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後編

 

 そして迎えたパーティー当日。


 私をエスコートする男性は当然の如くいない。

 ちなみに陛下はまだオレール様に婚約破棄の件を告げてないらしい。

 私の最後の茶番劇に付き合ってくれるそうだ。

 自分の息子の破滅(茶番)劇なのに何だか楽しそうなのが伝わって来る。


 なので、一応、表向きオレール様はまだ私の婚約者。だから、本来なら私をエスコートするはずなんだけど……。


 きたきた、ピンク猿軍団。

 ピンクのふわ髪にピンクのふんわりドレスにピンクのアクセに頭の中までまっピンク、な女性の周りに交代でエスコートする男性陣。


 アレかな?

 仲良くハーレム作りました状態かな?

 私もピンクを纏えば良かったのかしら?


「エルーシャ様にはピンクは似合わねぇよ」

「わぁっ!」

 後ろから不意打ちで肩に顎を乗せられて、全身が跳ねた。


 振り返ると、そこには正装したルクがいた。


「深い宵闇のようなドレス、よく似合ってる。あんたのその絹糸のような髪と合さってまるで月の女神のようで綺麗だ」


「ど、どうも……」


 めったに褒められた事無いからどぎまぎしてしまう。

 それに貴族みたいな言葉を使って……。

 ルクのくせにっ!なまいきだぞ!


「お手をどうぞ、お嬢様」

 うやうやしく手を差し出されたら、淑女たる者重ねるしか無く。

 重ねた手を取り、ルクはにやりと笑った。


「陛下の命令で、エルーシャ様をエスコートしろ、ってさ。じゃ、行こうか?」


 その物腰の良さにまだ驚きを隠せないでいるのだけど。

 ルクはスマートにエスコートしてくれた。


 ルクを伴い入場すると、猿軍団の元婚約者の方々とすれ違い様に挨拶をした。


 彼女達もそれぞれ別の男性にエスコートされている。

 みな一様に女性を丁重に扱っていてホッとした。

 心無しか楽しそうだし嬉しそう。


 私もちらりとルクを見てみる。


 いつもは軽い服装なのに、きちんと正装したルクは意外にもカッコイイ。

 年は私より上に見える。

 黒い髪に草原を思わせる瞳。

 鍛えている身体もしなやかだ。


「……あんま見つめないで…」


 あらやだ、私ったらルクを凝視してしまってたみたい。

 ルクは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。


「ご、ごめんなさい…。穴が開くわね……」


 訳が分からない事を言ってしまったわ。

 するとルクはふっ、と笑った。


 きゅーーん。

 赤い顔して笑う年上男性とかえっ、かわいい……。

 そう思ったら、ドキドキが止まらなくなりました。

 何この気持ち。

 もしかして、もしかして。

 これって、こ「エルーシャ・ラインフェルト公爵令嬢!!」


 どこかから私を呼ぶ無礼な声がするわ。

 私は隣にいるルクに目配せした。ルクも心得たとばかりにスッと離れ、所定の場所へ行く。


 最後の茶番劇の始まりね。


「ごきげんよう、王太子殿下」

 私はスッと歩み寄り、きれいなカーテシーを披露した。

 オレール様はそれに一瞬怯んだが、すぐに憎憎しげに私を見下す。

 隣を見ればふるふる震えるピンク猿子。

 後ろを見れば猿軍団。

 私の後ろには猿軍団の元婚約者達。


 上を見れば貴賓席にオペラグラスを持ったオレール様のご両親──もとい、国王陛下と王妃陛下。隣にお父様もいる。

 ルクも無事所定の場所に着いた。


 それらを瞬時に確認して、私はオレール様を見つめた。


 いざ尋常に、ファイっ!!



「そ、そんなに見つめるな……。照れるだろ…」


 すこっ

 オレール様の思わぬ言葉に足がかくんとなりかけた。


「申し訳ございません。……呼ばれたから来たのですが」


 すると猿子がオレール様をつついた。


「んんっ!

 エルーシャ!!きみ……貴様は私の愛しいニナに常に嫌がらせをしていたな!!

 よって、オレール・ソネシアの名に於いて婚約破棄を言い渡す!!」


 猿子に突かれながらオレール様が大声を張り上げた。


「まああぁ、これが噂の婚約破棄の断罪ですのね!」


 あまりにも一言一句、どこかで聞いた事あるようなセリフでびっくりしたわ。

 あれね。市井で大流行りの『悪役令嬢は婚約破棄される〜ヒロインになれなかった令嬢はパーティー会場で断罪される〜』みたいな題名の小説のセリフと一緒なのね。


 と。

 私が素っ頓狂な声を出したせいか、オレール様以下略は呆気に取られた顔をしていますね。


 こほん。


「私、そちらの方に嫌がらせをした覚えが全くありませんけれど……」

 頬に手を添えて首を傾げてみせると、オレール様が何故か顔を赤くする。


「そっ、そんなかわいい仕草をしても、エルの罪は消えないんだからな!!」


 す

 こ

 っ再び


 猿子にまた突かれて、オレール様はハッとして咳払いをする。


「エル、君は───あーだこーだつらつらつらつらうんぬんかんぬんどーたらこーたら───だ!!

 身に覚えがあるだろう!?」


 いけないわ。

 あの時の記憶がフラッシュバックして脳が理解を拒否してしまったわ。

 ここはいつもの、あのセリフを…。


「おっしゃった内容に全く、これっぽっちも思い当たる節がありませんが、そういう事にしておいて下さいませ!」


 にこにこしながら言うと、オレール様はうぐっと呻く。

 そこへ我慢ならなくなったのか猿子がしゃしゃり出て来た。


「エルーシャ様ぁ!今なら間に合いますぅんでぇ、私にぃ謝ってくださぁい!」


 うるうるしながら、オレール様の服の裾を掴んだまま何か言い出した。


「そ、そうだぞ!エル!ニナに謝れば婚約破棄を撤回しない事も無いんだぞ!」

「ラインフェルト嬢、素直におなりなさい」

「ニナに謝罪を」

「謝った方が身の為だぞ!」

「自分の罪を認めなよ〜」


 …………ふぅ。

 そろそろいいかしら。この茶番劇も見飽きてきましたわ。

 上の方の貴賓室の両陛下並びにお父様をちらりと見れば、王妃陛下がにこにこの笑顔で「ヤッチマエ」と口を動かした。

 そして親指をぐっと立てる。

 陛下は右腕を曲げ、きりりと敬礼を。

 お父様はうんうん、好きにしなさいと拳を高く突き上げた。


「恐れながら申し上げますが。

 私はそちらのご令嬢に何も致しておりません。全ては彼女の狂言にございます。……ルク」


 ルクに合図を送ると、記録玉の映像が会場の壁に映し出された。


 それはあの日、初めて「酷いですぅ」攻撃を受けた日の映像。

 私と猿子がすれ違う様を多角的に捉えたものだ。


 私と猿子の距離は大人一人余裕で通れるくらい開いていたのに、すれ違う瞬間猿子はいきなりふわりと倒れた。

 それを何度もスローで再生される。


 記録玉は魔力を流した玉をカメラとして記録できるものだ。

 多角的に捉えられたという事は、いくつかの記録玉を同時に操っていたという事で。私はルクの器用さにびっくりしていた。


 次は猿子が勝手に噴水に飛び込む様を。


 教科書をばりばり破る様を。


 落とし物を拾っただけの私に攻撃する様を。


 更には階段から「えいっ」と飛び降りる様を。


 その全ての後に猿軍団が走ってやって来て私を責めた後に自分達の世界に浸る様もばっちり映っていましたが、さすがにオナカイッパイになるわね……。


 全て再生されてオレール様を見やると、顔を真っ青にしています。……後ろの方々も。猿子も。


「……に、ニナ……?これは……」

 猿子はぷるぷると震えて、涙目でしきりに首を振ってる。


「お分かりになりましたでしょうか?私が何もしていない事を」


 私は優雅に微笑んで見せた。

 本当はその時を思い出して蕁麻疹ものだし、何度も見たくなかったものだ。


「お、俺はシンじていたゾ!?エルはこんな事する奴じゃ無いって、ははっ、はは……」


 引きつりながら苦笑いを浮かべているオレール様。そしてきりりとした顔をして。


「エル、すまなかった。これからも婚約者としてよろし『やぁっだぁ!オリィったらぁん!もぉめっめっしちゃうよぉ!』『かわいいニナ〜あぁ、ニナはははは』『ニナはぁオリィのぉおよめさんになるのぉ〜』『ああ、俺のおよめさんはニナだけだよぉこいつぅ』『キャッキャウフフ』


 ちらりとルクを見やると、舌をぺろりと出してウインクしていた。

 “ツイウッカリ”なんて、絶対わざとね!?


 流れてきた音声は、まぁ。

 あまり想像したくはありませんよね。

 でもお察しの通り、あの生徒会室での出来事ですわ。

 幸いルクが映像をお花畑に変えて音声だけを流したのできちゃないモノを見ずに済みました。


「あ、れ…………は………、エル…………その、誤解で………………」


 青を通り越して白くなったオレール様が何か言ってる。


「あぁ、そういえばそちらの方を愛妾にしたいと仰ってましたわね」

 こてんと首をかしげて尋ねると、オレール様はしどろもどろに俯いた。


「あ、ああ、愛妾、そう、愛妾という意味なんだ。俺のお嫁さんになるのはエルだけで」

「オリィ酷いわ!私を妃にしてくれるって言ったじゃない!!あれは嘘だったの!?」

「ニナ……俺は…………俺『ああ、だってニナは市井の者だから王妃の仕事は無理だろう?だから王妃の仕事は君にして貰う。あ、跡取りはニナに任せて貰っていいからね!』

「オリィ酷いわ!私にはできないってバカにしてるのっ!?」

「そうじゃない!そうじゃなくて、その……」


 ルクが“ヤッチャッタテヘ”と追加で再生した言葉を聞いて、貴賓席の王妃陛下が持っていた扇をべきりとへし折った。

 お父様は壁に拳をめり込ませている。

 あれはね……私も無いと思ったわ。


 あわあわしているオレール様に詰め寄るピンク猿子に、空気になっていた猿軍団がゆらゆらと近寄って。


「ニナ?あれは何?『こんな恥ずかしい事するのあなただけよ』って言ってたのは嘘だったの?」

「ははっ、まんまと騙されたねぇ。まさか……とは思うけど。へぇ、結構やるじゃん……?」

「全て捧げたのに、あれは嘘だったんですか?私はあなたしか………いなかったのに!!」

「俺の事ガツガツしてるだけって言ってたな。比べられてたとは……はぁ、騙された。騙されたよ」


 恋の病から覚醒なされた猿軍団達が悲劇のヒーローごっこを始めた。更に。


「クララ!やっぱり俺には君しかいない!」

「ごめんなさい!もうあなたはいりません!」

「んなっ!?」

 大きく口を開けたままの魔術師団長子息に、元婚約者・クララ様がすかさず反撃する。吹っ切れたみたいで良かった!


「レーニャ、もう浮気しないと誓うよ」

「って言われたの何回目か分からないわぁ。あ、商会はあなたの弟君と盛り立てていきますね!」

「そんなっ!!」

 大商会子息の元婚約者レーニャ様は隣にいる弟君らしき方と腕を組んでにっこり笑う。あらかわいい坊やだわ。レーニャ様とお似合いね。


「ヒルダ……」

「暴力反対」

「そんなぁ…」

 宰相子息の元婚約者ヒルダ様は一言で終わらせたわ。敏腕。


「ミ「やっだぁ、気持ち悪い」

「ゔゔ…」

 騎士団長子息の元婚約者ミレイユ様は発言する隙も与えず一刀両断。


 これにて猿軍団は解決ね。

 女性陣の皆様清々しいお顔をなさってますわ。


 さて。

 私もそろそろ仕上げとしましょう。


「申し遅れましたが殿下」


 猿子とぎーぎゃー言い争っていたオレール様に澄んだ声を投げ掛ける。


「私達の婚約は既に破棄されてますわよ」


 にっこり告げると、オレール様は目を点にした。

 猿子は誰よりも早く察知してパアアッと顔を輝かせる。


「…………ん、なぁあああぁああ!?」


 ようやく理解したらしいオレール様が口を開く。


「誰が!!勝手にしていいと言ったんだ!!?」


「僕でーす」


 にこにこの笑顔で登場したのは、国王陛下と王妃陛下。

 そして私のお父様は勿論、なぜか猿軍団のご両親までもがいらっしゃいます。


「騎士団長達も巻き添えにしちゃった☆」

 ってお茶目に言ってますが、皆様白目向いて魂抜け掛けてますわよ〜。


「いやぁ、オレール。君ね、無い。無いよ。あれは、無い。ラインフェルト公爵令嬢に失礼すぎるしそもそも気持ち悪いよ。だから教育やり直そうね」


「ち、父上ぇ……」


 情けない声を出してめそめそしだしたオレール様。


 それより陛下、口調が砕けすぎてませんか?


「それからそこの……ピンクの猿子ちゃん?」

 今度は王妃陛下の攻撃が始まる。

 待って、ピンクの猿子って、私とルクの間だけの呼び名だったんですがっ!?

 ルクはまた舌出してウインクしてきた。確信犯か!


「ハァ!?誰がピンクの猿子よ!!てゆーか、あんた誰よ!この年増女!!」


「そこで白くなってめそめそしてる王子の母親でぇっす☆」


「お、おかあさまっ!?」


 ずざっと猿子は王妃陛下の足元に跪く。


「無礼者が。お前なんぞにお母様と呼ばれる筋合いは無いわ」


 ゴゴゴゴ、という効果音付で王妃陛下が凄まれると、猿子は「ひっ」と腰を抜かしてしまった。


 怖いよね〜分かるわぁ〜。

 美人だから余計にね。


「エルーシャちゃんごめんなさいね。オレールが迷惑かけたわ……」

「いえ、二度と会わないようにして頂けたらそれで良いですわ」

「エルゥシャァ!!」

「そこは任せて欲しい。リンボの砦にやって性根を鍛え直して貰う」

「父上ぇ!!」


 リンボの砦とは、国境にある要衝だ。

 好戦的な国との境なので常に戦いがあり、かなり危険で明日をも知れないと聞いた事がある。


「お待ち下さい父上!私には弟妹がいません。この国の未来を背負う者は私しかいないのではありませんか!?

 私に何かあったらどうするのです!!

 私はっ……この国の未来がっ……!!」


「そこは気にしなくていいよー。ルクもいるし、僕と王妃もまだ若いから頑張れば跡継ぎなんていっぱいできる」


「あ、あなたったら……!」


 顔を赤くした王妃陛下かわいいなぁ、って呑気に思っていたら。


 えっ?

 ルク?

 国の跡継ぎ問題に何故ルクの名前が?


 当の本人は知らんぷりしてる。

 顔にハテナを浮かべて陛下を見てたら。


「あれ?ラインフェルト公爵令嬢、ルクから聞いてない?

 ルクはね、僕の弟なんだよ。

 本当の名前はアルクレヒト・ソネシア。ルクは愛称だね」



 おっ、おとうと!!?

 って事は王弟殿下!?


 聞いてない!!


「言ってなくてすまねぇな」


 いつの間にか隣に来ていたルクに何か言ってやりたいけど、口がぱくぱく動くだけで声にならなかった。


 そして。

 なぜか私に跪いて。


「密偵してる間にあなたに惚れました。

 健気で勇敢で、頑張っている貴女を支えたい。

 どうか私と結婚して下さい」


 真面目な顔で手を差し出されたら淑女たる者手を乗せるしかなくて。


「あ……あなた、平民だと、思ってたから……っ、ダメだと。だめだから、って……思って」


「王弟の身より密偵やってる方が気軽だったからな。口調が砕けてんのも許せよ。

 だいたいな、婚約者でも無いのに見舞いに行った時普通に会っただろ?

 そん時に気付けよ」


 そういえばあの時誰よりも先にお見舞に来てくれていた。

 公爵家の使用人はじめ、お父様が何も言わなかったのもルクの身分を知っていたから、と考えたら納得した。


「エルーシャ、返事をくれ」


 手は重ねたけどまだ返事をしていなかった。

 微かにルクの指先が冷たいのは緊張しているせい?


 私は深呼吸して。


「喜んで!!私もあなたと一緒にいたいわ」


 その瞬間、わっと歓声と共に拍手が沸き起こった。


 茶番劇で忘れてたけど、パーティーの最中だったわ!!

 周りを見渡せば大勢の学園生が祝福している。


 我に返って途端に恥ずかしくなった。


「あんまかわいい顔するな。……周りに見せるの勿体無いだろ」

 と、ルクに抱き寄せられたらもっと顔が赤くなってしまった。


 慣れてないから仕方無いのよ!


「さぁ皆のもの、今日は楽しもう!」

 国王陛下の声を合図にパーティーは仕切り直しとなり、私達はパーティーを楽しんだ。



 オレール様以下軍団と猿子は近衛騎士によっていつの間にか退場させられていた。



 ♠✦♠✦


 あれから。


 ルクと私は改めて婚約を結んだ。

 破棄後すぐの婚約だったけど、オレール様のアレがダメすぎて同情票を集め、醜聞にはならなかった。ホッとした。

 オレール様の継承権は正式に剥奪され、その下がいない為ルクが第一継承者となった。


「俺あんま向いてないけどエルーシャがいるから頑張るよ。

 けど兄上達もまだ若いから頑張って!」


 とハッパをかけると、お二人共やぶさかではないらしく、それはそれは毎晩頑張っているそうだ。

 ルクの王太子時代は短いかもしれない。



 オレール様達は揃いも揃って婚約破棄されたと知らなかったらしく、絶望の表情だった。

 皆さん漏れ無くオレール様と同じリンボの砦に送られた。

 騎士団長子息と魔術師団長子息が来るからむしろ砦にいる方々からは大歓迎されているそうだ。

 大商会子息は砦を拠点とした補給部隊に配属された。商会の品物を安く融通させるのでこちらも喜ばれているみたい。

 ちなみに彼の個人資産で赤字は賄ってるから、レーニャ様達には何の損害も無いらしい。

 宰相子息もオレール様も脳内お花畑から戻れば頭は悪くないから知略的な面での活躍が期待されている。


 まぁ、死と隣り合わせの過酷な環境ではあるけれど、頑張って生き延びて欲しい。



 ピンクの猿子は……

 砦の慰め要員としていずれは送るそうだけど。


 あの日王妃陛下に無礼をはたらいたのでしばらく王妃陛下預かりで何かされるらしい。


 何をするんですか?と聞いたらにっこり微笑まれたのでこれ以上の詮索はやめておいた。




「エルーシャ、お前には言っとかなきゃならねぇ事があるんだが」


 真面目な顔をしてルクが言う。

 一応継承権第一位だからいつもの緩い格好じゃなくてきちんとした正装だ。

 意外にかっこよくてどきどきするんだけど、今はルクの話をじっと聞く。


「俺は城とか貴族の堅苦しい生活が苦手だ。だから兄上に跡継ぎができたら継承権は放棄して臣籍降下する。

 そしたら今までより身分はずっと下がる」


「はい」


「……問題は山積みかもしれねぇし、婚約したお前に強要すんのも違うと思うけど……」


 次に何を言おうか迷ってる。

 多分、今までの私を気遣ってくれてる。

 だから


「ルクのやりたいようにやって。私、付いていくわ」


「エルーシャ……」


「貴方と一緒ならこの先きっと何でも楽しいわ。大丈夫よ、私も砕けた言葉のほうが話しやすいし」


 にっこり笑えばルクは目を細めた。


「ありがとう、エルーシャ。お前にはこれから苦労かけると思う。けど一生守るから付いて来てくれ」


「喜んで!そうと決まれば密偵修行ね!これからよろしくね!」


 そう言って手を差し出せば、ルクは呆気に取られて笑う。


「よろしくな!あと言ってなかったけど」



 耳元でルクが囁く。


 それを聞いて、私は顔を真っ赤にした。




お読み頂きありがとうございました!


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