小説の作者
短くてすみません…
「市井に出回る青い魔石と、イフェイオン辺境伯領で出回っている魔石が同じな事はネメシアからお聞き及びでしょう」
魔術協会長が重々しく口を開きました。
魔石に関する調査ですが、ネメシア同様、事前にわたくしが何故魔石の効果を知っているかを問わない事も約束してくださいました。
……とてつもなく怪しいだろうに、良いのかしら?
ただまあ、今わたくしが魔石を流布させるメリットが無さ過ぎますから、だから不問になっているのかしら?
「伺いました。それを受けて、わたくしの侍女であり聖女であるリリーナが明日イフェイオン辺境伯領に向けて出発します」
「私は魔石の流布が意図的では無いかと考えています」
魔力を持たず制御出来ない平民に魔石を流布させる意味と危険性について、わたくしが指摘するまでも無く魔術協会では気付いているようでした。
「こちらをご覧ください。市井で流行り、一部貴族の間でも読まれている小説です」
それはノイエ様も日記で懸念していた小説数冊でした。
パラパラと内容を読んでみると、思わず眉間に皺が寄ってしまいました。
とある国で平民から聖女が現れて最有力の婚約者候補を押し退けて聖女が王太子と結ばれる話、聖女が魔獣が多く出没する辺境領へ赴いて退治する冒険有り恋愛有りな話、近隣国のお姫様が突如王都に現れた魔獣を退治して王子と結ばれる話などなど。
近隣国のお姫様の話以外は、乙女ゲームシナリオを彷彿とさせる内容でした。
「調査の結果、小説は隣国からの輸入品でした。また、小説の中に青色の宝石……魔石の描写が有り、市井では御守りとして売られていたとの事です」
……関連グッズ商法まで。
現在リリーナが参加する予定のイフェイオン辺境伯領における魔獣討伐は、イフェイオンルートの内容です。本来なら学院生時代に発生する内容でしたが。
その他、デルフィニウムとの騎士ルート小説など、明らかに転生者の関与が疑われます。
最も怪しいのは近隣国の王女クロッカス様ですが、彼女は乙女ゲームシナリオには無いオリジナルな小説の主人公に行動が酷似しています。
小説を流布させた転生者本人が、こんな行動を取るでしょうか?
「……クロッカス様が、小説をお持ちかどうか確かめる事は可能ですか?」
「現在確認中です」
やはり魔術協会側もクロッカス様の事を疑っていらっしゃる様子でした。
「小説も魔石も、隣国からの輸入品でしたね。ちなみに、作者の特定はいかがでしょう?」
「そちらについては、手掛かりが無く……」
わたくしが呼ばれた最大の理由はコレでしょう。
何故か魔石について知るわたくしならば、作者……いえ、黒幕が分かるかもしれないという事。
オリジナルの近隣国王女の話に基づいて事が進行しているならば、近く王都内で魔石による魔獣被害が発生するでしょう。
黒幕が意図的に……と考えるなら、聖女であるリリーナが辺境伯領に行っている間に仕掛けられる可能性が高い。
小説はかなり売れているようで、魔石もサイズ違いの商品も含めると、かなりの量が流通しているそうです。不特定多数の平民や貴族が魔石を所持している事になります。
魔石一つ一つでは魔獣を呼び寄せる程の魔力にはならないでしょうけれど、それが一気に集まるとしたら?
例えば小説の新刊が発売されるとか、恋のおまじないグッズとしてクロッカス様が持っているピンクの魔石が売り出されるとしたら?
「リリーナに遠征許可を出したのは早計でしたか?」
「いえ、イフェイオン辺境伯領の被害を考えるとそうは思えません。まだ起こっていない魔獣被害で聖女への要請を無視する事は難しい。……やはり仕掛けてくると、お考えですか」
「ご懸念の通りです」
作者及び黒幕を突き止め、目的を早急に探る必要があるということ。
ならわたくしも、情報を出し渋る事は出来ないでしょう。
「……確定では有りませんが、関与が疑われる方の心あたりがあります」
お会いした事はありませんが、わたくしが知る確実な転生者。
「……国際問題になりそうですか」
渋い顔で魔術協会長が呟きました。既にクロッカス様が国際問題級ですが、それ以上な事も確かです。
こくりと頷き、わたくしの予想を告げます。
「恐らく、隣国王弟妃殿下の関与が疑われます」
誤字脱字報告ありがとうございます!助かります!




