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第12話 お嬢?



 ギルド、職業別に結成された互助組織。

製靴、漁師、肉屋、石工、大工、この国には様々なギルドがあるが、その中でも特に大きなギルドが商業ギルド、鍛冶ギルド、魔術ギルドの3つだ。中小のギルドは結局のところこの3つの何処かに所属するような形で成り立っているものばかりだ。

 


 そして、俺は鍛冶ギルドの下部である皮革ギルドに所属しているであろう革細工職人を父親にもつオリアナと言う女の子の家に遊びに来たのだが……


「お、大きな家だね」


「そんな事ないと思うけど………うちはルーみたいな騎士様のお家じゃなくて平民だし……」


「へ、へぇ……」


 手を繋きながら一緒に並んで歩いているオリアナが指さした家は明らかに俺の家よりも立派な造りをしていて、少し離れた場所には皮を鞣している職人や徒弟らしき人達が作業する建物もあり、中々に強烈な臭いを放っていた。


「ご、ごめね。臭いよね」


 俺が皮を鞣している職人さん達の方を見ていると事に気付いたのか、オリアナは申し訳なさそうに弱々しく笑ったのだが……


「え?ああ、いや別に。職人さん達は凄いなーって思って見てただけだよ」


「そうだよね!みんな凄いんだよ!」


「だな!俺は将来立派な騎士になりたいと思ってるからさ、職人さんはやっぱり尊敬するよ。あの人達が居ないと剣も鎧も出来ないしね」


 オリアナは皮鞣しの工程で発生する独特の臭いを俺が不快に思っているとでも考えたのだろうが………畑で使ってる骨粉も割と臭いし、なんなら道端に落ちてる糞の方が全然臭いしどっこいどっこいだろう。

 匂いなんてものは慣れてしまえばどうって事ないものだ。


「それより、オリアナのお父さんもあそこで働いてるの?」


 髪飾りを見るに革細工師だと思ったが、皮鞣し工や毛皮職人の方だったのだろうか?


「ううん、お父さんは革細工師だから今の時間なら工房の方にいると思うよ」

 

 良かった、革細工師だった。


「オリアナの家に遊びに来るの初めてだし、ちゃんと挨拶もしとこうかなって思ったんだけど………流石に仕事中は駄目か」


 とりあえず夕方くらいまでオリアナと遊んで、親父さんが帰宅するのを待って挨拶をしよう。今日はそこまでが限界かもしれない

 

「あ、そっか……やっぱりルーは凄いね。私全然何も考えてなかった、えへへ」


「いやいや、仕事の邪魔する方がおかしいからな。挨拶はまた後──」


「ううん、工房はうちのすぐ横にあるから行こ!」


 お金を稼ぐのは大事だが、何もそれが全てではない。

慌てる事なく一歩ずつ進めばいいし、とりあえずオリアナともっと仲良しになって親父さんともいずれ仲良くなれればいいかな……くらいに考えていたのだが………


「え、今から?流石に邪魔にならないか?」


「多分大丈夫!」


 何故か自信満々なオリアナは俺の手を引っ張り、今まさに仕事中であろう革細工師達が仕事をしている工房の方へと歩き出した。

 



 ヘクター工房と言う名の建物に入ると、まず、何人もの革細工師がテーブルで細かそうな作業をしていたり、大きな裁断機で革を切ったりしている姿が目に入った。次に来るのはやはり独特な匂いだろうか、詳しくは知らないのだが革細工にはいくつかの薬品を使ったりするらしいのでそれの匂いだろう。


『ほー、まあええ感じに作業しとんな。どいつも腕は悪くなさそうやし正直誰でもええんやけど、どいつがオリアナの親父や?』

 

 カラレスクラーがいい感じだと言うのであれば、ここの工房の人達は間違いなくいい感じの腕なのだろう。


 最初に職人達が目に飛び込んで来て、次に独特な匂いが鼻に入って来て、そして……


「お嬢、お戻りになられたんですか!」

「お嬢、お帰りになられてたんですかい!」

「お嬢、工房に何かご用ですかい!」


 オリアナの事をお嬢と呼ぶ職人達の声が聞こえてきた。


「……お嬢?」


 よくわからないままオリアナに手を引かれて工房の中をズンズンと進む俺の頭の中では、


『マジか……これはひょっとしたら大当たりかもしれんな……』


 嬉しそうなクラーの声が響いていたが、のんびりとクラーと会話する間もなくオリアナは工房の奥へ奥へと歩いていき、皆が作業するなか1人違う服を着て机で書類を眺めておるお偉いさんの元へ向かっていた。

 まさかあの人がお父さんなのだろうかと思ったものの、


「エドさんこんにちは、あの……お父さんは何処にいるかわかりますか?」


 どうやら違ったらしい。


「おかえりなさいませ、お嬢。親方なら上におりますが何か急ぎの用ですか?」


 そして、他の職人さんよりも話し方がちょっと丁寧な感じのその人は確かに言った。


「親方……?」

『おっしゃああああ!!大当たりや!!!』


 そんなちょっと丁寧な感じのおじさんなは、親方と言う単語を聞いてポツリと言葉を漏らしてまった俺に訝しむような視線を送ってきた。


「………お嬢、そちらの子はなんですか?」


「あ、えっと、学校の友達でね、ルーカスって言うの」


「初めまして!ルーカスと言います!」


「ほうほうほう………………ま、俺から言う事は何もありゃしませんが………ルーカス君も頑張りなさい」


「は、はあ……?」


「今は来客もありませんし、上がって貰って大丈夫ですよ」


 何か言いたそうな雰囲気のまま俺から視線を外したエドとか呼ばれていた男は、後ろの階段を指さしながらオリアナに話していた。


「大丈夫だって、行こ!」


 エドとやらの言葉を聞いたオリアナは楽しそうに笑っていた。


「あ、うん」


 そして再びオリアナに手を引かれながら、俺は工房を奥へと奥へと進んでいった。



 めちゃくちゃ広くてとっ散らかった印象があった1階とは違って、2階は年季が入っているものの特に汚れもないちょっと小綺麗な内装だった。

 エドさんと似たような服を着た人がちらほらと歩いていて、すれ違いながらオリアナに挨拶をしていた。


「あのさオリアナちょっと聞きたい──」


 オリアナのお父さんがどう言う人なのかは今日のんびり遊びながら聞こうと考えていたのだが………思っていた以上に早く紹介してもらえるようなので、今から少しでもお父さんの話を聞いておこうと思い口を開いた直後、


「あ!お父さん!」


 どうやらオリアナはお父さんを見つけたらしく、嬉しそうな声をあげて俺の手を引っ張りながら速歩きになった。


「お父……さん……?」


 自然と俺もオリアナの向かう先に視線が行くわけで………


『おお……こりゃまたごっついオトンやな』


 視界に飛び込んで来たのは、頬に傷痕を浮かべたスキンヘッドのおじさんだった。眼光は鋭く、腕は騎士である俺の父よりも余裕で太く、その辺を歩いている他の人と服装も違う、そんなおじさんがそこに居た。



「お父さん!お友達が来てくれたの!」



 いやいや、このおじさんとオリアナに同じ血が流れているわけがない。彼女はいつも話しかければふんわりと笑って返事をしてくれる可愛い女の子だ。


 目の前にいるコワイイ人とは似ても似つかな──



「おお、そうかそうか!……娘が友達を連れて来るなんて初めての事だ、歓迎しようじゃないか」


 

 ──お父さんだった。


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