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第07話 学問を極めた先


 世界は劇的に変わった。

 いいや、世界は変わっていない。 

 俺の目に映る世界が変わっただけだ。




『何でその答えになるねん!!』


 俺は畑の仕事の傍らで唯一の楽しみだった、週に一度の学校すらも通わなくなり教会へのお祈りも行かなくなった。父さんや母さん妹との会話すらも少し減ったように思う。それまでの生活がどうでもよくなるような、1分1秒の時間が惜しく思えるような……それほどまでにカラレスカラーの語る知識は魅力的であり、実利的だった。


(ちょっと間違えただけじゃん、怒んないでよ)


『別に間違えた事に怒ってへんわ!何でその答えになったか聞いとんねん!』




 自然学、魔導学、志向学、神学、7歳から15歳の子供が通う初等学校で習う学問は全部で4つで、その他にも聖典暗唱をしたり、体格の良い子供は身体を動かして戦闘の才能を見たりもする。どの勉強も面白くて、特に俺が好きなのは自然学と魔導学だったのだが……


『あ?捨てろ捨てろそんな役に立たん学問とも言えん学問、ゴミやゴミ。円周率暗記しとるほうがまだ面白いわ。もうちょい見たもんをそのまんま探究しようとか思えんのか?』


 ある程度大きな街には子供の学習機関である初等学校と呼ばれるものがあるが、そこでは7歳から15歳の子供がいくつかの勉強を修める。1週間に1日、2時間ほどの勉強をする場所で、街の子供は時間がある時に授業を受ける事になる。


 しかし、カラレスクラーはそこでの勉強を全て捨てろと言った。


『まず分野が大雑把すぎる。次に学問としては曖昧過ぎる』 


 カラレスクラーは神様の世界から来たと言っていたが、それと同時に神の世界なんてものは無いとも言っていた。

 より正確に述べるのであれば神々の世界はこの世界程度の技術では確認する事が出来ないし考えるだけ無駄だ、と。考えてもわからない事について考えるのは人生の浪費でしかなく、人間の一生はそれほど長くない……目に見える事、感じる事をまずは学べと言われた。




『間違えを怒ったりせえへんわ、アホか。最初から理解出来るならそもそも勉強なんて要らんし、間違えまくればええけど、なんでその答えになったんかを考えるんはやめんな。何故の積み重ねが出来ん奴はアホのままや』


(ぐぬぬ……)


『ルーお前、今答え聞いてへーって思っただけやろへーって!それアホの思考やからな?うちから勉強教わるんやったらアホの思考は許さんしアホに勉強は教えん』


 勉強は家の近くの地面に木の棒で文字を書きながら行われる。


 今は数学と化学、論理学と心理学と呼ばれるものを習っていて、現在初等学校で習っている自然学や志向学の完全上位互換の学問を教えてもらっているわけだが、これが中々に面白い。

 それほど高いものでは無いとは言え、欲しい本を何でもかんでも買ってもらえる程に裕福と言うわけでもないので、俺にとってはカラレスクラーのわけのわからないくらいの膨大な知識は面白くて仕方がない。本なんて欲しいと思わなくなった。


 そして、カラレスクラーは物事の捉え方、考え方も同時に教えてくれている。思考の組み立てが出来るようになればどんなに難しい問題も解決できるようになる、と言っていた。とは言えこれは結構難しい、考え方を考えるというのは俺にはまだちょっと難しいのだ。


 

『まあ、あんまイジメてもしゃーないしな……座学ばっかりやなくてちょっと違う角度から勉強してもええかもな。どうせ化学にしたって物理学にしたって深く学ぶための設備なんてこの時代にないわけやし……』


(違う角度からの勉強?)


『畑がどうこう言ってたやん?あれ改良してみんか?』


(改良?……でも、俺は畑で土いじるより勉強の方が………)


『はあ?ルーお前まさか畑の重要性わかっとらんか?』


(わ、わかってるよ!不作だったりしたら税収も落ちるし飢饉だってありえる、畑が大事なことくらいわかって──)


『そんな当たり前の事偉そうに言うなや!第一次産業……って言ってもわからんか……畑ってか農業は結構奥深いもんや。土壌phの測定もせんとなんとなくで畑仕事やっとるような世界の人間に理解せいっちゅうほうが難しいかもしれんけど、作物育てたり改良するのも立派な“農学”って言う学問や』


(のうがく?)


『せや、今のルー程度の頭じゃ理解出来んような高度な学問の一つやし、下地となる知識が膨大過ぎるからガチで極めよう思うたらめちゃくちゃ時間かかる学問や』


(そうなのか……うーん……)


『せやけど、それを1から教えるつもりはない。ルーはうちが教える事を実践してまずはこのリヒトの街の畑事情を革命せい。土壌改良と作物の選定、うちの言う通りにやれば今の面積で収穫量を5倍までは伸ばせる。学問がどういうもんか、極めた先にどのような世界があるんかを実感するんもおもろいと思ってな』


(学問を極めた先……その、ノウガクってのを極めたら畑の収穫量が上がるのか?)


『上がる。まずはリヒトの街から実施してって、これが大陸に伝播していけば世界は劇的に変わるやろな。楽しいと思うで、ルーは農学の正解を実践するだけでええんやからな』


(……うん、やってみる!)



 

 こうして俺はまず、農地改革に取り掛かった。


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