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第21話 難しくて…



 魔術の勉強は少しずつ進んだ。

 と言うのも、俺には魔力を感じ取る才能が無かったからだ。


『感覚的な問題やからな、こういう時の為に担い手を強制的に接続させる機構はもちろん組み込まれとる。ちょっと2,3日寝込む事になるけどそれで魔力感知もばっちりや!』



 そんなクラーの言葉通り、初めてそれを感じた日から数日……俺は高熱にうなされて寝込むことになった……死ぬかと思った。しかし、何をどうしたのか全然わからなかったが、俺の身体の中に入り込んだクラーを通して魔力がどう言うものかを感じ取れるようになった。



 接続学と言う魔術の別名称をクラーから聞いていたからかどうかわからないが、確かに魔力はかなり独特なものだった。目に見えるものではないし匂いがあるわけでもなければ感触があるものでもないのだが、確かに何かがある事がわかる。

 口で説明するのが難しいと言うクラーの言葉には完全に同意できる。この感覚を説明するのは無理な気がするし、説明したとして魔力を感じられるようになるとは到底思えない。


 それでも強いて表現するのであれば、繋がっている感じ……だろうか。この繋がっている何かを魔術師は神聖なものだと考えていているようだが、聖剣は神など居ないとも言っていたしこれを“場”だとか、簡単に言えば“次元の向こう側”だとか言っていた。……カラレスクラーがいなければ、俺もこの何かを神様の愛だとか言う曖昧なものとして感じていたかもしれないな。



『教えるのは簡単なもんだけなー』


「はい!」


『寒い寒い言うてうるさかったから、とりあえず火に関する魔術をおしえまーす』


「おー!」


 

 冬はどんどん進み、寒さは厳しくなる。


 その間、魔術の勉強は少しずつ進んだ。

もちろん勉強は魔術だけではない、数学や化学といった通常の学問も並行して学ばないといけないし、グレイブロン流剣術を習得する為に日々修練もしなければならないし、折角の農閑期なので農地の土壌改良だって進めたいし、腕時計の話もどんどん煮詰まっている。

 

 やりたい事が多すぎて、知りたい事が多すぎる。

 




 身体の奥から何処か遠い所に繋がっている魔力に手を伸ばす


火よ、在れ(ル・エシュグニス)!」


 こっちに来てとお願いして、それを掬い上げる。

 そうして正しい手順で掬い上げた魔力は身体の奥を通ってこちら側にあふれ出し、現象に介入する。


 結果、目の前に小さな種火が浮かび上がる。

 点火源もなく火が起こり、可燃物がない空中なのに燃焼が継続される。 



『うん、ええんやないか。……外が寒いって言うんやったら冬の間はずーっとその火を身体の周囲に維持し続ければええやろ』


「………むむむ………」


 確かに火があれば寒さは凌げるが、維持するのは結構大変だ。

絶えず魔力を掬い上げて現象に介入させ続けるわけだが、これは小さなストーブの前に座ってずっと薪を入れ続けなければならないようなもので、それも多すぎてはいけななくてかと言って少なくてもダメで……適切な量を適切なタイミングで投入し続けなければならない為、かなりの集中力が必要になる。


『今の時代の騎士がどの程度の実力持った集団なんかはよう知らんけど、立派な騎士になりたいんやったら魔術を2,3個併用するくらいの技術は普通に必要になってくるやろ。思考を分割する方法も今から練習していかんとアカンな』


 立派な騎士になるのは大変なんだな………

頭の中にクラーの声が響くたびに魔術が揺らぎ、火が消えそうになる。

魔術を成立させるのも、魔術を継続させるのも、想像絶するほどの集中力が必要になる。これを2,3個同時併用するなんてホントに出来るのだろうか……あ……


『はあ?まだ数秒しか経過してへんぞ、なんで火消しとんねん』


「む、難しくて……」


『うちが話しかけるせいで集中出来へんとか甘えた事考えとるようやけど、この程度で集中乱されてるようやと立派な騎士とやらなんて一生なれへんやろな』


「絶対なる!」


『ほんじゃぼけーっとしとらんで、さっさと火おこさんかい。これからうちはルーが火ぃ継続させてる間しか勉強教えたらんから、気合い入れんとこれからは全然勉強進まんくなるで』


「えええ!!?」


 魔力操作しながら勉強するとかできる気がしないんだけど?

普通に魔術を継続させるだけでも難しいのに、そんな状態でなんか話しかけられても頭の中に入ってこないような気がする。


『何をごちゃごちゃ考えとるんか知らんけど、出来るようになればええだけやろ。農閑期は畑仕事も殆どないし勉強と修行に集中せえ。ほら、ぼさっとしとらんでさっさと接続せえや!』


「わ……わかった。……ふぅ………火よ、在れ(ル・エシュグニス)!」


 文句は言わない。

カラレスクラーよりも優れた家庭教師はきっとこの世界には存在しないし、カラレスクラーは出来ないことをやれとは言わない。勉強だって剣術だってきっちりと覚えて俺の血肉になってから次の段階に移ってくれるし、出来ない事を怒ったりはしない。………出来るまで、覚えるまでやれと言ってくるだけだ。

 



 雪の日も雨の日も関係なく、俺は只管魔力操作を鍛えさせられた。

1日も休む日は無く、1日も無駄にすることなく……勉強、剣術、魔術を叩きこまれ毎日は静かにゆっくりと過ぎていき……



 カラレスクラーを拾った日から1年が経過した。


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