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第25話 またお会いしましたね


 食事会の当日


「ルー!おいで!」


 昼過ぎにヘクター工房の前に行くと、元気に手を振るオリアナが出迎えてくれた。


「あ、うん」


 返事をしながら近づいた俺は、そのままオリアナに抱き着かれて家の中に引きずり込まれることになった。俺の正装が完成したらしいので食事会の前に着て、最終調整をするらしい。



 1年前に比べてオリアナとは距離が近くなったように感じる。学校では出来る限り色んな子と会話をするようにしているのだが、今は誰と話していてもオリアナが間に割り込んで来るようにもなった。積極性が上がったのかもしれない。俺がカラレスクラーの下で日々成長しているように、周囲の人たちもまた日々成長していると言う事だろう。



「似合うわルー!」


「ありがとう、リア」


 用意された服を着て、オリアナにお披露目すると手を握ってぶんぶん振ってきた。1年前は学校の隅っこに座って黙って授業を聞いている子という印象しかなかったのだが、今の俺は彼女がとても元気な子だと知っている。人との関係は進めてなければ見えてこないものがある、とクラーが言っていたがまさしくその通りだと思う。


 正装は俺の白い髪に合わせた全体的に白を基調にしたもので、袖を通した瞬間からいつも着ている安っぽい生地とは全然違うものだとわかった。だから……


「その……服を用意してもらって嬉しいんだけど……これ高そうだよね?本当にいいの?」


 不安になる……金をとられたりしないだろうか?

すぐに成長して使えなくなってしまう子供服をポンポンと仕立てられるほど我が家は金持ちではないので、食事会に参加するための服はヘクターさんが全部用意してくれると言う事になった。他所の子供の服まで用意できるとか……俺もクラーもヘクター工房の財力や人脈を侮っていたのかもしれない。

 

「いいのいいの、お父さんが言い出した事だしね。それと、今日私が着る服ってね、ルーのデザインと似せてあってね、お揃いなんだよ?」


「おー……それは楽しみだね!」


 よくわからないけど、何でお揃い?


「ふふふ、お父さんもお母さんも凄く嬉しそうだし良かった。最近2人とも忙しそうで……ルーもあんまり遊びに来なかったから寂しかったんだけど、でもアレなんでしょ?」


 オリアナはいつも通り俺の手を引っ張り、近くにあるソファーに俺を座らせるとその横にぴったり座って話をする。そろそろ寒さも和らいできたのでくっつく必要はないような気もする。


「アレとは?」


「えっと、ルーってずっとお父さんと一緒に何か作ってたんでしょ?腕時計、だっけ?」


「はい!リアも見てくれたんだね!」


「うん!みたみた!お父さんが凄いだろーって言って自慢してたし、プレゼントされたお母さんもすっごく喜んでて、ルーが作ったって聞いてちょっと驚いちゃった」


「あーいや……作ったのはヘクター工房の人で、俺は腕時計の設計図っていうか…こういうのどうかなーってのをヘクターさんに提案しただけだよ」


「そうなの?お父さんはルーが作ったもんだって言ってたからそうなんだと思ってたけど……」


 ふむ………ヘクターさんにとって腕時計の製作者は俺なのか。

 物作りをする人の考え方はいまいちピンとこないが……


『発案者と製作者がごっちゃになっとるんかもな』

(あー……なるほど)

『そんでもまあ、ヘクターの奴は腕時計の手柄がルーにあるって考えてるんは確かやろ。あのおっさんはごっつい見た目の割に気配りも出来るし頭もそこそこ回る中々のキレもんや。ルーを逃がさん方法をようわかっとる』

(俺を逃がさない方法……?)

『まあ………うちの考えすぎかもしれんけどな』


 まあいい、とりあえず腕時計は完成したんだ!


「そうだね……俺とヘクターさん、ヘクター工房の人とか鍛冶ギルド関係の人達みんなで作ったものって感じかな?………あとは………ほら…」


「あ……え?」


 真横に座っているオリアナの頭の後ろ手を回して、そっと髪飾りを触りながら俺は言葉を続ける。


「腕時計はさ、リアの髪飾りを見て思いついたんだ。リアの髪が綺麗だなって思って、それが全部の始まりだから……多分、一番偉いのはリアだよ!」


「ほ、本当に?」


 髪飾りを触る俺の手を握りながら、オリアナが聞き返してきた。


「うんうん!凄く綺麗だよ!」


「うん……ありがとう、えへへ」


 嬉しそうに笑うオリアナに、俺も笑いかけた。




 俺もクラーもヘクター工房の規模を少々侮っていたが、少なくともリヒトの街ではかなり顔の広い工房らしく、オリアナの食事会にはウェズを筆頭にリヒトの街の有力者が何人か来る。市長や商業ギルド、魔術ギルドの人も数名来ると聞いている。

 ルドルム王国の南部にあるブルメリヒ領、そしてブルメリヒでも更に南にあるなんにもない田舎街リヒト。魔物もおらず戦争もない平和なこの街から、1つの流行を発信する。今夜の食事会はその為の決起会のようなものだ。


『正直どんな奴がおってどんな風に話が進むかは情報が少なすぎて読み切れん。基本的にはルーが思うように話したらええけど、わからんくなったら一旦止まってうちに聞いてこい』


 俺たちの目的は実績と肩書を手に入れる事。

 一人でも多くのお偉いさんに顔と名前を覚えさせる事。


 いよいよ腕時計作戦もこれで最後だ!



 ◇ ◇ ◇



 オリアナの10歳をお祝いする食事会は市長さんの屋敷で行われる。

もうわかっている事だが、ヘクターさんの家はいわゆる都市貴族と呼ばれるお金持ちな平民さんだ。都市貴族は大体商業ギルドの人達ばかりなのはずだが、こんな田舎街の革細工ギルドのマスターがどうしてこんなにお金を持っているいるのだろうか……


「おお、ウェズさん!いやはや──」

「ウェズ殿、今宵はささやかな食事会に御参加いただき誠に──」

「ウェズ様!お久しぶりでございます!その節は──」


 市長さんの屋敷に案内された俺は邪魔にならないように隅っこの方でちょこんと立ち、集まって来た人達の様子を見ていた。


『………ふむ……ギルドってのは元々街を運営する為に金もっとる商人連中が作った街を好き勝手にする為の組織みたいなもんや、って話はしたよな』


(うん、その後で手工業ギルドが台頭してきてお互いに納得いく形で街を運営しようってなって……貴族社会、王政に移行した後は王権に密接に結びつくような形で利権を確保した。この世界では鍛冶ギルド、商業ギルド、魔術ギルドと呼ばれる3つは絶対王政の中でもある種の特権を持った集団……だよね?)


『せや、ちゃんと覚えとるな偉いで。んでまあ……うちはまだルドルムの王都に行った事もないからはっきりわからんところもあるんやけど、此間オリアナの嬢ちゃんから聞いた話と今向こうの方で市長やらなんやらに頭さげられとるクソ爺の様子から察するに……』



「……こんばんは」


 ヘクターさんやウェズに話しかけられるまでやる事もないので、壁にもたれながらカラレスクラーと会話に集中していた俺の耳に……何処かで聞いた事のある声が入り込んで来た。


『王都の鍛冶ギルド、商業ギルド、魔術ギルドのマスター……グランドマスターっちゅうんは多分……』

(………ああ)


「またお会いしましたね。……先日はうちの者が失礼致しました」


 声の主はいつの間にか俺の横にいた。

 壁にもたれながら突っ立っている俺の横には、俺と同じ白い髪をリボンで結んだ女の子が立っていた。


『ルドルムの三光家(さんこうけ)ってのと同等の力か、それ以上の力をもった天上人かもしれん』

(………そういう………)


「ひょっとして忘れてしまいました?……あれほど激しく抱き寄せてくださったではありませんか」


「………いえいえ」


『リヒトの街みたいな田舎に場違いな貴族が来てたんは』


「お久しぶりでございます……ストラティア様。先日の無礼、伏してお詫びいたします」


 こんな田舎の街に場違いな人間は最初からずっと居た。

ウェズ……王都の元グランドマスターと言う存在は俺やクラーが考えているよりも遥かにヤバイ人だったのだろう。国の手工業ギルドを纏め上げる鍛冶ギルドの頂点に君臨する人間が普通の平民であるはずもなく、それは一線を退いた所で変わることは無く、そんな人間が一声かければ……



「あ…ご存じだったのですね…………そう言えば、自己紹介がまだでしたね。ストラティア家が長女、フィオナ=ストラティアと申します。本日はウェズリー様より面白い見世物があるとお伺いして、父上の名代として参上致しました」


 白い髪に白いドレス、奇しくも俺と似たような雰囲気の少女は、微笑みながら自己紹介をしてきた。



 先日、おっぱいを触ったくらいで街中で俺を斬り殺そうしてきたよくわからん上級貴族集団は、ウェズの招待客だったと言う事だ。



(なんだよーびびって損したわー)


『いやいや、殺されかけた事実は消えてへんぞ?』


(でもウェズの知り合いらしいし、俺の知り合いみたいなもんじゃん)


『……そういう図太い神経は嫌いや無いで……アホっぽいけど』



「フィオナ様ですね。よろしくお願いします!俺はあっと、僕はルーカスです!リヒト所属サー・メイソン=ジプソフィラの息子、ルーカス=ジプソフィラです!ルークでもルーでも好きに呼んでください」


 本人の口からウェズから招待されたと言う言葉を聞いた俺は即座に警戒心をゼロにして、先日の事も全て水に流す事にした。大体おっぱい触った俺も悪いしな!


「ふふふ……フィオナで構いませんよ、ルーク」


「そうですか、よろしくフィオナ!いやー此間はごめんなー」


「あっ…いえ、いいんですよ」


 俺は彼女の手を取ってぶんぶんと振った。


 折角なので少し話をしてみようと思ったものの、残念ながら従者のような人に何処かに連れていかれてしまった。偉い貴族は挨拶回りとか色々と大変なのだろう。

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