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オッサンでも地味に暮らしていても能力はある 1

北国に住む中年のオッサンが飲みながら話していることをダラダラと書き留めています。

 <巨大な灯篭(とうろう)が町中を歩く>

 それが、僕たちが住んでいる町の定番アピールポイントだ。


 ()()()以降に国が各地域に管理コードを割り振ってからおよそ10年が経過した。


 時の政権が国民からそっぽを向かれたのが大災害の翌年だった。

理由はいろいろあった。国民の声を一向に聴こうとしないとか経済対策の失敗と隠ぺいとか。


その時に弱小政党が一気に各地の選挙で逆転をして、連立政権ながらも与党となった。

しかし手持ちのリソース不足などから災害の爪痕への対応に人手が回らなかった。


 そこで苦肉の策として都道府県の番号と郵便番号を使うのが地方の物流支援に使えると、どこぞの学者が唱えた。これが管理コードだ。


僕たちが住んでいる町にもコードはあるが、北国のコードは一般的に若い。

それはそうで、北海道は01、青森県は02、といった都道府県コードを採用しているからだ。


 これは日本の北国にある田舎町の話だ。


田舎町なので、大きな事件とも華やかなイベントとも縁遠い地味な街だ。

この町は人口5万人がやっとの「市」で、特徴と言っても夏祭りで観光客が来る以外は目立つイベントもない。


そんな街にも、ちょっと変わった経験を持つ人間はいる。

その一人がタケルという名前の、どこにでもいそうなオッサンだ。

どこにでもあるような些細なことだが、少し話を聞いてみてくれないか。

__


 ああ、僕はガットと呼ばれている。タケルとはガキの頃から一緒に遊んでいる幼馴染みだ。


 若い頃に数年間、いや10年ほどタケルとは別の土地で過ごしていたが、なにかと相性がいいのか毎年のように会っていたからか、タケルのことは大体知っているつもりだし、たまにバーでウイスキーを飲みながら、とりとめのない話をしている。


そんなバーでの話を書き留めておこうと、いま自宅で酒を飲みながら書いている。

__


 あれは、北国にも夏の気配が近づいてきたな…と思える日のことだった。


 6月も後半になれば夏祭りの準備に忙しい町内会もあったものだが、今年はなんだか妙な病気が流行っていて静かなものだ。学校の夏休みも近づいているけれど、子供たちは走り回っていない。


飲食店も閑古鳥が鳴いて、それでも小さなバーは静かに営業している。


 タケルから「暇なら飲みに来ないか」と電話があって、いつものことだがシャツを着替えて出かけた。飲みに行くときは仕事のことを思い出さないようにシャツだけは替えていくのが僕の習慣なのだ。


 今夜タケルに呼び出されたバーには宝石の名前が付いている。

カウンターに椅子が7つか6つか、狭いがカクテルが美味い店だ。若いバーテンダーも勉強熱心なのか、得意のカクテルならマスターに任されている。


夏のことだ、僕はモヒートを注文した。来る途中にミントの香りが恋しくなったんだろう。


注文を終えたら、いつものようにタケルに声をかける。


「なにかあったのか?」


タケルはちょっと思い出すように


「…なにも起こらなかった」


とだけ答えて、目の前のビールグラスに口をつけた。


「おいおい、なにも起こらなかったのに呼び出したのか?」

「うん、今日はなにも起こらない、そして良い日だった」


タケルにはちょっと勿体ぶるクセのようなものがあるのだが、ガキの頃から変わらない。


「ということは…なにかが起こりかけた?」

「そういうことだな」

「で、それを聞かせるつもりだったんだろ?」

「そうだな、忘れちゃう前に話したいかな…そう思ったんだ」


僕は、タケルの忘れても構わないような話に付き合う羽目になったようだ。

だが、それはそれで僕には面白い時もあるのだから、タケルは不思議な奴だ。

そこに冷えたモヒートが僕の目の前にやってきた。グラスを鼻に近づけるとミントが香る。


「それでは、聞かせてもらおうかな」


と、僕はタケルに向かってモヒートのグラスを軽く持ち上げ、ひと口流し込む。

ミントの香りが鼻の奥に届き、下の上ではライムの酸味が踊る。僕にとっては夏のカクテルの代表格だ。


僕とタケルが隣に座って、二人が酒に口を付ける。

これがタケルとの会話が始まる儀式のようなものだ。

ご覧いただきありがとうございます。

もし気に入ってくれたら読んでいただけると嬉しいです。

そして、万が一評価をいただけたら励みになります。

不定期になるかもしれませんが、チョコチョコ書いていく予定です。

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