転校生は美少女で能力があったような 2
ヒロミちゃん、可愛かったんですね
「ヒロミちゃんが?」
僕はタケルの熱がこもったような視線に少し圧倒された。
というか、リアルに少しのけぞった。
「いま思うと能力があったのかも知れない」
「え、なんで?なんで今?というか、そんな関係だったの」
「いや、多分お前が想像している関係とかじゃない。ヒロミちゃんって3年生で転校してきて4年生で転校していったし。その後のことも知らないしな」
たとえ何十年経ってもクラスのアイドルというかプリンセスというか、その子と仲が良かったんだよな、タケル。
軽く嫉妬くらいはさせてくれよ、タケル。なんで僕の中二スピリットをポキポキ折るんだ、君は。
「…まあそうだよな。中学とか高校でも会わなかったんだから遠いところに転校したんだろう。
女子に仲良かったのがいたとしても、音沙汰を聞き出す程の男子もいなかったかもな」
「クラスのアイドルだったのかな、ヒロミちゃん」
「なに言ってるんだよ、クラスの全員が隣の席を狙ってたんだ」
「それって、なんとかファイブの歌じゃない?」
歌のタイトルさえ年齢を感じるようになったんだな、僕も。
「いや、ずっと君だけ隣だからうらやましかった。これは本当にうらやましかった」
「先生が決めたことだしな、体育でも先頭で隣だったし」
「それも。うらやましかった」
「いやいや。体育とかで『前へならえ』するときに腕を前に伸ばせなかった人間のツラさをお前たちは理解しない」
「そのツラさを共有していたとは。それもうらやましい」
「…お前、今日バカだろ」
…ちょっと落ち着こう。そうだ、熱くなる必要はないんだ。
彼女は過去のプリンセス、目の前にいる訳でもこれから会える訳でもでもない。
「ごめん、落ち着いたよ」
「そう、なら良かったよ。なんか飲むか?」
ビールが空になっていた。同じものをママに頼んだ。
ちょっとこれから喉が渇きそうな展開だな…
タケルはビールをコップで2杯目か、落ち着き具合では今日の僕は惨敗だな。
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タケルは思い出しながら話した。
「俺もヒロミちゃんも遊びの中に入るタイプじゃなかったから、公園にいても隣で遊んだりしてた」
「どちらかというとおとなしいタイプだったしね。君たちは」
「ヒロミちゃんもミニカー、見てたんだよ。どう思っていたかはわからないけど」
「普通なら珍しい動きのするオモチャって印象だもんね」
少し間があいて、タケルが続ける。
「秋の遠足って、山の方だったんだよ。鉄道で出かけたの」
「そうだっけ、ストーブ列車の鉄道だったのだけ憶えてるよ」
「そのときも背丈の順で歩くから、俺とヒロミちゃんはコンビなの」
「…今更だけど、ちょっとうらやましい」
「で、昼ごはんも班とか作って食べて、少し遊んだんだよ」
「そうなんだったっけ」
「俺たちは先生と一緒だったのね。ヒロミちゃん、ちょっと体が弱かったのかな。
保健室の先生も近くにいたよ」
「そうだったかも。体育のときもよく見学してたもんな」
思い出した。ヒロミちゃんは体が弱くて、よく早退もしていたな。
給食で一つゼリーやプリンが余ったら、大体ヒロミちゃんのだった。
「うん。で、いつも隣に俺を置いてるのも、出来るだけ安心して隣にいさせられるからだったかも」
「確かにタケルって誰に対しても攻撃的な態度を取ったことないから安心できたかも知れないよね」
「俺的には臆病の結果だったんだけど、ヒロミちゃんも似ているところがあってさ」
「なんかノロケているように思える。いや、僕の目が汚れているだけだ。続けてくれ」
「女子も遊ぶのに忙しいんだよね、遠足の日はさ。俺もみんなとは遊びたいんだけど、そうするとヒロミちゃんをひとりにしちゃうから、ちょっと気分が乗らないフリをしてさ。そばにいたんだよね」
「紳士的なのか、天性のなにかを感じる」
「もうそういうのいいから。ヒロミちゃんはヒロミちゃんでしかないよ」
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落ち着いたと思っていたけど、嫉妬というか変なワクワクというか…僕は全然落ち着いてなかった。
「すまなかった、タケル。今度はちゃんと聞くから続けてくれ、お願い」
そういうと、タケルは軽くうなずいて、改めて話始めてくれた。
「これって、ちょっと信じられないことだから黙っていたんだけどさ…」
タケルが信じられないことって、いったい…ヒロミちゃんが?
僕は嫉妬と中二スピリットが交互に浮上する心持ちだ。
「…と思ったら俺もビールが空になった、ママおかわり」
…うまくかわされた。いつからそんな話芸を身につけたんだ、タケルよ。
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ヒロミちゃん、どうした。




