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第03話 恐ろしい魔剣だ……



「ひゃああッ!!」


 耳元に突然聞こえて来た声に驚いてしまった俺は、折角引き抜けたガラスの剣と鞘を放り投げてしまった。しまったと思いながら、声の主を探す為に俺は急いで周囲を見渡したのだが………周りに人はおらず、少し離れた所で畑仕事をしている農家の人が見えるだけだった。


 確かに声が耳元で聞こえたと思ったのだが………もう一度キョロキョロと見渡したもののやはり、周囲には誰も居ない。


「び……びっくりした……」


 俺は気を取り直して落としてしまった剣を拾う事にした。

ガラスっぽい剣なので割れてしまったかもしれないと思ったが、すぐ横に落っこちていた透明の剣はこれといってひび割れた様子もなく綺麗な状態で地面に転がっていた。


「よいしょっと」


 ぞっとするほどに美しい声ではあったが、美しい声の割にはなんとなく口が悪かったような気がしたので、俺は何かしらの幻聴だろうと思いながら剣を拾い上げた。



『おいお前!マジでぶっ殺すぞッ!!!!!』



 剣を拾い上げようと柄を持つと同時に、先ほどの美しい声が再び耳元から聞こえて来た。


「ぎゃああああ!!!」


 そして、俺はまたその場に倒れ込み剣を放り投げた。



 度重なる幻聴からどうやら自分が相当な疲労状態にあるらしいと気付いたので、ウェズの鍛冶屋にはまた後日行こうと決めたものの、それでもとりあえず剣は持って帰ることにした。

 疲れたから道端に置いてきた、なんてことを言うときっと父は怒る。武器は簡単に人を殺せてしまうから雑に扱ってはいけないと何度も聞かされているからな……


「はあ…びっくりした」


 そうして、再び剣を拾おうとした俺は考えた。とりあえず剣を放り投げるのはよくない、と。

 幻聴がいつくるかわからないが、それでも次は驚いて剣を投げ捨てるような事はしないでおこうと固く決意しながら、道端に転がっているガラスの剣を拾い上げようと柄を持ち……



『とりあえず投げるのやめろや……殺すぞ』



「ひゃっ!!」



 ダメだった。



 ◇ ◇ ◇



 ここまで来ると俺は幻聴の発動条件がわかった。

そして、腕を組みながら地面に転がっているガラスの剣を見つめる俺は、どうしようかと悩んでいた。


 この変な剣を持つと物騒な幻聴が聞こえる。

 俺の事を殺すと言ってたいので多分魔剣だろう。

 とりあずここに放置して父に相談する方がいいかもしれない。


 でも………もし………

 他の人がうっかりこの剣を持ってしまって呪われたら……


 田舎街とは言え、父は騎士であり俺は騎士の息子だ。

 民の危険になるような呪具を道のど真ん中に放置はできない。



 色々と考えた結果、俺はこの呪われた魔剣を持って帰る事にした。

そして、俺がもうすぐ殺されると言う事を家族に相談する事にした。



「…………よし」


 ゴクリと唾を飲み込み、次こそは魔剣の声に驚かないようにしようと固く誓ったした俺は、4度目の魔剣チャレンジを開始した。しかしそう決意はしたものの、自分がこれからこの剣に呪い殺されてしまう事はやはり怖くて、手はふるふると震えていた。

 それでも、危ないものを道端に放置するなんてことはやっぱり出来ないので、俺は仕方なく死を受け入れた。せめて、家に持ち帰って父に事情を説明するまで命が持てばいいな、なんて事を考えながら……再び地面に転がっている剣の柄を握った。



『あのな……そうポンポンポンポン投げるもんちゃうで?わかるか?剣は投げるもんやなくて斬るもんやで?そんな事も知らんのか?』


 やはり、思った通りだった。幻聴は剣を持つと発動した。

ゾッとするくらいに美しい声であはるが、投げるだの斬るだのと言っているその声から推測するに、きっと俺の事を斬りたくて仕方がないのだろう。なんと恐ろしい魔剣なのだろうか……


「…………」


 それでも俺は泣かなかったし、負けなかった。

 こんな危ないものを見つけられて良かったと思う事にした。

 父やウェズではなく、俺で良かったと思う事にした。

 母や妹ではなくて本当に良かったと思う事にした。


『聞いてるかー?無視されるんいっちゃんムカツクんやけど』


「………」


 美しい声だが……ムカツクだの無視だの言っているので、きっと俺の気持ちなんて無視してやる、お前はムカツクから殺してやるとかそう言う感じの事を言っているのだろう。恐ろしい魔剣だ……



『おーいもしもーし、聞いてるかー?聞こえてるよな?聞こえてない?いやいやいや、聞こえてる聞こえてる絶対聞こえてる!さっきひゃーとかぎゃーとか言ってうちのこと放り投げてたし絶対聞こえてるやろ!』


「……………」


 よく回る口だ。きっと返事をしたら最後取り殺されてしまうのだろう。もしくは精神を乗っ取られてしまって俺は自分の意思とは関係なしに人を殺して回るのかもしれない。なんて魔剣だ………



『あの…………あのな?もしかして殺すとか言うんたん怒ってる?ごめんな、ちょっとすれ違いっていうか……勘違いって言うかそういうのあるかもしれんけど、会話くらいはしよ?な?……いやだってさ、先にうちの事を雑に扱ったんはそっちやん?なんや金槌やらでガコンガコン叩いて、うちかて傷つくこともあるんやで?ちょっとくらい怒ることもあるんやで?』


「……………」


 魔剣だ……




『…………』


「…………」




『…………………』


「………うん、静かになった!」



『やっぱ聞こえとるやんけ!!!ふざけんなよお前!!!』


「うるさい投げるぞ!!うんちに向かって投げるぞ!!!」


『やめてええええ!!!!』



 こうして俺は、美しい声の口の悪い魔剣を拾った。


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