彼女の名は
3部作の最終章となります!
13年前に知り合い、仲を育み‥そして別れた。
二人の距離は離れてしまった‥‥と思っていた。
だが、そんな二人がバレンタインデーの日に再会し、
ホワイトデーの日に再び、距離が近づいた。
互いに互いを認識してることをあらためて実感したのだった‥‥‥
そんな二人の物語には、まだ続きがあった。
ーーーー「如月、文乃です」
13年越し
そんな長い期間振りに出会った彼に私は名前を告げた。
俯きながら、彼と目を合わせるのをまたやめてしまった。
何故だか緊張している‥胸の鼓動が早くなっているのを感じる。
ドクンッ
「‥如月‥文乃‥ちゃん」
彼が静かに一言だけ声を発する。
その声を聞き、ゆっくり‥‥彼に気づかれないようにゆっくり、と視線を上げる。
すると、そこには微かに笑みを浮かべている彼の姿があった。
「‥うん、やっぱり‥子供の時に聞いてなかったんだな。だってこんなに素敵な名前にこんな素敵な人、忘れるわけない」
素敵な名前、素敵な人
ずっと前から好きだった人に言われた言葉。
その言葉を聞き、私の胸の鼓動は更に早くなるのと同時に、
顔がだんだん火照っていってるのがわかった。
ドクンドクンッ
「あ、俺も‥あらためて言うね。下の名前は言ってなかったし‥俺は」
「高橋、大樹‥くん」
「‥え」
少し驚いたような顔で、彼は私を見つめた。
名字だけではなく、名前も知っているのは少し驚いたのかな‥
でも、それこそ先程の彼の言葉‥いいえ、高橋くんの言葉を借りるなら、
忘れるわけなかったです。
「初めて会ったとき‥自己紹介してくれたんです。‥私もしたんだけど、声が届かなくって‥‥」
「あー。そういやそうだった‥‥‥って、え!?本当にごめん‥‥俺ガキの頃は本当に単なるうるさいバカだったから‥‥」
あの時から緊張しいな私は、初対面の彼の元気さ‥それに圧倒されてしまいました。
ーーーー13年前‥初めて会ったあの日
文乃は例の秘密基地で、隅っこに一人ぼっち座っていた。
そんな文乃を見かけると、普段見かけない子だったからか、
物珍しそうにニコニコしながら、文乃のもとに幼き頃の大樹は駆け寄ってきた。
"「ねえ!きみのなまえ、なんてーの?」"
生え変わりなのか、前歯が抜けて少し舌っ足らずのような喋り方。
その声色には一切の曇りはなく、子供ながらの興味本位で質問をしていた。
"「あ、えっと‥‥‥」"
恥ずかしそうに、緊張した面持ちながら必死に答えようとする。
なかなか声が出ず、もじもじしていると、大樹は幼い子供ながらの好奇心からか、重ねるように質問をする。
"「ねえ、きみのなまえは?おしえてくれないの?」"
"「あ、ごめんなさい‥‥え、えと、あやの‥です‥‥」"
謝る言葉から段々と、尻すぼみに声の音量が下がっていく。
文乃は名乗ったものの、その声は大樹には届いていないようだった。
"「え?わかんなかった。なんてなまえ?」"
"「あ‥あ、あの、あやの‥です‥‥」"
もう一度名前を言う。だが、大樹の反応は先程と変わらないようだった。
"「うーん‥‥わかんない。まあいいや!なんでも!!ねえ、ひとりじゃつまらないでしょ?いっしょにあそぼうよ!」"
"「えっ‥‥」"
初対面の文乃の手を握り、引っ張り上げる。
そのまま引っ張られ立ち上がった文乃は、大樹の行動と言動に驚きを隠せずにいた。
"「いいの‥‥?」"
"「もちろんだよ!ここにきたものはみんななかまでともだちさ!それに‥‥」"
大樹は言葉を続けようとすると、そのまま何かの特撮なのか、ヒーローポーズを取る。
両手をあげ、足を広げ、ジャンプして着地すると同時にVサイン。
上手く決まったのか、子供ながらドヤ顔をしていた。
"「おれはせいぎのひーろーだからね!せいぎのひーろーたかはしだいきっていうんだ!」"
"「たかはし‥‥だいき‥‥くん‥」"
"「おう!これからいっぱいあそぼうぜ!」"
大樹はそのまま文乃の手をとり、他のみんなが待つ秘密基地の奥に一緒に走っていった。
手を握られ、引っ張られる文乃。その時の文乃が浮かべていた表情は驚きの表情から、少し顔を赤らめつつもとても嬉しそうな笑みに変わっていた。
ーーーー「懐かしい‥‥‥」
当時の経緯を話した文乃は、少し感慨深く浸っているようだった。
だが、それは話を聞いていた大樹も同じだった。ただただ懐かしく‥楽しい思い出だったと‥
「懐かしいね‥うん。本当にあのとき、戦隊モノ大好きだったからなあ‥‥ごめんね、ちゃんと聞いてなくて」
「あ、ううん‥‥気にしないで。‥それに、ようやく今日言うことができたから」
文乃は自然と笑みを浮かべていた。
その笑みは、周りのイルミネーションなんか霞むくらいに‥
眩しく‥素敵な笑顔だった
「‥‥」
大樹は思わず笑顔に見惚れていた。
何も言葉が出なかった。ただただ、その笑顔を静かに見ていたかったのだった。
「‥‥!‥‥あ、あの‥」
ずっと見られていたことに気づいた文乃は、
恥ずかしそうな表情で、大樹の方を向いていた。
「‥‥あ、ご、ごめん‥!」
大樹は即座に頭を下げる。
それに対して文乃も、少し恥ずかしく俯いてしまっていた。
二人共に頭を下げているという、なんだか変な光景が広がっていた。
そのままの状況で少し時が経つと、やがて二人は頭を上げ、互いに少し笑っていた。
「‥‥‥ははは、何だか、おかしいや。こんな夢みたいなこと‥起きるなんて」
「‥‥私も、もう二度と会えないと思ってました」
互いに再び見つめ合う。
確かに目の前にいる。ずっと13年前に出会い、ずっと好きだった相手が‥‥目の前にいる。
だけど、これは夢ではない現実であった。
大樹は再確認するように、ズボン越しから自分の足をつねる。
痛い。しっかり痛い。やはり現実だ。
大樹はそれを再確認すると、確かめなくてはいけないことがあった。
その答えによってはぬか喜びになってしまうかもしれないから‥‥‥
少し重い口を開くと、大樹は文乃に恐る恐る聞いてみた。
また会えて、また離ればなれになるなんて嫌だったから‥
「‥‥もう、日本にずっといるの?」
やや、震えるような口調で呟く。
文乃はその微かな違いを感じ取ったのか、それを聞くと、まるで大樹を安心させるように、微笑みを浮かべながら頷いた。
「うん‥お父さんの仕事がまた日本での仕事になったので‥‥。それに、もう高校生にもなったから、私の生きたいように生きなさいって言ってくれて‥」
そう告げたあとに文乃は一歩前へ出て、大樹に近づくとそのまま言葉を続けた。
「‥‥また、よろしくお願いします」
「‥!!‥‥こちらこそ、よろしく!!‥文乃ちゃん!!」
そう言って大樹は先程と違い、今度は真正面から抱き締める。
思わぬ行動に、文乃は驚きを浮かべ、突然抱きしめられ顔が真っ赤になっていた。
だが、その表情も束の間‥‥文乃は目に涙を浮かべながら、とても嬉しそうな笑顔に、やがて変わっていた。
「プレゼント‥本当に嬉しかった。あの水晶は‥どうして?」
「‥‥噂に聞いたんです。高橋くんが、ケガをしてしまって‥‥とても苦しんでる‥って聞いたから」
渡した相手が幸せになる
妹の唯が言っていたのは本当だったようだ。
文乃は大樹のために、大樹を元気づけるため、思いを伝えるために手作りのチョコとあの水晶をプレゼントしてくれたらしい。
「ありがとう‥文乃ちゃん。‥俺、これから色々頑張るから」
「‥‥‥‥うん、嬉しいです。また元気になってくれたら‥嬉しいです」
文乃はまた微笑みを浮かべる。
大樹は力強く頷くと、再び文乃を抱きしめた。文乃もそのまま大樹に身を委ねたのだった。
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