第08話 金が欲しい
初等学校は週に一度通う。
7歳から15歳までの間に必要最低限の知識を身に着ける場所が初等学校だ。そして、その中で優秀な者は学園に通うようになる。
しかし、大体の者は学校教育が終われば親の後を継いだり何処かで徒弟になったりする。結婚する者もいるといえばいるが、結婚は大体17歳18歳くらいになってからの方が多いかもしれない。15歳になって大人の仲間入りになった者がそのまま安定して仕事が出来る人間かどうかを2、3年様子見する期間と言った感じだろう。
「ルー久しぶりー!」
「お、学校くるの久しぶりじゃん」
「何処か具合悪かったの?」
「よっ久しぶり」
この2カ月ほど、俺は初等学校をサボっていた。
と言うのも、学校で教わる事がカラレスクラーより優れているとはどうしても思えなかったからだ。俺はカラレスクラーから勉強を習う前に今習っている学問についての質問を次々にしてみたら、あいつはこれに全て答えた上でそれを不要だと切り捨てた。だから、学校に意味があるなんて思っていなかったのだが……
『知り合いは1人でも多く作れ、幼少期の繋がりが大人になってまで続くなんてことは殆どあらへんけど、人との接し方は覚えた方がええ。クソボケのグレイブロンは信じられんくらいアホやったけどコミュ力あったからな、仲間はぎょうさんおったけど………まあ、時代が時代やったからな……みんな簡単に死んでいきおったけどな』
魔物の脅威が減ったこの時代、1000年前よりも豊かになり人口が増えたこの時代では昔ほどに1人1人の人間の価値というのは高くないかもしれないが、だからこそ1人でも多くの仲間を作らなければ世界の変革は叶わない。もしくは、1人でも多くの人間を動かせるような人間にならなければ世界は動かせない、と言われた。
「別に体調崩してたとかじゃないぞ」
「そうなんだ?」
「もっと勉強したいとか言ってたからどうしたんだろーって心配してたんだぜ」
「しばらく来てなかったし先生の話ついていけなくないか?」
「ん-まあどうだろうな」
長い椅子に座りながら、久しぶりに会う友達と会話をする。
学校は市長さんの家の横の建物にあり、そこで毎週リヒトの街に住む子供が順番に時間のある時に授業を受ける。
今までは何も考えずに学校に通っていたが『街に居る7歳から15歳の子供の数を把握する為のものでそこから将来的な人口を試算してるんやろ、戸籍調査みたいなもんやしまあええんちゃう?さっさと国民管理番号作れやって思うけどあれ管理すんの結構大変やしな』とカラレスクラーは言っていた。学校は街としても色々考えた上での事業らしい。
初等学校での授業は2,3時間で終わる。
2人1組でボロボロの教科書を見ながら、みんなで先生の話を聞くだけの単純なものだ。お金持ちの貴族や都市貴族と呼ばれる街の運営をしている金持ちの平民は基本的に家庭教師を雇っているので、普通の平民やうちのようにあんまりお金のない貴族は毎週少しずつ進む授業をちまちまと聞くしかない。
「………金が欲しい」
『なんや藪から棒に』
学校の授業が終わった帰り道、俺は肩を落としながら呟いた。
(農地改革って思ったより必要なものが多いし、お前が必要だって言う作物をリヒトまで取り寄せてもらうのだって金が要る。だが、知っての通りうちはそれほど金持ちってわけでもないからな……貴族っていっても騎士爵なんてただの栄誉職でしかないし……)
街の中心地に住んでいる商家の人間のほうが全然金持ちだし、なんちゃって貴族の騎士と違って都市貴族と呼ばれる彼らは街のギルドの管理や運営などで影響力もある。う、うらやましい……
『お金なー……この世界も貨幣経済がええ感じに浸透しとるようでなによりやけど……金なー……』
(お金があれば本も買える、剣も買える、妹に可愛い服も仕立ててあげられる、美味しい御飯も食べ放題……)
『なるほどなー……って剣はうちがおるやろが!!喧嘩売ってんのか!?お前は聖剣の担い手なんやで?何を浮気しようとしとんねん、他の剣なんて握ったりしようもんなら…………どうなっても知らんで』
(……だって、お前ボロボロだったしなんか剣身もガラスみたいですぐ壊れそうだったし……俺は聖銀みたいなかっちょいい剣が欲しいって言うか………そもそも体から出てこないじゃん。もう捨てたりしないし出てきてもいいんじゃないの?)
『はああああ?みすりるぅぅぅ?この世界にあるような物質で作られたようなウンチみたいな剣と聖剣を比較しとるんか?お前もしかしてカラレスクラー様の事を馬鹿にしとるんか?馬鹿にしとるやろ!!』
(ウンチって……別に馬鹿にはしてないよ。物知りだし最初に拾った時よりは凄いかもしれないって思ってるけど………それ以外のことはよくわかんないし)
『よーーーしわかった!そうまで言うなら聖剣のちょっと凄いところ見せたろやないか!ルーが興奮して鼻血噴き出しながら土下座してうちに頬擦りして謝罪するくらい凄いところみせたるわ!!』
(お前がどんな光景を想像してるのか知らないけど………どういう感じの力を持っているのかは興味ある!何が出来るんだ!腐っても聖剣だもんな!)
『腐ってへんわ!自分ほんま口悪いな!!』
(いや、カラレスクラーに言われたくないんだけど……)
頭の中でぎゃーぎゃー騒ぐカラレスクラーを適当に無視しつつ、俺は聖剣の力とやらがみたくて急いで家に帰った。




