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断罪予定の悪役令嬢の行く末  作者: みずのとさやか
断罪予定だった悪役令嬢のその後
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魔術協会長室にて

 隣国王弟妃はあの卒業式以降蟄居させられている筈でした。割り振られる予算なども大幅に削減され、かなりの行動制限も有り、一部の奉仕活動を除いて社交の機会も有りません。

 一時は派閥を築く程の影響力があった王弟妃の権力は削がれた、そう思われていました。

 けれど隣国では、王弟妃を慕う人が絶えないそうです。


「この小説、市井で人気と伺いましたが……貴族令嬢には?」


 隣国貴族の、特にご令嬢方に人気な王弟妃。


「我が国でも一部に人気が有り、隣国ではかなり人気だそうです」


 恐らく、隣国貴族令嬢の一部は小説の作者が王弟妃だと知っている。蟄居した王弟妃を密かに支えているのは、小説の熱狂的な愛読者なのではないでしょうか。


「王弟妃殿下が携わっている奉仕活動というのが怪しいと思います」


 わたくしの一言で魔術協会長は察してくださった様でした。


「たかが小説に、そんなにそんなに踊らされるもの?」


 呆れながらネメシアが言います。


 たかが小説、されど小説。

 前世ではオタアラサーだった『わたし』としては、この言葉にカチンときました。


「この小説には、悔しいですが力があります。もっと読みたいと思わせるような、魔力的魅力が」


 この世界の文体とは異なる文体。ゲームシナリオを元に構成されたルート別の内容でシリーズ化。更にオリジナルルートさえも読ませてしまう、キャラの掘り下げと文章力。それでいて萌え要素も強く、シナリオの行間をいい感じに膨らませていた。

 恐らく王弟妃は、かなり大手の同人作家だったに違いありません。


「小説自体には魔力を感じないけど?」


「魔力レベルの文章構成という意味です。ネメシアは、夢中になった小説とかはありませんの?」


 先程見せて貰った小説は、調査目的という口実で是非読ませていただきたいものです。

 目の前に魔術協会長やネメシアがいなかったら、『神本キター!』と叫んでいるところでしたが、わたくしは王太子の婚約者。そんな見っともない真似は出来ません。

 持ち帰らせてもらえたなら、ベッドで転げ回る事でしょうけれど。


「小説と同じ行動をしてしまう、という点においては非常に興味深いけどね。ま、奉仕活動について調べてみるよ」


 ネメシアは不可解な顔をしながら魔術協会長と今後について話していました。



 作者及び黒幕の件は隣国にいる協力者との連携で対応する事になったそうで、ある程度ひと段落です。するともう一つの懸案事項が。


「クロッカス王女殿下の件は、ノイエ殿下にお任せする事になりそうです」


 魔石の解析、黒幕の追跡や今後の動向などで手一杯になるとのこと。

 苦い顔で魔術協会長が話します。


「行事目白押しのところ殿下には申し訳ないが、魔術協会では近隣国王女殿下について手順を踏んで……では、仕掛けて来た時に間に合わない可能性も有ります。ご了承ください」


 協会長は、わたくしがノイエ様に会えない事をご存知の様で、それが更に悪化しそうな事を申し訳無さそうにしていました。


「手が足らず、というのは言い訳ですな。スターチス嬢には本当に申し訳無い」


 ネメシアが何か教えていたのかしら。わたくしに気を遣ってくださいました。


 けれど、気を使われれば使われる程、ノイエ様に『会いたい』という言葉が言えなくなるのを感じました。

 イフェイオン辺境伯領や王都で魔獣被害が起こるかもしれない今、一婚約者の我儘で更に危険に晒す事は出来ないのですから。


「殿下には会えないかもしれないけど、その分オレが空くから話聞くよ?」


 励ますようにネメシアが声を掛けてくれたが、


「お前には隣国の協力者との連携があるだろうが!」


 魔術協会長の言葉に肩をすくめていました。

 魔術協会もネメシアもノイエ様も、今回の件で忙しくしている事が分かります。


 わたくしはちょっと情報を提供しただけ。こんなに暇を持て余しているのに。ノイエ様にも会えず、関係性は近づいたのに前よりもずっと疎外感があります。


「もうすぐ協力者から定期連絡があるだろう、早く行け」


 魔術協会長はネメシアに指示を出し、ネメシアはグチグチ文句を言いながら協会長室を出て行きました。


「やっと行きおった。手間のかかる」


 溜息を吐き一呼吸した後、わたくしに向き直る。


「さて、二人きりになったところでお願いがあります」


 協会長は神妙な顔つきで切り出しました。先程までの軽口とは違う口調に、背筋を伸ばします。


「今回の件で、我が国における魔石研究が進みました。そこで、スターチス嬢には魔石研究に協力をお願いしたいのです」


 前にイフェイオンからも聞いていた話でした。


「勿論です。ああでも、聖女結界の魔石作成ならリリーナが帰還してからの方が良いでしょうか?」


 切り出された内容に少しだけ不貞腐れた口調になってしまいました。結局わたくしの協力は聖女の貸し出し許可なのだから。


「おや。スターチス嬢は意外と素直な方のようですな。仲間外れにされたような顔を見たと報告したら、殿下に殴られてしまいます」


 口調だけでなく表情にも出ていたようです。まだまだ淑女修行が足りませんね。


 表情を引き締めながら、あれ?と思いました。神妙な口調が途端に軽口に変わっていたからです。


「聖女リリーナ様には帰還後にお願いしますが、スターチス嬢の魔力を込めた聖結界魔石を早急に作りたいのです。なんでもイフェイオンを弾き飛ばすとか!私も一度スターチス嬢の聖結界を味わってみたいものです」


 楽しそうに話し出す魔術協会長には、わたくしが疎外感を感じていた事などお見通しだったのでしょう。


「ネメシアがいると、自分が一緒にやる!と煩いですからな。ネメシアに任せても良いのですが、そうすると殿下からお叱りを受ける。中間管理職は大変なのですよ、スターチス嬢。私を助けると思って、魔石研究に協力していただけませんか?可能なら明日からでも」


 王家にも口を出せる魔術協会が何をおっしゃると思いつつ、わたくしを慮ってくださる協会長に感謝しました。


「護身術ばかり上達している日々でしたから、喜んで」







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