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玲瓏  作者: こみくる
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縛られぬ者たちの集い

 警察署のオフィスの窓側の一番奥のデスクでいびきをかき、よだれを垂らしながら寝ているのはウィルソン警部補である。デスクの上には山ほどのビールの空き缶やワインボトルが書類やファイルの上に陳列している。ゴミなのに綺麗に見せようとするのは彼のこだわりなのであろうか。なんにせよ酒臭いので同僚も部下も片付けてほしいと願うばかりである。そんな彼の夜のルーティンは外で酒を買ってきて、みんなが帰って静まり返った署内の自分の席で酒を飲みまくって寝落ちすることである。いわく、空調設備は整っているし、綿の仕込まれたクッションがついているルームチェアの寝心地がとても良いからこの習慣は止められないらしい。そんな彼は始業の時間までに起きることはめったにないのだが、やけに外が騒がしいので目が覚めてしまったようだ。

 「なんだぁ〜?朝っぱらから騒がしい…もうちょっと静かにしろやぁ…」 ゴツンッ!そう言うウィルソンの頭に拳骨がお見舞いされた。「あんたはとりあえず家に帰って寝なさいよ!あんたがエアコンつけたまま寝るから電気代が馬鹿にならないのよ!!」リストは朝から叫んだ。「痛いですねぇ長官、訴えますよぉ?」「うっさいわね!いいから早くそのゴミを片付けなさいよ!」

「ゴミじゃないれすよぉ…これとか50年くらい前の…」

「そんな年代物のワインがコンビニで買えるわけないでしょうが!」飲んだくれの相手はとても大変そうである。

 「にしても長官、今日は出社早いんすねぇ…どうしました?」大きくあくびをしながらリストにウィルソンは問うた。「今日は例の新部隊の説明会なのよ。」「あぁ、一昨日な強盗を退治した問題児をそれに配属したい的なこと言ってましたねぇ、結局入ったんれす?」

「えぇ、快く受け入れてくれたわ!私の人望ってやっぱりとても厚いわよね〜♡」流れるような嘘である。「ちょうど良かったわ!あんた受付手伝いなさいよ!「え、嫌ですよぉ。まだ寝たいんですー。」そう否定する彼のことなんかお構いなしにウィルソンの襟の裏を掴んでリストは受付へと向かった。


ーーーー40分後、「63人集まりました。これで64人、全員来ましたね。」「あと一人来てないわよ!あんたまだ酔ってんの!?」もうまもなく説明会が始まるというのに受付を済ませてない者がいた。自分勝手で捻くれものの彼である。リストは嘆息して諦めたのか会場に入っていった。パンフレットを読んだり、スマホをいじったり、談笑してるものを制するために大きく一声上げる。「ちょっと早いけど始めるわよ〜♡」全員他ごとを止め、リストの方に目をやった。同時に始業時刻を知らせるチャイムが鳴り響いた。チャイムの余韻が鳴り終わる前にリストは声を発そうとした…その時であった。部屋の入口のドアが勢いよく蹴飛ばされ、壁にぶち当たった反動でまた閉じた。ドアを蹴飛ばした主がぬっと姿を現した。紅い眼がリストをギラリと睨みつける。「よぉ、ちゃんと時間厳守で来たぜ?半分女?」



 茹で蛸のように真っ赤な顔をしてリストはまた叫ぶ。

「遅刻してるのになんて言い草なの!後で事情説明してもらうわよ!」玲斗は鼻で笑いながらこう返した。

「チャイムが鳴り終わるまでには来たんだ。セーフだろ?」「ばっちりアウトよ!このどアホ!」部隊参加者たちがザワザワとし始めた。なぜ警察トップと下っ端があんなにも和気あいあいと茶番をしているのか、なぜあんなろくでなしがこの場にいるのかとヒソヒソと周りから聞こえてくる。このままではリストも格好がつかないと思ったのか玲斗に席につくことを促した。思いの外、玲斗はすんなりと従った。ろくでなしの着席と同時に再び沈黙の空気が流れる。そんな中、説明会は行われた。

この部隊はリストの指示で動かせること、故に迅速な事件対応ができること。迅速だからって人の命を危険に晒してはいけないことなど部隊の役割や注意事項を坦々と話していく。よほどノンリエに興味があったのか玲斗も他の隊員と同様に真剣に話を聞いていた。


 説明会後、隊員たちはリストに連れられてマンションのような建物に案内された。所々塗装は剥げているものの耐震加工も施されている。安全面での心配はいらないだろう。中に入ると見た目からは想像できないようなきれいな空間があった。欠けていない白い床タイル、天井にはアンティークな電気ランプが吊り下げられ、壁には荘厳な絵が飾られている。誰もがここがどういう場所か見当もついていない様子を見てからリストが口を開く。「は〜い♡ここがノンリエの隊員宿舎よ!貴方達には基本的にこれからはこの場所で生活してもらうわ。電気もガスも水道も通っているし1階にはちょっと小さいけど食品保管庫があるわ。材料取って自室で料理してもいいし、料理できない子にはレンジでチンして食べられるものもあるからご飯には困らないわよ♡」元々はなんの施設だったのかは分からないが暮らすことはできるように手は加えられているようだ。「さて、そしてあなた達の部屋についてだけど一班に一部屋割り当ててあるわ。部屋の間取りについては自分たちの好きにして頂戴♡」なるほど、なかなか自由度は高いらしい。するとリストは顎に手を当て右足をトントンとさせながらなにか考えている。言い忘れことがないかを考えてるようだ。無かったのか再び口を開く。「それじゃ、今日は解散にするわ。くれぐれも隊員間で問題を起こしちゃだめよ?」リストは玲斗を見ながらそう言うが、すぐに玲斗は天井を見上げた。


 隊員たちは各々の部屋に向かい始めた。同じ班のメンバーに声をかけたりして共に部屋に向かう。ピロティから全員が立ち去っても玲斗はマイペースにボサッと突っ立っていた。「班のメンバーね。どれどれ…」玲斗は事前に渡された説明会のプリントの裏を見た。全16班のメンバーリストからN班のものに目を通す。「天宮咲、ふし…不知火陽?それからラフォリア・コル…あぁ!もう!読みづられぇ名前だな!おい!」「ごめんね。でもそれが僕の名前だから。」瞬間、誰もいなかったはずのピロティに気配を感じ、玲斗がばっと後ろに振り向くと自分と同じくらいの背の男がポケットに手を突っ込みながら立っていた。銀の髪に、前髪にはフレームの赤いサングラス、鼻から下を覆っているのは鉄の仮面であろうか。奇抜な見た目をした男がいた。「僕はラフォリア・コレルリット。フルネームだと呼びづらいからリアでいいよ。君が僕の仲間かい?」鼻より下の表情は見えないが目だけでも今、微笑んでいることがわかる。「俺は歌月玲斗、よろしくな。」そういって右手を差し出す。リアはその手を両手で握り、上下にブンブンと振り回す。「朝見た時はとんでもないやつだなーって思ってたけど良い人そうで嬉しいよ!」「お前が俺の何を知ってんだよ。」リアの挨拶に笑いながらそう返す。誰もいないピロティに二人の笑い声だけが静かに響き渡った。


「ここかな?N班の部屋…」

「バカお前、ここMって書いてあんじゃねぇか。」

「分かってるよ♪ジョークだよジョーク!」

出会ったばかりのリアとそんな茶番を繰り広げる。

リアはふざけるのが好きなようだ。ピロティで会ってから部屋に向かうまでずっと今の調子のままだ。意味のない会話なのに玲斗が不快感を感じないのは彼の人柄が為す技であろう。そうなるとリストの人柄は悪いことになるのだがそれはまた別の話である。ヘラヘラと笑うリアを置いてすぐ横のN班の部屋のドアノブに手をかけ、ドアを開いた。


 玄関には既に靴が二足並んでいた。靴箱らしき棚の上には背の高いイチハツと造花のイヌホオズキが一輪ずつ花瓶に入れられている。「もう他の仲間は来てるみたいだね。入ろうか。」リアは靴の先を部屋の方向へ向けて奥へと小走りしていった。玲斗も靴を脱ぎつま先を揃えて置いた後、ある1足の靴の先をドアの方へと向けてからリアの後に続いた。

 短い廊下を通って奥の部屋へ行き着く。そこには12畳ほどのリビングが広がっており、木製の大きな丸テーブルの周りには耳に軍隊の勲章のような耳飾りをしたtheJKという感じの雰囲気を放つ長髪の女と、虚ろな目をしている吹けば消えてしまいそうな儚さを持った透明感のある水色のミディアムヘアの女が座っていた。長髪の女は笑顔でこちらを見ているのに対し、ミディアムヘアの女は玲斗を異物を見るような目で睨みつけている。玲斗を待っていたリアは彼のカッターの左袖を引っ張って丸テーブルの前に座らせ、下がってきたサングラスを少し上げてから座った。


 進級して同じクラスの子がいない時のように4人は気まずい時間を過ごしていた。その空気を破ったのは長髪の女であった。「私の名前は咲、天宮咲よ。みんな緊張しないでさ、もっとラフに行こ?」「…そうだね!僕はラフォリア・コレルリット。」咲に続いてリアが自己紹介する。「長いし変な名前ね?略してリアでいい?」そう言われてリアは玲斗に嬉しそうに話しかける。「すごいよ玲斗!この子超能力者かもしれない!」「多分、誰でもお前のことはそう略すと思うけどな。」玲斗は呆れながら言葉をこぼす。次に、ミディアムヘアの女が口を開いた。「不知火陽、好きなように呼んでください。」端的で短く自己紹介を終えた。「歌月玲斗だ。」前に習って玲斗もそう吐き捨てた。



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