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第05話 最後に自己紹介だけでもしよ!


 平凡な毎日、いつも通りの日常。妹はまだ小さいので寝ている事が多いが、俺はもう7歳だから遊んでばかりもいられない。

 毎日、朝3時に起きる。朝起きるとまず神々にお祈りを捧げて、その後は文字の練習をしたり学校で習った勉強を思い出したり、母さんと父さんの話を聞く。6時になればご飯を食べて、食事が終われば父さんは馬に乗って街の警邏に出かけ、母さんと俺は父さんが帰って来るまで家の周りのそれほど大きくない畑の手入れをする。学校がある日は学校にいくが、学校が無い日は大体こんな感じだ。

 



 そして畑仕事が終わり昼食を食べ終わった俺は、昨日魔剣を拾った事を思い出した。


『遅い!!!!今何時やおもとんねん!!!』


 一瞬迷ったものの、ウェズの鍛冶屋で粉砕してもらうにしても教会にもっていくにしてももう一度くらいお話をしてから処分しようと思ったので、もう一度鞘から引き抜いてみた。

 やはり耳元……それとも頭の中だろうか、魔剣を引き抜くと何処からともなくとてつもなく美しい声が聞こえてきて、そしてやはりその声は何となく口が悪いような感じがする。

 

「今は12時だな。仕事してたから遅いのは仕方ないでしょ」


『仕事とうちとどっちが大事なんや!』


「仕事に決まってるでしょ!」


『はああああああ?!』


 声はとても綺麗なのでいくらでも聞いていられるのだが、美しい声を帳消しにするくらいに非常にうるさい。俺以外の人にもこの声が聞こえれば説明もしやすいんだけど……まあ別に他の人に説明しなくても粉砕するくらいは出来るか。


「うちは騎士の家系だからな。お前のような危ない魔剣を見過ごすことは出来ないし破壊してもらうのは決定しているが、だからと言って最後に話くらいは聞いてやろうとおもって引き抜いてやったのに随分な態度だな」


『ままままた魔剣って言った!!!うちのこと魔剣って言った!!!』


「それで、最後に何か言いたい事はあるか?」


『まず謝れ!うちに謝れ!魔剣魔剣言いおって!!なんて無礼なガキや!……って待て、最後って何や?』


「わかった、それが最後の言葉だな。結局よくわからないやつだったけど、声だけは綺麗だと思ったよ、じゃあな」


『それはどうも……ってちゃうわ!!おい少しは話聞かんかい!最後ってどういう事や!』


「最後は最後だよ。危険なアイテム、呪われた装飾品や危ない魔剣ってのは教会にもっていって処分してもらうか、鍛冶屋さんで粉々にしてもらって溶かしてしまうのが基本だ。だから今日は、お前のような得体のしれない魔剣が他の人間に危害を加える前に教会に行って処分してもらうんだよ、最後ってのはそう言う意味だ」


『はぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁ』


 魔剣に心があるかどうかはわからないが、俺の言葉を聞いた彼女は奇声をあげてしまった。これから壊れると思うとやはり悲しかったり怖かったりするのだろうか。


「お前が本当は俺を殺す事ができない大した事のない魔剣だとしても、殺すだのなんだのと言う物騒な奴であることには変わりないからな。悪く思わないでくれ、じゃあな」


 お話が出来るって事は意思があったりするのだろうし、俺だってちょっと可哀相だとは思うけどそれでも俺は騎士の息子だ。魔は滅ぼさねばならない。


『ままま!待って待って待って!わかった!………わかったから………最後に自己紹介だけでもしよ!しよ!最後やから!』


 もう話す事もないだろうと思い鞘に剣を収めよとしたが、魔剣は何やら自己紹介をしたがった。そう言えば昨夜も何やら言っていた事を思い出し、魔剣にも名前とかあるのだろうかとちょっと気になってしまった俺は最後に自己紹介をすることにした。


 それがいけなかった。


「自己紹介か……うん、それくらい良いよ。そもそも名前とかあるの?」


『あるある!名前ある!』


「へー?なんて言うの?」


『聞いて驚け!崇め称えよ!我こそは第九界アメロイデスに遣わされた神具……正しき教え、正しき心をもって勇者を導く聖なる道標、聖剣カラレスクラー様や!!』


「へー、俺はルーカス。サー・メイソン=ジプソフィラの息子にして将来騎士になる男、ルーカスだ。じゃあな」


『いやいやいやいや!!え?軽ッ!!かるない?ええ?カラレスクラー様やぞ?聖剣とか知らん?知ってるやんな?』


「知らないけど、聖剣ってあれだろ?昔、勇者グレイブロンが魔王を滅する時に使ってたとか言う剣でしょ?」


「そうそれ!それそれそれ!!!グレイブロンが振るう七色の剣、美しき聖剣カラレスクラーの名前も知ってるやろ?」


「聖剣って名前あったの?聞いた事ないんだけど」


 創世記の勇者グレイブロンが振るったとされる、天を裂き地を穿つ聖なる剣。宝剣、魔剣、名剣と呼ばれるものは多々あるが聖剣と呼ばれるものはただ一振り……勇者グレイブロンの剣だけしかない。でも、名前なんて聞いた事ないな。

 


『はぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁああああああ』



「まあいい、カラレスクラーだな?わかった、覚えておくよ。お前の名前は生涯俺が忘れずに覚えておくよ」


 自分の事を聖剣だと思い込んでいる可哀相な魔剣だったか……きっと土の中に長い間埋まっていたせいでおかしくなってしまったんだろう。孤独は精神を蝕むと聞いたことがあるが、魔剣もまた少しずつ頭がおかしくなっていったのだろう、可哀相に。まあ処分するけど。


「それじゃあ自己紹介も終わったし、今からウェズの鍛冶屋で粉砕機にかけてもらうが──」


 悪く思うなよ、と言おうとしたのだが……



『…………馬鹿め!処分なんてされてたまるか!!!アクセスコードは奪った!!』



 今度こそ鞘に仕舞おうと思ったまさにその時、カラレスクラーは何事かを叫んだ。


「ん?」


 しかし、なんだろうと思ったのも束の間


「あれ………?」


 手に持っていたはずの魔剣は突如として光の粒になり、実体を無くしたかと思うとそのまま俺の身体の中に入り込んで来た。


「な!!!なんだこれ!!やめろ!!!なにしやがった!!!!」


『ふはははは!!馬鹿め!!このカラレスクラー様が大人しく会話してるだけやたと思っとったんか?たかが第九界アメロイデスの人間のアクセスコードを奪うなんぞちょろいもんや!!』


 光の粒になった鞘と剣は俺の身体に吸い込まれるようにして消えてしまい、まるで初めからそんなものが無かったかと言うように完全に消えてしまった。だと言うのに……魔剣はもう握っていないと言うのに……頭の中には先ほどまでのカラレスクラーの声が響いていた。


「クソ!!よくわかんないけど乗っ取られるのか!!ふざけるな!!俺の身体から出ていけ!!!」


 やはり魔剣だったか……俺はこの後この魔剣に乗っ取られて大好きな家族を殺したり街の人々を殺したりするのだろう。


『アホか!!聖剣や言うてるやろが!誰がそんなことするか!』


「な!?馬鹿な!考えている事が読まれた!?」


『手に取るようにわかるわ!まだ表層意識しかアクセス出来へんけどもうちょいしたらお前の考えていることは全部うちに筒抜けになるで!』


「くっ!!!」


 なんてことだ……つまり今こうやって考えていることも


『わかるで!』



 終わりだ……もう駄目だ。死ぬしかない。



『お前アホやろ!?待たんかい!!!!』



 こうして俺は、魔剣に身体を乗っ取られてしまった。


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