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断罪予定の悪役令嬢の行く末  作者: みずのとさやか
断罪予定だった悪役令嬢のその後
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交換日記と温度差

『私の婚約者 アナベルへ


 この交換日記を始めて一週間が過ぎたけれど、なんだか前より切なくなってしまった。何故こんなに会えないのか、学院では頑張れば毎日会えたというのに。


 学院生活最終盤は、証拠集めやら何やらで奔走しまくり会えない日々を送ったものだけど、やはり勝手が違うな。


 正直に言うけど、あの時期の私は君が私に恋焦がれてくれないかな?と姑息にも駆け引きをしようと思っていたんだ。呆れたかい?それとも既に私の思惑など分かっていてあの感じだった?


 結果は惨敗で、むしろ私がドツボに嵌り、君に会いたくて恋焦がれるというものだった。


 今の状況はあの時とは違う。

 君を婚約者にする為に奔走していたんだ。だから頑張れたし、結果も伴った。頑張って良かったと思う。

 でも今は、せっかく婚約者で、こ、恋人、に、なれたとのに、近隣国の兵器なのかと疑うような王女のエスコートが任務なんて!


 確かに、一つ屋根の下に君が来る!と思った卒業式後から三日程、ソワソワし過ぎて眠れなかったり挙動不審だったりしたけれど、そこをそんなに不安視されるとは思わなかった!


 陛下には父の顔をして『婚姻式前に手を出しそうな息子を止めるのも父の使命だ、許せ』とか言われるし、王妃は陛下の妻の顔をして『情熱的に求められるのも乙女心がときめくけれど、その責任や咎は女性に降りかかりがちだから節度を保ちなさい』とか言うし。


 そんなに堪え性が無いと思われているのだろうか?

 まあ、少しタガが外れた感は有るかな、と自覚はあるんだけど。


 さておき、前にも書いたけれど、今回私が近隣国の王女(出来れば名前も呼びたくないね!)をエスコートしているのは、ディエス含めた有力貴族男子が引っかからないようにする為だから。

 これについては本当に申し訳ないし、私も怒りしかない。


 近隣国が手のつけられない王女を持て余し、国内に置いて置けないから留学させるらしいとは、以前から聞いていたんだ。


 本来なら、ユーフォルビアが我が国に3年も留学していたのだから、留学連携を考えれば、あいつの国に留学するか近隣国が迎え入れるのが妥当だったところを!

 王女本人の素行問題や隣国王弟たちの画策の露呈があってそれどころでは無いなど事情が合って、我が国に留学が決まったんだ。


 近隣国としては厄介払いが出来た上に、有力貴族を捕まえる事が出来たら幸運だとでも思っているようなのが始末に負えない。

 王女は外見だけなら可愛い(私のアナベルに比べたら雲泥の差だがな!あくまで一般論だから気にしないように)から、まだ歳若い純情な男子共が引っかかる事の無い様に。また、婚約者候補や既に婚約者になっている女子が傷付く事の無い様に、私がエスコートになったんだ。


 私の気持ちは丸っと無視された。アナベルも哀しいと思う。本当に、力不足で申し訳ない。

 王女については何か裏がありそうなので、それを突き止めた上で、それを理由に早急に帰って貰う予定だ。

 それまでどうか、力足らずな私を待っていて欲しい。


 君の婚約者 ノイエ』



『ノイエ様へ


 いつもたくさん書いてくださってありがとうございます。


 以前にも書きましたが、クレマチス王女殿下の事情についてわたくしなりに理解しているつもりです。全く気にしていませんので大丈夫です。


 デルフィニウム(本人から敬称を付けないで欲しいと言われたので呼び捨てです。ノイエ様のデルフィニウムなのに申し訳ありません)を貸してくださってありがとうございました。護身術教室が増えたので、前より楽しく過ごせています。身体を動かすっていいですね!


 デルフィニウムって、お話し上手なんですね。もっと硬いイメージでした。わたくしもリリーナも良くして貰っています。


 アナベル・スターチス』




『私の最愛 アナベルへ


 王太子妃教育がほぼ終わっているせいで時間に余裕があると聞いていたけれど、護身術教室を増やしたのか。

 私が全てから守る!と言えたら格好いいのだろうけれど、そんなのは机上の空論になるだろうから、自分の身を護れるだけの力を持とうとするアナベルは偉いな。


 でも、余り強くなりすぎないでね。王子より姫の方が強いなんて、格好がつかな過ぎる。まあ、今の時点でアナベルの方が格好良いから、今更な話だけど。

 近頃身体を動かせていないから、今度一緒に護身術教室が出来ないか時間を調整してみるよ。

 怪我はしないよう気を付けてね。


 ところで、なんだかデルフィニウムと仲良くなったみたいで。随分砕けた話をしているようで羨ましい限りだよ!私も君と砕けた話がしたいのに!


 嫉妬のあまりデルフィニウムに仕事を増やしてやろうかと思ったけれど、そうすると君の護衛があの女性騎士がメインになるから、泣く泣くやめておいた。


 あれからあの騎士はどう?何か合ったらすぐに言ってくれ、交代させる。

 女性騎士の指導についても早急に対処するから、もう少し時間が欲しい。

 何かきっかけが有れば早いんだが、そもそも私の八方美人が招いた結果だな。申し訳ない。


 そう言えば、ネメシアのところにイフェイオンが来ていた。件の魔獣討伐についてかと思いきや、今回は別件だそうだ。強化魔術についての研究がどうの……と言っていた。

 この研究について、アナベルとリリーナにも協力をお願いしたいそうで、そのうち正式に要請があるかもしれない。

 私も正式に君と会いたい。


 魔獣討伐についてだけど、非公式筋の情報によると少々厄介な大きさになるみたいだ。リリーナ嬢への要請は避けられないかもしれない。何か必要なものが合ったら準備を始めていた方が良いと思う。


 それから王女の話なんだけど……、もしかすると彼女は自分が物語の主人公だと思って振る舞っているのかもしれない。ある本が友好国連合内の市井で出回っていて、なんとなく似た内容が……。まだ確定じゃないから、作者やその他詳しい事は言えないんだけどね。


 ちなみに本の内容は、君と婚約破棄して王女と結ばれる話みたいなんだ。

 そのせいか何を言っても、『あたくしにはわかります。まだノイエお兄様は真実の愛に目覚めていないのです。だからあんな、身体ばかりのお色気婚約者に引っかかってしまわれたんですわ!』と。


 王女が持っていた本は数冊あって、全て同じ作者だった。彼女の自国での行動と現在照らし合わせているところなんだけど、本当に頭が痛い。

 世迷言をほざく暇があったらきちんと学院で学んで欲しい……。


 ごめん、つい愚痴を書いてしまった。あの王女に充てる時間をアナベルとの時間に使えたら、私はあと三倍の仕事量でもこなせると思う。


 会いたい。


 君に会えなくて病気になりそうなノイエ・アスターより』




『ノイエ様へ


 今回もたくさん書いてくださってありがとうございます。楽しく拝見しております。


 女性騎士についてですが、仕方ない事だと思います。目に余る発言や行動はその場で注意する様にしましたのでご心配なく。こんな些細な事でご迷惑をお掛けしてしまって心苦しいばかりです。


 強化魔術の件、かしこまりました。ネメシアもこの前会った時に伝えてくれれば良かったのに。お手数をお掛けしました。

 魔獣討伐の準備も含め、心しておきます。リリーナにも伝えますね。


 王女殿下の本の内容、気になりますね。わたくしの方でも少々調べてみたいと思います。


 アナベル・スターチス』





「アナベルの日記が業務連絡っぽくて寂しい。私ばかり書いてる気がする……。いや、毎日書いてくれてるから嬉しいんだけど、でも、でも熱量がさぁ!」


 執務室で愛おしそうに文字をなぞりながらノイエ殿下が嘆く。

 婚約者がいて、毎日言葉(文字だけど)を交わせる相手がいるだけ良いと思うのは、私が婚約者もいない上仕事に忙殺されているせいだろうかとカンパニュラは思った。


 チラリと見た交換日記は、文字量を考えれば確かにノイエ殿下がスターチス嬢の三倍は書いている。

 だが、熱量は文字量に比例していない、と私は思うのだ。


 スターチス嬢の文字は貴族らしくとても綺麗だった。レポートを読んだ事もあるから知っている。

 だが、レポートの文字とこの交換日記の文字は異なる。丁寧で、それでいて女性を感じさせる文字。

 流麗さよりも実務的な文字で書かれたレポートとは異なる、可愛らしい見栄が感じられる文字だった。


 呆れた目で殿下を見れば、かの人はそんな事には当然気付いていた様で、スターチス嬢が書いた文字を撫でていた。

 何が不満なのやら。


「アナベルは結構乙女だから、キツめな印象という周りの評価を気にしているらしい。俺の為に可愛くあろうとしてくれる、そんな心配りに愛を感じる……けど、言葉も欲しいんだ!無理なら会いたい!」


 途中迄は抑えていたらしい殿下の感情は、話しながら爆発したらしい。

 まあ、この状態になると独り言は増えるけれど仕事は八つ当たりのように早くなるからいいんだが、少々雑になるのが玉に瑕だ。


 今日はどのくらい雑かな?と思いつつ、日常と化した爆発中の主人の為に紅茶の手配をするのだった。





「アナベル様、交換日記ちょっと素っ気なくないですか?」


 美味しい紅茶を淹れてくれたリリーナが、書きかけの日記を見て声を掛けてきました。

 確かに、ノイエ様が書いてくださる量に比べて少ないし、あまり感情的な事は書かないようにしています。

 その分丁寧で可愛い文字を心掛けてますけれど!


「リリーナ。確かリリーナもムスカリと交換日記を始めたのよね」


 ちなみに、デルフィニウムと同じくムスカリも敬称略でお願いされましたので、こう呼んでいます。


「はい。私あれもこれもと毎回書きすぎな程なので、びっくりしてしまって」


 ムスカリは恐らく交換日記に商品価値を見出している。直ぐには商品にしないでしょうけれど、近いうちに商品化の打診があるに違いない。わたくしもリリーナも、モニターみたいな役割になっています。


「交換日記初心者に陥りよね……。リリーナ、これはアドバイスよ。後々読み返して、黒歴史にならない文章を心がけた方が良いわ、本当に」


「黒歴史、ですか?」


「ええ。黒歴史とは……後に黒インクで塗り潰してしまいたい己の行動や言動、衣装や、文章の事。交換日記はごくプライベートなものだから、つい調子に乗って色々書いてしまう。でもね、それを何年……いえ、数ヶ月後に読んだ時の自分を想像してみて。今は分からないかもしれない。でも、わたくしが言った事を、心に留めておいて欲しいの」


 真剣に話したせいか、リリーナがゴクリと喉を鳴らしました。

 もしかすると、なかなかな事を既に書いてしまったのかもしれません。


「私、調子に乗って詩を、書いてしまいましたが……アレをもう一度読むことを考えると……。これが黒歴史ですか」


「そう、黒歴史よ。文章は残るから、くれぐれも気をつけて」


 リリーナが力強く頷きました。


「私、これからもアナベル様について行きます。どうか私を導いてください」


「勿論よ。共に歩みましょう」


 何故か主従関係を密にしたわたくしたちなのでした。







アナベルは前世の交換日記でやらかした過去がありそうです。

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