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第14話 普通に喋ってください


 初めてオリアナの家に遊びに行ってから1カ月程が経過した。

毎週学校が終わると遊びに行き、他の日も時間があれば勉強時間を少し削ってまでオリアナの家に足しげく通ったのだが……その間、ヘクターさんとの関係は特に進展しなかった。


 気が付けば季節は進み、夏は終わり秋も終わりに近づいていた。



 オリアナとはとても仲良くなってきたような気がするが、その10分の1くらいヘクターさんと仲良くなって話を聞いて貰いたいのだが……中々切欠がないまま冬に突入するかと思った、ある日だった。



「お?ルー坊じゃねぇか、こんな所でなにやってんだ?」


「ウェズー!なにやってるの?」


 ヘクター工房の前を通ってオリアナの家に遊びに行こうとした時、一度聖剣の破壊を試そうとした鍛冶屋のウェズが工房の中からぞろぞろと人を引き連れて現れたのだが、その中にはヘクターさんも居た。


「何やってるもあるか、儂は仕事じゃ仕事。ルー坊こそ何やってんだ?ここは職人街じゃろうが……なんじゃ?騎士になるのはやめて職人になるんか?」


「ならないならない!俺は将来立派な騎士になる!あ、ヘクターさんこんにちは!」


「なんじゃ詰まらんのう。おう、ヘクター知り合いじゃったんか」


「ああ……はい、その……オリアナの友達でして」


 いつも全身から帰れオーラを出しているヘクターさんにしては珍しく、ウェズと会話をしている姿は何と言うかへなへなとしていた。


『ほーーーーーーーーーーーーーん!!!!』 


(な、なに?うるさいよ)


「おい坊主、ルー坊がこんにちは言うとるじゃろうが……何を無視しとるんじゃお前。いつから人様の言葉聞かんでええ身分になったんじゃ?」


 坊主ってヘクターさんの事いってるのか?


「いえいえいえそのようなことは!や、やあルーカス君!こんにちは!」


 おお……ルーカス君だなんて初めて言われた。



『そういやそこのボケ爺って鍛冶屋ギルドの元締めや言うとったな!』


(ボケ爺って……ウェズは良い人だよ。鞘をガツンガツン叩かれたことをまだ怒っているのか……なんて心の狭い聖剣なんだろうか……)


『やかましいわ!!そんな事よりもウェズともっと話せい!!』


(え?なんで?)


『アホ!なんでもええからいつも通り話せや!』



「俺はオリアナと一緒に勉強しようと思ってここまで来たんだけど、ウェズはなんでヘクターさんの工房にいるの?鍛冶屋さんはいいの?」


「工房に籠って鉄打っとるだけが仕事じゃないわい。それにしてもなんじゃ?ヘクターなんぞ呼び捨てで構わんぞ呼び捨てで。親方や言うてもまだまだガキじゃからのう……そんなヘクター“さん”だなんて呼ばんでええぞ」


「えっと………?」


 ガハハと笑いながらウェズはいつも通りに話しているが、ヘクターさんを呼び捨てにするのはちょっと無理があるというか怖いというか……どうしたものかとヘクターさんに視線を向けると


「自分の事はヘクターと呼んでもらって構いやせんぜ、ルー坊ちゃん!」


 何が何だかわからないが、ヘクター……さんは気持ちいくらいの笑顔でぺこぺこと頭を下げていた。よくわからないが、もしかするとウェズは凄い人なのだろうか。昔からよく話しているお爺さんという印象しかないのだが……


『ぎゃははは!!!愉快愉快!!!ボケ爺改めクソ爺にしたるわ!!』


(うるさいなあもう………)



「おう、仲ようせえよ!それじゃあ、儂は他にも行くところがあるからまたな、ルー坊。いつでも遊びに来いよ」


 俺とヘクター……さんの肩をポンポンと叩いたウェズはそれだけ言うと、ぞろぞろと人を引き連れて何処かへ歩いて行ってしまった。


 またね、と声をかけて見送っている俺の横で、ヘクター……さんも丁寧に頭を下げていた。ウェズのお仕事って鍛冶屋だけじゃないのだろうか。鍛冶屋ギルドの元締めってどんな仕事をするんだろうか?……なんてことを考えていると



「いやー、ルー坊ったらお人が悪い!ウェズさんと知り合いだったなんて早くいってくださいよ!」


 気持ち悪い笑みを浮かべたヘクター……さんが話しかけて来た。



「ふ……普通に喋ってください!」



 困惑する俺の頭の中では、カラレスクラーが延々と爆笑していた。


 ほんとに聖剣なのかな…………性格悪くないか………



 ◇ ◇ ◇



 その後、オリアナの下に行く前にヘクター工房の2階に通された俺は、斯く斯く然然ウェズとの関係を話をした。


「はー……なるほどなー、マジでびびったぜ。ウェズさんがルー坊なんて言うもんだから、実はとんでもねぇ貴族様か何かかと思っちまったぜ」


「貴族は貴族ですよ!」


 工房の2階、ちょっと豪華な調度品が置かれた部屋に通された俺は、ヘクターさんと向かい合うような形で革張りのソファーにちょこんと座って話をしていた。親切な事に紅茶まで出してくれた。


「貴族つってもリヒトの街に飛ばされるような騎士だろうが」


「父さんは立派な騎士です!お金はないですが!」


「そりゃメイソンは良い奴だが、そもそもここらじゃ騎士様の仕事なんてそうそうないからな。リヒトの自警団だけでも十分治安維持はできるし、ここにはウェズさんがいるからな。誰も悪さしようなんざ考えねぇよ」


「………なるほど……ウェズって凄い人なんですか?」


 ヘクターさんの言う通り、父は毎朝の街の警邏の後は特にやることがないからいつも畑仕事してるしな。リヒトの街は本当に平和なようでそれはそれでいいのだが、それよりもウェズがどういう人なのか気になる。


「凄いってか……とんでもねぇ人だよ、マジで何も知らねぇんだな」


「マジで何も知らないけど、とんでもねー人なんですか?」


 どうとんでもねー人なんだろうか。


「はぁ……これだからガキは気楽でいい………ギルドってわかるか?ってまぁ、ルーカスは騎士様の家だしわかんねぇか」


「知ってます!職業毎に組織された纏まりで、お互いに利益を守ろうという目的で結成されたものだと教えてもらいました!」


 カラレスクラーにな!


「おお、学校で聞いたのか?いや、まあいいか……とにかく、そんなギルドの中でも一際でっかいのが──」


「商業ギルド、鍛冶ギルド、魔術ギルドの3つですね!」


 カラレスクラーに教えて貰った所だ!


「って何だ?そこまで知ってるならわかるだろうが」


「わかりません!」


「わかんねぇのかよ!…………まあいい………特に力をもったこの3つのギルドは『グランド』って呼ばれてるわけだが、ここに所属する人間はどいつもこいつも並大抵な奴らじゃあねぇ」


「ヘクターさんでも?」


「無理無理、俺程度じゃ話になんねぇよ。グランドは天才の集団だからな、本来なら貴族様に貪られるだけの平民を守る力をもった組織だ。鍛冶ギルドは俺ら手工業者の盾だし、商人ギルドは平民を破綻させないように日々調整してくれてるらしいし、魔術ギルドは優秀な平民を見つけては貴族への対抗する駒として育成してる。俺ら平民とお貴族様の調整をしてくれてんのが、ウェズさん達グランドの人達だ」


「おー知らなかった」

『おー知らんかった』


「それにま………ウェズさんは今でこそリヒトの鍛冶ギルドの元締めに収まってるが、元は王都でグランドマスターやってたような人だかんな。俺ら職人からすっと神様みてぇなもんなんだよ」


「グランドマスター?」

『なんやそれ?』


「ん?ああ………普通のギルドってのはマスター……つまり、親方が一番上の称号なんだが…………商人ギルド、鍛冶ギルド、魔術ギルドにはマスターの上、マスターを束ねる最高位の称号『グランドマスター』ってのがあんだよ。ま、ウェズさんは大体30年くらい前か?そんくらいまで王都でグランドマスターやってたようなすげぇ人なんだよ」


 ヘクターさんはまるで少年のように目を輝かせて熱弁してくれたが、その態度からどれだけウェズの事を尊敬しているのかが伝わってくる。


「知らなかった………鍛冶が好きなだけのお爺さんだと思ってた……」

『うちに無礼を働いた、ただのクソ爺や思っとったわ』


 ウェズの認識を改めないといけないと思いつつも、やっぱりどう凄いのかよくわからずにいた俺が気になったのか、


「まあガキにゃわかんねぇだろうが………そうだな………」


 テーブルを挟んだ向こう側の椅子に座ったヘクターさんが、ズボンのポケットからごそごそと何かを取り出し……


「ほれ、例えばこれとか……」


 それをテーブルの上に置いた。


「まさか………」


 それはもちろん知っている。

 

「そうだぜ?この懐中時計・・・・だってウェズが80年くらい前に作ったやつだが………その様子じゃ知らなかったようだな、わはは!」


 何故か自慢げに笑っているヘクターさんは最早どうでも良かった。



 だって……


『おいおいおいおいマジか……!』


「ウェズが…………懐中時計の産みの親……」


 思わず唾を飲み込んだ。



 だって、俺とクラーのお金儲けには懐中時計が必要不可欠だから。俺達はそれを使った新しい物を生み出そうと考えいたから………



『急に運が回って来おったで!!………多分今や!今しかないでルー!乗るしかないで、このビッグウェーブに!!』





「………ヘクターさん、お話があります!」



 俺はこの日、上機嫌に話をするヘクターさんを相手に初めての戦いにこの身を投じる事となった。


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