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断罪予定の悪役令嬢の行く末  作者: みずのとさやか
断罪予定の悪役令嬢
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悪役令嬢と聖女結界

具体的描写はありませんが動物が死んでしまいますので、苦手な方はご注意ください。

「まずは、練習あるのみかなって思うんです。前に発動させた時は……とりあえず必死だったので」


「分かりました。何度か歌ってもらって、わたくしが魔獣を弾く……という事で良いかしら」


 リリーナの聖結界は、発動すれば魔獣の魔力を吸収して普通の動物に戻せるが、発動しない場合は微量な魔力が流れるだけなので魔獣を呼び寄せてしまう。


「わたくしが歌う前に、聖結界有効範囲境界辺りに騎士団を配置し、魔獣駆除が必要かしらね」


 緑地公園に魔獣が集まってしまうと、明日以降の安全が確保出来ないからだ。


「では、頑張ります!」


 何度も歌う。歌いやすい曲、好きな曲、リクエスト曲……。どれも聖結界発動までには到らない。


「もう、無理なのかなぁ……」


 流石に凹んだのか、リリーナは敬語を使う事すら忘れて呟きながらへたり込んだ。


「焦らないで、ゆっくりでも良いのです。幸い長期休暇はまだ続きます。時間が許す限り我が領で練習ください」


「うん、聖女の聖結界は特殊で稀なものだ。習得が難しいのも仕方あるまい」


「ありがとう、ございます、すみません、私……」


「リリーナは少し休憩して。では、わたくしの聖結界で魔獣を弾きますから、騎士団の皆さんは配置に着いてください」


 騎士団の半数を残して有効範囲の境界あたりに準備してもらう。


「アナベルの歌も、聴き慣れるとクセになるな」


 またしてもデリカシーのない台詞を吐くノイエ様。

 うーむ、さっさと歌って魔獣を弾いてしまおう……気楽に考えていた時に、それは起こった。


 ガサガサ!バキッバキバキィ!


「……何の、音だ?」


 残った騎士が警戒を強めます。境界まで、騎士団はまだ到着していない様子で、何が起こっているかが分かりません。


「アナベル、今すぐ歌ってくれ。何かおかしい」


「分かりました」


 調子外れな歌声が響き渡りますので心苦しい限りですが、そんな事は言っていられないようです。


 聖結界が発動し始めました。

 有効範囲が三分のニになった辺りで、かなりの違和感を感じます。


「♪」


放射状に拡がる筈の聖結界の一部で、展開出来ないエリアを感じます。

 ムキになって歌いますが、他部分の拡がりは感じれど、展開出来ない一部は、何かに阻害されている様です。


「聖結界の一部が展開出来ません。無理矢理押し返されている感覚です。……残念ながら、わたくしの能力では弾けない強さの魔獣の可能性があります!」


 騎士団に緊張が走ります。


「半数は殿下を御守りして!可能ならば撤退を!半数は申し訳ありませんが、わたくしと魔獣のいる場所まで……」


「何言ってるんですかアナベル様!」


「アナベル!君たちも一緒に撤退を!」


 有効範囲ギリギリの辺りに魔獣はいる。可能性は低いが弾けないのは物理的な距離が遠いせいもあるかもしれない。

 また現在連れて来ている騎士団の人数で討伐出来ないレベルの魔獣ならば、何とか足留めをする必要がある。

 足留めだけならば、恐らくわたくしの聖結界は有効だ。ならばこの領を治める一族として、責任を果たさなければならない。


「今緑地公園にいる中で、最も強い聖結界を張れるのはわたくしです。大丈夫、足留めだけならば、魔力尽きるまで何とかなりそうです。なので今すぐ増援をお願いします!」


 恐らくこれはゲームのイベントだろう。けれど、今のリリーナの状態でイベントをこなせ、とは流石に言えません。

 ならば代わりが必要なのです……その代役が悪役令嬢Aなので、魔獣を何とかする事は出来ないのですが……現状維持は可能に違いない。

 出来れば……、現状維持している間に聖女結界を発動していただけると助かりますが!




 ……こう、肉体強化的な能力が有れば良かったんですが、貴族の娘は基本防御特化なので、現地に向かうのにも一苦労です。


「遅くて申し訳ありません、皆様」


「いえ、細かな魔獣と遭遇しないだけでも助かります。聖結界はあとどのくらい保ちそうですか?」


 一応乗馬も出来る(公爵令嬢って求められるスキル多くない?)ので移動は馬なのだけれど、本職の速度とか……無理です!

 四苦八苦しながらの乗馬で、魔力量は足りても体力が怪しいのが情け無くなります。


「魔力はまだ大丈夫そうですが……体力の方が。あと3時間程度なら保ちそうですが、増援まで間に合いますか?」


 恐らくギリギリのラインだろう。被害を覚悟する必要がある。

 ノイエ様を撤退させて本当に良かった。王族だけあって、引き際を心得ている。無理を押し通すタイプじゃないので助かります、ホント。説得に時間が掛かったりしたら面倒でした。


 木々が倒れる音や金属音が大きくなる。魔獣が近い。


「お嬢様、これ以上の接近はお控えください」


 馬から降りて、騎士団がわたくしを取り囲む。大きく息を吸い込み、もう一度聖歌を歌う。


 聖結界が二重に張れたりしないかな、と思い歌ってみたが、どうやら二重には張れないようだ。

 しかし、物理的に近付いたからか、魔獣の動きを鈍くする事は出来たようです。


 まじまじと件の魔獣を見る。肉眼で見える距離だけど……想像より大きくて怖い。

 恐らく熊か何かの大型肉食獣が魔力の塊に覆われて、5メートル程の大きさに膨れ上がっていた。

 これ以上の接近は……と止められたけれど、言われなくとも近付きたくないです!


 魔獣駆除のためには、魔力を削いだ上で殺す必要がある。魔獣本体の動物が死ぬと、覆っていた魔力が霧散する。

 勿論、本体の動物を生かすために、魔力を全て削ぐ事も出来なくは無いが、物凄く手間がかかる。なので通常は、ある程度魔力を削いだ上で、本体を滅するのだ。

 魔力を削るには、物理攻撃の他、魔術による攻撃も有効。ただ、対する魔獣の魔力量が多い場合なかなか削れない。

 魔獣も反撃をしてくるのだけれど、魔力量の多い魔獣は、物理攻撃以外に魔術も使ってくるので厄介です。


「魔獣の動きが鈍りました!お願いします!」


 一斉に魔獣の魔力を削る騎士たち。……が、一向に本体に攻撃出来ないようだ。


 イベントキャラが強過ぎる件!急募、増援!


 リリーナにもっとスパルタで練習させるべきだった?でも、あれ以上のペースだと喉が渇れてしまう……うわーん、悪役令嬢には荷が重いイベントだよー!


 少し気持ちが揺らいだせいか、聖結界の効力が緩んだよう。

 不味い、魔獣が動いてしまう……て、え?なんか、魔獣が、こっち見てる……?


 魔獣の動きを止めているのがわたくしだという事が分かったみたいにこちらを睨む魔獣。知能ある感じですか?


 魔獣は魔力で覆われた弊害で狂化することが多く、知能はほとんど無く暴れ回る。それが、冷静に術者を見定めるなんて……絶対わたくしの手に負えないやつだ!


 急いでもう一度歌う。……が、焦ったせいで上手く魔力を載せられない。

 誰だよ、歌で結界張る設定にしたやつ!しかも女子がこの状況で冷静に歌うって、かなりの強心臓じゃなきゃ無理ゲーだよ!!!


「お下がりください!」


 わたくしと共に来た騎士団が守りを固めてくれる。

 落ち着いて自分!騎士団はちゃんと守ってくれている、まだ安全だ!自らに言い聞かせます。


 深呼吸。

 聖結界を強化しないと犠牲者がかなり出るだろう。ここが正念場!

 わたくしはヒロインちゃんじゃないので、助けに来てくれるヒーローは期待出来ません。現状維持が限界の役どころですからね!


「♪〜」


「アナベル様っ!」


 わたくしが再度歌い出すと同じタイミングで、遠くからリリーナの声が聞こえてきます。


 ……ヒーローは来ないけど、ヒロインが来る可能性はあったか!!

 でも、聖女結界の発動が出来ない現状では、ぶっちゃけ足手纏い……


 気が逸れた。不味い、聖結界の発動が遅くなる。魔獣がこちらに向かって来た!


「お下がりなさい!貴女がここに居ても役に立ちません!早く、逃げて!」


 騎士団が魔獣へ向けて攻撃を仕掛ける。わたくしの守りに入った騎士たちも、大半が向かう。それなのに魔獣は、薙ぎ倒すみたいにこちらへ進む。

 ……無理むりムリー!あれ、これ死ぬやつ?ヌルゲーじゃなかったっけ!?


 ヤケクソになって歌う。なりふり構わず、先程よりずっと音が取れていない気がするけど、多分聖歌は音よりも言葉が重要なのだと思う(そうと信じたい)ので、歌って言うか叫びに近い大声。


「〜♪〜」


 リリーナが歌う。

 失敗なら、彼女の魔力を求めて魔獣は彼女を狙うだろう。

 ……わたくしの聖結界、早く発動して!このままじゃリリーナが真っ先に狙われる!


「♪」


 物凄い美声とがなり声。わたくしの歌は某ガキ大将よろしく、効果音を付けるならボエ〜だ。どう考えても不協和音。

 けれど、なんとかわたくしの聖結界の発動が間に合い魔獣の動きが鈍る。もう一息、動きを止める程の魔力を!お願い!


 願いを込めて、ほぼ怒鳴る。貴族令嬢の歌とは思えないお粗末さだが、必死である。歌が下手でも聖結界は張れるんですからね!


「♬〜」


 リリーナが更に声量を上げて高らかに歌う。なんて綺麗な旋律。ゴメンね雑音混ざって!


 などと思っていたら、リリーナが光り出した!


 胸の前で手を組み、目を閉じて歌うリリーナは、正にヒロイン。光り輝く姿は神々しい。


 りぃぃぃん!


 祝福のベルのように、甲高い澄んだ音が響き……


「聖女結界!発動し始めたわ!」


 リリーナの聖結界が発動する。

 騎士団は状況が分からず、魔獣に攻撃を仕掛けたままだが、攻撃用の魔術が、拡がる聖女結界に吸収されていく。


「な、なんだこれは!魔術で攻撃出来ない!魔獣の攻撃か!?」


 騎士団からの戸惑いの声が聞こえます。人の攻撃魔術も魔力だから聖女結界に吸収されるのだけど、初めてだとビビるよね!


「聖女の結界です!魔獣の魔力を吸収します!どの程度吸収出来るか未知数ですので、魔術での攻撃はお控えください!吸収されます!」


 聖女結界の効果を大声で伝えます。貴族令嬢とはなんぞや……。騎士団の皆さんには淑女として扱われていたんですが、今後どうなるのか、うん、お察しですね!


 わたくしの聖結界で魔獣の足留めも考えましたが、よく考えると聖結界も魔力を載せているので、吸収されそうです。あと、無駄に魔力量が多いのでリリーナに無理がかかりそうなので聖結界を解きました。


「グォォォォん!」


 無理矢理魔力を剥がされる魔獣が唸り声をあげています。それだけでかなりの地響き……近隣住民を避難させていて正解でした、これは怖すぎる。


 先程まではわたくしの聖結界で動きの鈍っていた魔獣は、魔力は削られているものの動きが激しくなりました。

 二種の結界を併用出来たら魔獣駆除が楽になるんでしょうに……面倒です。


 騎士団が物理攻撃に切り替え魔獣を抑え込みます。

 テストの時とは違い、本体の動物を助ける事は出来なそう。


「行けるぞ、ひき倒せ!」


 魔獣だった動物に留めを刺した瞬間、魔獣に残っていた魔力が霧散しました。


 わあ!っと歓声が上がります。

 凄い、これが聖女の力。

 スターチス領騎士団の半数を今回のイベントに割り当てました。うち、四分の一はノイエ第一王子を守り退却してもらいましたが、各領地で所有する騎士団に比べずっと人数も多く歴戦の猛者揃いです。

 かなりの人数を投入しても、大型魔獣の足留めしか出来なかった。それをたった一人の少女が魔力を削いだ。


 ……ゲームイベントだからと軽率に能力を発動させる手助けをしましたが、これはリリーナにとって、良いことだったのか悪いことだったのか……、恐ろしくなりました。


「♬」


 わたくしが呆然としている間も、リリーナの聖歌が聞こえます。魔獣が倒されたのを気付いていない?暴走していたりする?


 急いでリリーナに駆け寄ります。


「リリーナ、ありがとうございます!貴女のおかげで魔獣は倒れました!」


 リリーナはぼんやりとした顔で歌うのをやめ、聖女結界を解きました。

 どうやら暴走していた訳でも、倒されたのを知らない訳でも無いようです。


「助ける事が、出来ませんでした」


 テストの時は、魔獣化した犬を助けていました。リリーナは大型魔獣……熊も、助けたかったのだそうです。


「全てを助けられると思うのは傲慢です。……けれど、貴女のおかげで、わたくしや騎士団は助かりました。今貴女は誇りに思うべきなのです。リリーナ、本当にありがとうございます」


 深々と頭を下げます。誰よりも、この領地を預かる者として、感謝を伝えなければなりません。


 そして、


「ごめんなさい、貴女の運命を、変えてしまったかもしれない。貴女の聖女結界は、あまりに眩し過ぎる。もしかしたら、あのまま聖女結界を発動させられないままの方が生きやすかったかもしれません。わたくしはその事に何も気付いていませんでした。ああ、どう責任を取れば……」


 己の弱さから、リリーナに謝る事しか出来ませんでした。力ある者として、この可能性をもっと考えるべきだったのに。


「アナベル様、顔を上げてください。私、聖女結界が発動出来れば、何でも救えるって驕ってたって気付けて良かったです。あと、ずっとガッカリした顔をされながら生きていくのは辛いので、発動出来て良かったんだと思います」


 彼女の言う事は尤もでもある。けれど、それは現状だけのこと。彼女は嫌が応にも聖女の力に振り回される事になるでしょう。


「でも、アナベル様。アナベル様が後悔なさっているのでしたら。……私をアナベル様の庇護下に置いてください。これは元々お聞きしたかった事なのですが……」


 リリーナはクレマチス男爵家の庶子であり、男爵家の継承については関係ない立場でした。

 学園卒業後の進路としては、一般的に結婚するか貴族の家庭教師、または上位貴族の侍女が挙げられます。

 学園で浮いた存在となってしまったリリーナは、自分を嫌わない貴族への就職を検討していました。わたくしに聞きたかった事とは、スターチス公爵家への就職条件でした。


 ……そうだよね!ゲームの事とか考えなければ、男爵家庶子だもん、就職先探すよね!それが常識だよね!

 現実を見ていなかった事を猛省します。ゲーム云々はもう少し頭の隅に追いやらないとな……ごめんねリリーナ。


 で、リリーナはなかなか強かです!

 今回の件、スターチス公爵家の後ろ盾が欲しいと言うこと。具体的には、わたくしの侍女を希望だそうです。


 公爵令嬢の侍女は、勿論貴族であり、ステータス職でもあります。わかりやすい後ろ盾となり、聖女としての扱われ方にも口を出す事が出来るようになります。


 我が国で聖女が現れた場合、必ずしも聖協会預かりとなる訳ではありません。特定の権利者から囲われる事も多いけれど、その場合聖女にも正当な権利が与えられる仕組みです。

 結婚も可能で、貴族だったとしても政略での結婚は認められず、聖女の意思が優先されるます。勿論聖女からの無理強いも出来ないので、恋愛自由な状態になるのです。(乙女ゲームに都合の良い設定だわ……)

 これは聖女結界に思いの強さが関係しているからだとされているます。思いについては様々で、愛だったり、助けたい気持ちだったり、聖女によるそう。


「アナベル様は私を好き勝手に使ったりはしませんよね。まだお会いして数ヶ月しか経っていませんが、学園で出会ったどなたよりも、私に厳しくて……そして優しかった。私を導いてくださる方は、アナベル様以外に考えられません。どうか、私を助けると思って!」


 ……強かな交渉術、嫌いじゃないですって言うか好きです。侍女として教え込めば、良い仕事が出来そう。

 でもね、そうなるとね。第一王子と結婚する人がわたくしの侍女になるって言うのは絶対無理じゃない?つまりヒロインちゃんの第一王子ルートが完全に消えるって事!?


「……後ろ盾は、ノイエ様では、いけませんの?」


 諦めきれずノイエ様を推してみるものの……


「アナベル様の後悔を、ノイエ様が埋め合わせる事を許容なさるなら」


 わたくしの尻拭いをノイエ様にさせる……、リリーナはわたくしがそうしない事を分かっていてそう告げた。


「……リリーナ、わたくし貴女の事を侮っていましたわ。本当に申し訳ございません。わたくし一人の判断では難しい事ですが、リリーナ・クレマチス男爵令嬢を、わたくしアナベル・スターチスの庇護下に置き、わたくしの侍女となる事を認めますわ。わたくしの名誉にかけて」




 ……と言う訳で、ヒロインちゃんの第一王子ルートが終了しました。狙うはハーレムルートですが……これって本当にヌルゲーだっけ!?





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