったらしい。
「へー。そのヒロコさんは、連絡取れたりするの?年賀状とかで」
「ううん。電話番号知ってるし、隣の市に住んでるもん。大学病院のお医者さんの奥様よ」
「ありがちと言えばありがち過ぎるんですけど」
「違うのよ、彼女も医学部に入って、そこで知り合ったの」
「すごく優秀だったんだね」
「そうよ、才色兼備ってこのことだなって。天は二物を与えることもあるのね。
でもね、ヒロコちゃんは小学校のときはお勉強が特別できるとか、そういうタイプじゃなかったのよね」
「そうなの?急に勉強し始めたのか」
「そうね。9歳下の妹さんがいたのよ。体が弱くて、その子の病気を治したくてお医者さんになるって」
「9歳下って、僕たちくらいか」
「そうよね。さっき聞いちゃって、偶然かも知れないんだけど名前がヒロミちゃんって言うのよ」
…ビールのコップが手から滑り落ちて、カウンターで転んだ。
タケルはあーあー、仕方ねえなと言いながらおしぼりでカウンターを拭く。
ママの話と僕たちの話をすり合わせると、やはりヒロミちゃんというのは同一人物だ。
「そういえば、ヒロミちゃんがお姉さんがいるって言ってたかも」
「えー、えー、こういう偶然ってもう少し驚くもんじゃないの?ねえ?」
「偶然は偶然だよ。けど気分は良いもんだな」
「え?タケルは気にならないの?ヒロミちゃんのこと」
新しいコップにビールを注ぎながら、僕は興奮を隠せない。
「元気なら嬉しいよね。ママはヒロミちゃんとは会ったことあるの?」
「まあね、ヒロミちゃんは可愛かったわね。あ、ちょっと待ってて」
ママは厨房はバーカウンターの内側を歩いてカーテンの奥の厨房に入った。
ここの店は客が飲んでいる途中に季節の果物を出してくれたりするから、スイカかメロンでも出てくるのかなと思いながら、僕とタケルはビールを飲む。
「あんたたち、あと20分くらい飲んでいけるでしょ」
「うん、どうしたの?」
「ヒロミちゃん、来るって」
…僕は生まれて初めて、1日に2回ビールのコップを落とした。
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ヒロミちゃん、いたの?




