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第20話 魔術とは割と滅茶苦茶なものでーす



 外での勉強は相変わらず寒かったが、今それはどうでも良かった。


『はいじゃー、魔術おしえまーーす』


「おーーー!」


 何故なら、聖剣カラレスクラーが魔術を教えてくれることになったからだ。


 俺は適当な岩に腰かけて両手でクラーを握って話を聞くことにした。



『えーまず最初に、魔術とは割と滅茶苦茶なものでーす。呪文唱えて火やら水やら出したり、魔術回路作って建物の外壁強化したり、割かしはちゃめちゃな技術でーす』


「そうなの?」


『そらそうやろ、なんで呪文唱えただけで現象に介入できるねん。ちゃんと勉強してる人間やったら意味不明すぎて頭イカてまうやろ。うちがこの数か月ルーに教えてやっとった化学やら物理学やら完全に無視した意味不明な技術やんけ』


「……確かに!………でも、魔術ってのは教会で沢山祈りを捧げて神様に認められた人が呪文を唱える事によって、神様が奇跡の代行をしてくれる神聖なる力なんでしょ?化学とか物理とかとは全然違──」


『アホかお前!!神なんておるか!……いや、まあおるけど、おらんねん!少なくともこの世界の人間が考えとるようななんか髭はやしたおっさんやったり、えらい薄着の姉ちゃんやったり、背中から羽生やした露出狂のガキやったり、そう言う感じの神はおらんねん!』


「あー、そういえば何かそんなこと言ってたね。神様は居ないって言うか、この世界の人間じゃ確認のしようがないとかなんとか……」


『せやせや。魔術は神の奇跡でもなんでもあらへん、ちょっと才能が必要なだけの一つの技術でしかない。大体、もし仮に神聖な奇跡の力やったとしてなんで“魔”の“術”なんて言葉が使われとんねん。ネーミングセンス疑うでマジで………………まあ、考えたんはクソボケのグレイブロンやけど』


「へーーー!!魔術ってグレイブロンさんが考えたものなの?」


『せやで、“魔物”を“ぶっ殺す術”だから“魔術”って名前つけただけやから、神様とかそう言うんぜーんぜん関係あらへん。祈ったらある日魔術の才能が沸いてくるとか嘘も大概にせえって感じなんやけど…………………まあ、神の奇跡やなんやかんや言い始めたんも……ボケナスのグレイブロンやけど』


「じゃあ今の魔術って全部グレイブロンさんと昔のクラーが考えたものだったんだ?」


『ま、まあ……あの頃は人と魔物の乱世やったから嘘も方便ってな感じで好き放題な発言も許されとったからな……でも、まさか1000年以上経過してんのに神に祈り捧げてわけのわからん魔術理論構築しとるとは思いもせんかった』


 天を裂き地を穿ち星を覆う聖剣とか言われてるしな……一体当時はどのくらい適当な発言をしていたんだろうか。


『とにかくや!お前ら第九界の人間どもが有難がっとる魔術とか言うわけわからん奇跡の力は、聖剣カラレスクラーを製作した世界の人にとってすれば科学技術の一つでしかないわけや。そこでは魔術なんてちんけな呼び方やのうて“接続学”って呼ばれとるけど、呼び方はどうでもええわ』


「おー……接続学……」


 魔術が科学技術の一つって、どういう感じの世界なんだろうか。そもそも聖剣ってどうやって作るんだろう、どうせ作るならもっと大人しい感じの性格の聖剣を作ればいいのに。


『うるさい!黙っとれ!はあ………まあ……ええわ。ほら、前に話した事あるやろ本質と現象の話』


「はいはいはい!この世界は五感で捉える事の出来る現象とは別に、目で見る事が出来ない超常的本質、すなわち本質(イデア)によって成り立っているという話ですね!」


『せやせや、ちゃんと覚えとるな。偉いぞルー』


「いやだって教えた事全部覚えてないとめっちゃ怒るじゃん。……でも、これってあれだよね?目に見えないものについて考えるのは時間の無駄だからやめろっていう前提で話してくれたやつだよね?形而上学なんて無駄だからそんなもん考えるなボケって言ってたやつでしょ?」


『せやな。形而上学は学問極めた後の老後に楽しめばええから、今は他のことちゃんと学べって言うた時のやつや。……そんで、接続学って言うか……魔術はこの形而上学の範囲に片足突っ込んでるわけのわからかん科学なんや』


「ほほー?」


『うーん……わかりやすく言うとやな、味覚とか嗅覚とか聴覚はわかるやろ?』


「うん」


 何言ってんだいきなり。


『これがどう言うものかもわかるよな?』


「うん」


『ほんじゃあ、それがどう言うものか……味覚のない人間や嗅覚、聴覚の無い人間に言葉で説明してその感覚を伝える事って出来るか?』


「え、出来るんじゃない?」


『相手は味覚も嗅覚も聴覚もないんやで?ほんまに正しく伝えられるんか?自分が食っとるもんの味も、感じている匂いも、聞こえている音も、今自分が五感で感じ取っとるモンを伝えてその感覚を相手に正しく共有してもらえる事ができんねんな?』


「……………ん………それは……」


 ………よく考えると難しい気がする。


 今まさに俺の頭の中で響いているカラレスクラーの声一つとっても、俺はこれを正しく誰かに伝えられる気がしない。美しい声、綺麗な声、透き通る声、いつまでも聞いていたくなるような声であり、やたらうるさく口汚いこの声を、俺は俺以外の人に正しく伝えられる自信がない。

 だってこの声は俺にしか聞こえないのだから、本当の意味でこの声を誰かと共有するには誰かにクラーの声を聴いてもらう以外に方法はない。


 味覚、嗅覚、視覚にしたって同じことだ。

その感覚を持たない人に俺が今まさに感じている感覚を伝える事なんて出来るはずがない。説明する事は出来るし理解してもらう事も出来るだろうが、俺が受けている感覚をそのまま伝える事は不可能だ。

 感覚を共有したいのであれば同じく味覚や嗅覚、視覚を持った人と同じものを食べ、同じ匂いを嗅ぎ、同じものを見なければ本当の意味での感覚の共有は出来ない。口頭の説明だけで伝えられるのはその上辺だけじゃないだろうか?



『たとえば、目の前でクソ辛い食いモン食っとる奴がいくら辛い辛い言うても、お前がそれを食うとるわけやない。お前は確かにそれが辛いモンやろうと想像することができるやろうけど、それは相手の感想をお前が受け取ってお前なりに解釈した感覚であって、目の前でクソ辛いモン食うとる人間と感覚を共有したとは言えん。もしそれを共有したいんやったら、実際にお前もそのクソ辛い食いモンを食うてみるしかない』


「……うん、わかった。つまり───」


『魔術も同じや。魔術を扱うにはいわゆる魔力って言うわけわからんモンを感じ取れなアカンわけやけど……これは口頭で説明できるようなモンやない。魔力を感じ取れる奴はそれが当たり前に感じ取れるし、感じ取れん奴にはそれが理解出来へんのや』


「だから、神の奇跡とか言われたりして……感覚的な才能が必要になる魔術は勉強すれば誰でも使えるようになるわけじゃない、だから形而上学に片足を突っ込んだようなモノだって言ったのか……なるほど……」


 魔術は基本的に貴族の力で、平民で扱える者は中々いない。つまり、魔力を感じ取る才能を持つ人間は貴族に多いわけたが………才能と言うより遺伝的な何かなのか?


『正解や。魔術を扱うには魔力を感じる才能が必要になるが、これは感じられへん奴にとっちゃわけわからん空想の産物でしかない。せやけど、事実として魔術は存在しとるし、魔術を成立させるためのソレは確かに存在しとる。それをこの世界の人間は神の力や奇跡やと言うとるわけや、うちらはそれを“場”って言うとるけど、まあ、魔力の方が分かりやすいわな』


「………魔力って何なの?」


『それ知りたいんやったらもうちょい勉強せなアカンな。せめて量子力学あたりまで進まんと、今のルーにはまるで理解できへんよ。簡単に言うなら次元の向こう側のことなんやけど………ま、いつか理解できる日も来るやろ』


「………うーん……」


 勉強は好きだし難しい話は嫌いじゃないが、理解できない話は頭が痛くなるので出来る事なら避けたい。明らかにこの世界と隔絶した技術と知識を保有しているカラレスクラーの言う事を、全部正しく理解できるようになる日は果たして来るのだろうか……



『さて、ややこしい話は適当に放り投げて、魔術教えるでー!』



 それはそれとして、俺は魔術を習う事になった。


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