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第04話 ごめんなさい、父さん母さん



 ウェズの鍛冶屋からの帰り道で、掘り出した剣が魔剣であることに気付いた俺は急いで家に戻ることにした。いつ俺が呪い殺されるかわからないので、とにかく出来る限り急いだ。ただ、少し疲れていたので途中からは歩いて帰った。




 そして自宅に帰るなり、家族を集めて事情を説明したのだが、


「ほう、魔剣か。実物を見るのは俺も初めてだな」

「あら、魔剣を拾ったの?」

「へー!お兄ちゃん魔剣見つけたんだ!」


 父も母も妹も、反応は適当だった。



「うん、今も俺の頭の中に殺すだのなんだのと物騒な言葉が響いてる……かなり恐ろしい魔剣であることは間違いないかと思います!」


『誰が魔剣や!!!お前ほんまええ加減にせえよ!?』


「くっ……今もまた頭の中に美しい声が響いていますッ!!」


 テーブルの上に乗っけた魔剣を見せて家族にどうにかして危険性を伝えようとしたのだが、


「ははは、美しい声なのか。そいつは何よりだ……だが、テーブルの上に乗っけるのはやめろな。そういうのは外でするように……つってもまあ、ルーカスも8歳だしな………剣を振り回したくなる年頃だよな。まあその気持ちはわかるが、本格的に剣の修行を付けるのは10歳になってからって約束だろ?だから、頼むから家の中でそれを振り回して遊ばないようにな」


 父は笑いながら受け流し、


「何処で拾ってきたのか知らないけど、汚いから元の場所に捨てて来なさい。剣は10歳になれば買ってあげますから、それまでは木剣で我慢なさい」


 母は呆れた顔で、


「お兄ちゃん魔剣凄いね!でもそれ汚いね!」


 妹はよくわからないけど楽しそうだった。



「何故誰も信じてくれないんだ!!これは本当に危ない剣なんだ!」


 3人のあんまりにあんまりな反応に少し憤慨した俺は、ほんの少しだけ声を荒げてしまった。


「いやな……そうは言うが……そもそも魔剣ってのは魔力を帯びた剣ってやつで、切れ味が増したり火が出たり氷が出たりする剣を言ってな、喋ったり取り付いたりするもんじゃないからな?……それに、柄を持てば声が聞こえるとは言うが俺には何も聞こえなかった。それが答えだ」


「そ、それは……」


 確かに父の言う通りだ。

魔剣とは、長年使っているうちに剣が担い手の魔力を帯びたものを指す。その効果は担い手の魔力によって様々で、鞘から抜き出すと剣身に炎を纏うものや、切り裂いた対象を氷結させるものなど様々だ。

 御伽噺の中には意思持つ剣が登場する話もあるが、あれは創世記の伝承ではなく後世の吟遊詩人が面白おかしくするために作った創作だと父は言っていた。喋る魔剣などそんなものは無い。


「そういう遊びをするなとは言わんが、場所は考えろ。特にここは食卓だからな、汚いものをテーブルに乗せると母さんが怖いぞー?」


「そうですよルーカス、汚いものはテーブルに上げない、帰ってきたら手を洗う。ちゃんと約束したでしょう?それが守れないならその魔剣は何処かに捨てて来なさい。それに、家の中で振り回してクレアが怪我したら大変でしょ、お兄ちゃんならちゃんとなさい」


「……………ごめんなさい、父さん母さん」


 この幻聴はどうやら俺にしか聞こえないものらしく、これが危険な魔剣であるという証明が出来ない俺は、父と母の言葉に黙ってうなずく事しか出来なかった。



『………いや………なんか、すまんかったな』



 握りしめた魔剣からは、憐みのようなものを感じた。



 ◇ ◇ ◇



『誰が魔剣や誰が!!!殺すぞ!!!』


 食事が終わり部屋に戻った俺は、どうにかして魔剣と対話を試みようとした。

 と言うのも、ウェズの鍛冶屋からの帰り道で少しだけ話をした感じだと、これが危険な魔剣であることは間違いないものの、全く話が通じないわけではないと感じていたからだ。


「なるほど……だけど、どうやって俺を殺すつもりなんだ?」


 どう言った方法で人を殺すのか、どの程度の危険性があるのかを確認したら、明日ウェズに粉砕機で破壊してもらうか教会にもっていこうと考えていた。


『いやそれは……まあなんて言うか、言葉の綾っちゅうか……ほんまに殺すわけないやろ?』


「つまり君は俺を殺せないのか?」


 ベッドの上に寝転がりながらの会話は続く。


『まあ……………せやな』


「じゃあなんで殺すなんて言うんだ?隠している事があるなら正直に言え。嘘を付いたら今すぐに道端のウンチに投げるぞ」


『何でって言われると難しいけど、あの……わたくしちょっと腹が立つと口が悪くなってしまう事がございまして……殺すなどと言う大言を吐いた事は深く謝罪致しますので、あの、投げ捨てるのはやめていただけないでしょうか』


「じゃあ実際には俺を殺せないくせに大口を叩いてただけなのか?」


『まあまあまあ、何と言いますか……言葉にしてしまうとそう言う感じでして、はい』


「なんだ、心配して損した」


 会話をしてしばらく、どうやらこの魔剣が実際には人を殺す事も出来ないしょぼい魔剣であると言う事が分かった。てっきり呪い殺されたり身体を乗っ取られたりするものとばかり思っていた俺は、とても安心した。


『あ、あのな……せやけどな?自分かてうちのこと魔剣魔剣言うて煽ったりするから、そう言うのもよくないんちゃうかなーって、自分かて雑魚とかちびとか言われたらちょっと嫌な気分になるやろ?』


「うーん……多少はなるかもしれないけど、だからって殺すなんて言葉を俺は使わない」


『そうかもしれんけど………うちは魔剣とか言われるのがいっちゃん嫌なんや……そもそもうちは聖──』


「あごめん、もう寝るね。殺されないってわかったら眠くなってきた。」


『ああ待って待って待って!!自己紹───』



 何か言いかけていた魔剣を鞘に仕舞った俺は、考えていたよりもしょぼい魔剣で良かったと思いながら安心して眠りについた。


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