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第16話 まずは1人目の天才を生み出す



 遡る事、約一月前

 オリアナの家に遊びに行く前の話



『人は考える生き物で、多かれ少なかれ知りたいと言う欲求を持っとる。ルーみたいに何でもかんでも興味持つ奴もいれば、剣にだけ興味もつ奴もいるし、もうちょいこの世界が進めば金にしか興味ないような奴もバンバン現れるわ』


 お金儲けをするにあたり、俺はカラレスクラーからいくつかの話を聞かされた。


『一番てっとりばやい金儲けはルーが聖剣の力を使って適当にこの世界の人間には作れんような装飾品を作って売る事なんやが………』


(いやだ!やるなら俺も何か頑張りたい!)


『ルーはそういう奴やんな………まあ、そんな事ほんまにしたら目端の利く奴らに目ぇ付けられて誘拐されて飼い殺しにされたりもするやろしな。あんまり世界から逸脱した力を使うんはうちとしてもオススメやない』


 聖剣の力を使えばその辺の土や石からなんでも作れてしまうらしいのだが、よくわからないものは作りたくないし、よくわからない物を隠して置けるほど我が家は大きくない。父さんや母さんに見つかって説明するのも大変そうだしな。


『となるとや、なんの実績もないルーが金稼ぐ方法は限られとる。小金稼いで満足や言うんやったら話は変わるけど──』


(農地改革するには大金がいる、小金を稼いでリヒトの街周辺の畑を全部改善できるようになるとは思えない。……稼ぐなら大金だと思う)


『せやな。街一個と言わんでも、一区画の畑を弄るだけでも相当な金と時間が掛かる。せやから、ルーはこれから目ン玉飛び出るくらいの金を稼いで貰うつもりやけど、これにはいくつかの段階がある』


(段階?)


『せや、まずは金になる商品を用意せなアカン。うちの授業聞いとるからもう色々わかっとるやろうけど、商品には色々ある。誰でも持っとる労働力っちゅう商品から、ルーが作っとる野菜もそうやし、ボケ爺がやっとる鉄器もそうや。それと──』


(知識、だよね?)


『正解や。ただ、いくらこの世界にはない最新の学問を教えとる言うても、ルーの知識なんてハナクソ程度の価値しかあらへん。賢い人間なんてそこら中に腐るほどおるし、そもそもこの世界の知識が圧倒的に足りてへんから何が有効かも完全にはわからん』


(えぇー………)


『せやけど、ルーの知識がウンコみたいなもんやとしても、うちの保有する知識が値千金であることに変わりはない。第九界アメロイデス程度の世界なら滅茶苦茶にぶっ壊せるような知識もあるし──』


 その発言を聞いた瞬間、俺はそっとカラレスクラーを身体から出し、全力で道端のうんちに向かって投擲しようと大きく身体をしならせたが……


『待て待て待て!!担い手が望まん限りうちはそんな事せえへんわ!!』


 俺はそっと聖剣を身体に仕舞った。


『お前マジで怖いわ………んん!……まあ、気ぃ取り直して……うちの持つ知識は多岐に渡っててな、さっき言ったような知識もあれば………もちろん、今ルーが頑張っとる農地改革のような、世界を豊かにする為の知識もあるわけや』


(確かに……うん)


『この世界も勇者グレイブロンのいた時とはちゃうから、適当に強い魔物ぶっ殺してるだけでアホみたいに信頼獲得できるような単純な時代やない……昔はやれ奇跡だの、やれ神の御業だの言うとれば大抵の事は誤魔化せたけど、こんだけ文明発展しとったらもう無理や。知恵持った人間が増えると、逸脱した力は社会から弾き出されるようになっとる。今はいい感じにしょぼい貨幣経済で回っとるし、今の時代でそれなりに地位を上げるにはそれ相応の実績が必要になるわけやが……』


(………なるほど)


『あんまり先進的な事すると受け入れられへんし、かと言ってしょぼ過ぎると誰も相手にしてくれへん。その絶妙なラインを見極めるんはめちゃくちゃ難しいんやけど、何と言ってもうちは聖剣カラ───』


(そう言うのいいから!何すればいいのか教えて!)



『…………はい、腕時計と言う新しい常識(・・・・・)を売りつけまーす』



(うでどけい?)



『この世界のある程度のお金持ちは時間を確認する道具としてだけではなく、オシャレなファッションアイテムとして懐中時計を持ち歩いているようですが、我々はそれを腕にくっつける為のモノを開発しまーす』


(へー………それって凄いの?)


『はあ?…………ってまあ、そんな反応するやろ思っとったけど。ルーは懐中時計持ってないし、いまいちピンとこないやろうな……でも、人は考える生き物やって言うたやろ?』


(うーん………?)


『どうすればもっと便利になるんかなーって、利便性を求める事に興味を持つ人間も一定数おってな…ま、そう言う人間は今ある物に満足せず、人類を次のステップに押し上げてくれるわけや。どうすれば作物の収穫量が増えるのか、どうすれば懐中時計をもっと便利に出来るのか………どうすればもっと効率的に人を殺せるのか……利便性を追い求める奴らは考えるんや、色んなことを、な?』


(…………うん)


『物作りをする奴とか戦場で銃や剣を使って殺し合う奴、両手に荷物を抱えて人と待ち合わせしてる時でもええな。手が離せん状況ってのは結構あるわけやが、それでも時間は止まらんし戻らん。いずれそれも解決するかもしれんが、少なくとも現時点でのこの世界の技術力では時間の概念は超えられるもんやない』


(え?神様は時間を操れるの?)


『ん?せやな、部分的には…ってまあ……今はその話は置いとけ。とにかく、考える生き物である人はこれから先ずっと時間に縛られる事になる。せやから、より簡単に、より便利に時間を確認出来るようになるんは簡単なようで実はかなり重要な事なんや。この世界の人間も、もう数百年もしたらどいつもこいつ時計を持ち歩くし、どいつもこいつも時間に追われるようになる。これは絶対や』


(………何だか怖いね……で、でもさ?それならなんで皆は懐中時計をポケットに入れてるの?クラーは腕時計って言ったけど、懐中時計を腕にくっつけるだけでホントにお金稼げるの?)


『なんでもなにも、今はそうすることが常識(・・)やからやろ。ベルトに紐を通してズボンのポケットに仕舞う、時間を確認する時に取り出す。それが常識やからやろ』


(………常識だから?)


『せや……人は考える生き物やけどな、常識になってしもうた事象については案外適当やねん。そういうもんやと受けいれてしまって思考が停止する。腕時計なんて言う思いついてしまえば何てことのない発想にすら届かんくなってまう。ま、ルーは腕時計の一体何処が優れているのかまだようわからんみたいやけどな』


(うーん………常識を信じたら駄目ってこと?)


『そうは言うとらん。なんでもかんでも疑って掛かればええわけちゃうし、常識を疑ってばかりいよったら生活も出来んし周りからは変人扱いされたりもするからな。ただ、極稀に………そんな周囲の反応を気にせずに生きて、常識を塗り替える奴が現れる。………人はそれを天才と呼ぶわけや』


(……えっと、そういう天才を沢山生み出して世界を変革するのが、聖剣の担い手の仕事……なんだよね?)



『せや、だからまずは1人目の天才を生み出す』


(おおー……天才ってどんな人なんだろう……頑張ってサポートしないとね)


『さて、どんな奴やろな………でもまあ、1人目の天才は間違いなくリヒトの街で生まれるやろな。もう目星も付いとるから心配すんなや』


(わかった!)



 こうして俺と聖剣はお金を稼ぐ為の初めての作戦『誰かいい感じの人に腕時計のようなものを作って貰おう作戦』を練り上げる事となったのだった。


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