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断罪予定の悪役令嬢の行く末  作者: みずのとさやか
断罪予定の悪役令嬢
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悪役令嬢と卒業式14 断罪予定の悪役令嬢の行く末

 ご機嫌いかが、皆様。わたくしアナベル・スターチスでございます。

 何の因果かうっかり前世を思い出してしまった我が国第一王子の婚約者候補です。ヒロインちゃんが第一王子ルートを選んだ場合、ヌルめの断罪によって婚約者候補から外れる悪役令嬢Aでした。


 前世を思い出してからはずっと、至る王妃への道を拒否したくてゲーム通りに断罪へ進むよう色々画策して参りましたが、自らの恋心を自覚してしまいまして。まさかの!腹括り案件、ノイエ様の婚約者にわたくしはなる!という覚悟を持って、戦場である学院卒業式に臨んだのでした。


 本来なら卒業式前にノイエ様に告白をしようと思っていたのですが、覚悟を決めてからは何故かすれ違ってばかりで機会が無く今に至ります。


 あんなに散々逃げ回っていたのに、恋を自覚した途端の心変わり。今までのわたくしを知る皆様はさぞかしガッカリなさった事でしょう。悪役令嬢としての矜持は無いのかと。


 しかしわたくし恋を自覚して、びっくりする程恋愛脳になってしまったのかもしれません。他人に何と言われようと、わたくしこそがノイエ様の隣に立つに相応しいと思うようになってしまったのですから!


 などと思っていましたら、色々あってわたくし以外の婚約者候補全員が居なくなりました。つまり暫定王者ならぬ暫定婚約者。流石ヌルゲーです、悪役令嬢にも優しい世界ですね!


「他に異議のあるものは……」


 進行係が、もうホント終わりだよね?という気持ちを込めた声が響きました。


 ……どうする?暫定で指名はされるのだから、お受けする時に『わたくしもずっとお慕いしておりました』とか言う?それともこの場は言わずに二人になった時?いやそれだとなんだかズルズルしそうね、わたくしの場合。

 ならここで挙手して告白しちゃう?……イヤイヤイヤ、ずらっと並んだ貴族メンバーに陛下に隣国の王太子殿下までいらっしゃる準公式行事でめっちゃ私事の発言って、どんな恋愛脳よ。流石にそこまで至ってはいませんわよ。まぁ、私事の発言なさる方多かったですけれどね!でも『異議あり!好きです!』はナシよね?


 ……うん、プラン1が正しいかな。あーでも、いっそ恋愛脳暴走させてプラン3……イヤイヤイヤ……、などと考えていたのが良くなかったのでしょう。特にプラン3を実行するならば速攻以外無かったのに!


「発言、良いだろうか」


 ノイエ様が挙手しました。


 会場はまたしても騒つきます。現在残った婚約者候補はわたくしただ一人。にも関わらずわざわざノイエ様が発言を求める。

 ここまで大波乱の婚約者決定ですから、最後で最大の逆転劇が行われるのか?と期待する雰囲気も有りました。勿論もう勘弁してくれと言う雰囲気も有りましたが!


 遠い目をした進行係が、渋々『どうぞ』と言っています。そうね、進行滅茶苦茶ですものね……本当に同情しますわ。


「皆知っての通り、私の婚約者候補は次々と断罪されるか、若しくは他の者と縁を結んだ。第一王子の婚約者決定の際には多い事では有るが、五人となった婚約者候補のうち四人というのは流石に多く、私の不徳の致すところだ。

 さて、そこで残った婚約者はアナベル・スターチス公爵令嬢一人となった。本来なら直ぐに決定とすべきだが……、私の話を聞いて欲しい」


 わざわざ時間を取ったと言う事は、まさかわたくしも候補から外れるということ?

 ぎゅっと、胸が締め付けられました。


 あの時迷わなければ、せめて想いを告げる事は出来たのに。恋愛脳を暴走させられなかった自分に、少し後悔しました。まだ、染まりきれてないのね、覚悟した筈なのに。

 どうせわたくしが選ばれるとタカを括っていたのが悪かったのかもしれません。


「ただ一人残った婚約者候補アナベルは、長い間婚約者候補筆頭としてあらゆる面でその才を表した。先程の聖女への指導力もその一面に過ぎない。

 婚約者候補としての自覚を持ち、特定の派閥を作らず、淑女として手本となるべく努めた。また、聖女を保護し、その覚醒を促した。彼女の出自から選ばれた婚約者候補であったが、今ここに至ったのは彼女の努力に他ならない。


 私は婚約者に一つの条件を付けていた。知るものも多いだろう。『自ら望んで私の隣に立つこと』、彼女はその一つの条件だけは、長年頑なにクリアしてはくれなかった」


 褒めてくださいましてありがとうございます、でもですね!最後の条件についてはですね、ちょっと前からクリアしていたんです言えていないだけで!

 こんな事なら形振り構わず言えば良かった!恋愛脳(笑)とか、ちょっと思っていてホントごめんなさい。今ならまだ間に合う?ノイエ様の言葉を遮って?……それは不敬か。


「思えば初めから、彼女は私が出したたった一つの条件以外全てを満たしていた。立居振る舞いも、貴族としての矜持も、教養も!けれど私が出した条件だけはクリアしてくれなかった。

 私はそれがずっと悔しかったんだと思う。だから不自然に距離を置いたり、私に興味を持ってくれるよう揶揄ったり。私は本当に幼かった。誰に褒められようが、この件に関して私はただの臆病者で卑怯者で、そして子供だった」


 ……あれ?何やら雲行きが変わって、きた?


「認めたくなかったんだと思う。彼女は私の婚約者候補なのだから、彼女が私を好きになるべきだと、無意識に考えていた事を。王族の婚姻は政略的な意味合いもあると言うのに、それ以外をも求めていたと言う事を。


 けれど、私は自覚してしまった。いや、もしかしたら自覚させられたのかもしれない、特に最終学年で」


 あれ、この流れで『婚約者候補再審議』って無さそうなんだけど……?


「アナベル・スターチス。君が好きだ。婚約者候補だから、と言う事もある。誰よりも王妃に相応しい存在になるだろうと言う事もある。

 けれど何よりも!私……俺が、俺がアナベルを好きなんだ!

 こんなに好きにさせたという罪を、償って欲しい。俺と、結婚してください」


 きゃぁぁぁぁぁぁ!と言う歓声が沸き起こりました。思いの外、不満の声は上がっていないように感じました。


 アナベル・スターチスは悪役令嬢で、卒業式にヌルい断罪をされる存在です。


 なのですが、……罪って!好きにさせた罪って!何なのその恋愛脳!暴走中かよ恋愛脳!第一王子としてどうなのよ、それは!

 陛下が爆笑なさってますし、隣国の王太子はびっくりして固まっておりますわ。

 それに側近やユーフォルビア様や婚約者候補の皆様だって……あら?……反応が?


「殿下、それはちょっと情け無いんじゃないかなと思います」


 カンパニュラは気を使った表情でした。


「格好悪!殿下、それは無いよ。アナベルじゃ無かったら無し一択だよ」


 ネメシアは公式な話し方を忘れる程ウケていました。


「せめて、せめてモントブレチア嬢くらいの格好良さが欲しかったです、殿下。今後に期待して40点ですね」


 ムスカリは採点し始めました。ギリギリ赤点では無いそうです。


「指南書に栞がたくさん挟まっていましたが……オリジナルティを重視した結果がコレなら、指南書まんまで良かったんでは?」


 デルフィニウムは色々情報ありがとうございます、お持ちの指南書興味が有りますわ。


「ははは、王族のプロポーズとしては最低の部類だが、正直でいいな」


 ユーフォルビア様はフォローじゃないですよ!?


「ヘタレ殿下の限界ですが……ギリギリ良いでしょう。自力で告白した点だけ評価します」


 リリーナは何目線なのかしら?あと、採点がムスカリに似てるわ!


「あんなに色々画策しといて、万策尽きてコレとは!ある意味殿下らしいですわ」


 ユイリィ様辛辣ぅ!


「……分かっていたんですけどね。ならさっさと引導を渡してくだされば良かったのに」


 ベロニカ様その全部分かってましだけどね顔やめてください。色々哀しくなるから!


「馬鹿みたい、こんな茶番」


 ルールカ様、それ言っちゃダメなヤツ!


 皆様それぞれ、知ってましたけどね的な反応でした。なんか……ホント、ごめんなさい。とても居た堪れない気持ちになりました。


 けれど、壇上から情け無いお顔で愛を乞う恋愛脳暴走野郎ことノイエ様の事を、わたくしも笑えませんでした。


「わ、わたくし、も」


 嫌だわ、なんだかちゃんと話せません。声が出ないなんて、可笑しいわね。


「わた、く、しも、っずっと……」


 嫌だわこんな時に風邪かしら?鼻が出そう。


「ずっと……」


 隣のリリーナから、可愛らしいピンク色のハンカチが手渡されましたが、わたくしは意味が分からなくて首を傾げてしまいました。


「みっともない、貴女はこれからこの国の顔になるんですのよ。ちゃんとお拭きになって」


 リリーナから差し出されたハンカチを反対側のベロニカ様がバッと奪って、わたくしの顔を優しく拭いてくださいました。明日は雨ですかね?


 すぅっと一度深呼吸をしました。

 両隣りから指摘されなければ、わたくしは自分が泣いてしまった事にも気付かなかった事でしょう。うーむ、気が抜けていました。


「リリーナ、ありがとう。ベロニカ様も、ご配慮嬉しいわ」


 わたくしの言葉にリリーナは満面の笑みを浮かべ、ベロニカ様はプイと顔を背けてしまわれました。


 背筋を伸ばし、一度目を瞑り精神統一。今までで一番のわたくしになるように。うん、準備は出来た。


「わたくしもずっと、ノイエ様をお慕いしておりました」


 本当はもっと劇的な台詞を考えていました。けれど、淑女の顔で言えるのはこれが精一杯でした。結局プラン1でしたね。


 わたくしの言葉にノイエ様は子供のような笑顔になって、壇上からひらりと降りて来ました。


 ……え?この恋愛脳暴走野郎は、まだ暴走する気なのかしら!?


 リリーナがぐいっとわたくしを前に押します。よろめいたわたくしを抱き留めたのは、勿論ノイエ様でした。


「俺は今世界で一番幸せかもしれない、ありがとうアナベル!」


 抱きしめたままノイエ様が嬉しそうに叫びました。


「今だけですか?わたくしはこれから先ずっとかと思っていましたのに」


 照れ隠しに憎まれ口を叩けば、更に楽しそうに笑っていました。


「勿論ずっと、ずっとだ!ノイエ・アスターの婚約者はアナベル・スターチスとする!皆、異議はないな!」


 進行係の台詞を奪うようにノイエ様が言います。


「異議の無いものは、拍手を持って賛成とする」


 思い出したように進行係が発言し、続いて降るような拍手が聴こえてきました。


「第一王子ノイエの婚約者をアナベル・スターチスに決定したことを認める」


 先程まで爆笑なさっていた陛下が厳かに宣言すると、拍手は歓声に変わりました。


「婚約者候補であったベロニカ・スピカータ嬢は三年程修道院で頭を冷やせ。修道院からの報告次第では更に長くなるかもしれんから、心するように。スピカータ侯爵は貴族年俸をベロニカ嬢が修道院にいる限り停止とする。

 ルールカ・カルセオラリア嬢は貴族籍を剥奪の上、精神病棟で療養。療養が完了次第、孤児院での強制労働とする。

 カルセオラリア伯爵及び夫人は貴族籍剥奪の上領地没収、私財も含め全て没収とし、捜査が終了次第極刑に処す。件に深く関わった親類縁者の内、成人以上は全て同様とする。成人未満の子女は貴族籍を剥奪の上、三年の労働を課す。

 ゲーブル・ワトソニアは講師職からの解雇及び貴族籍の剥奪の上、魔術協会にて強制労働とする。ワトソニア伯爵及び夫人は貴族籍剥奪の上領地没収、私財も含め没収した上で災害復興地での強制労働とする。

 カルセオラリア領の隣国に関する件はユーフォルビア殿下を含め別途検討とする。


 その他については、追って沙汰を出す。ハーブその他について、此方で把握している事を忘れぬよう。自ら名乗り出た者には、寛大な措置を検討する。

 以上だ」


 ゲームよりもずっと重い処分でしたが、これでも軽い方でしょう。代わりにかなりの数に処分が降りそうです。立太子前の画策が凄いとは聞いていましたが……想像を上回りましたね。

 ワトソニア先生は思ったより軽いかな?と思いましたが、あのネメシアがいる魔術協会ですから、むしろ酷使されそうですね。興味の塊ですから、搾り取られる勢いで。


 ベロニカ様もルールカ様も、衛兵に大人しく連れて行かれていましたが、往生際の悪い方がいました。


「イフェイオン!強化を使え、最大出力だ」


 ワトソニア先生の近くにはイフェイオンが居たようで、何やら指示しております。リリーナの時みたいに精神作用魔術を強化してこの場から逃げるつもりでしょうか?


 イフェイオンはワトソニア先生に精神作用魔術を掛けられていました。一度掛かると掛かり易くなるそうですが……。


「イフェイオン、私を逃がせ!」


 恐らく精神作用魔術を使っているのでしょう。うーむ、現行犯ですね。先程までは疑いで済んでおりましたのに。


 イフェイオンはふらりと立ち上がり、ワトソニア先生に寄って行きました。


「そうだ、良い子だイフェイオン。そのまま私を……へぶし!」


 狂ったように笑ってイフェイオンの肩を抱こうとしたワトソニア先生でしたが、見事な体術で床に這いつくばらせていました。


「現行犯、逮捕♪精神作用魔術を意図的に使用出来る事の証明が出来たね」


 ネメシアがにやぁ〜っと、悪い顔で笑っていました。ネメシアは精神作用魔術は使用出来ないみたいだからね、これは実験台になる事間違い無しでしょう。


「失恋の傷みであの時は効いたけど、先生とボクでは魔力量が違い過ぎる。過信したね」


 どうやらイフェイオンはネメシアの手下?になった様子でした。リリーナ魅了の件はこういう風に解決させていたのね……。


 ワトソニア先生は追加で逃走容疑と精神作用魔術についての証拠も披露して御用となりました。


「第一王子ノイエ・アスター殿下の婚約者はアナベル・スターチス嬢となった事を宣言し、本年度の学院卒業式を終了します!」


 複数回出番を奪われた進行係は、自棄になったように大声で宣言し、卒業式は終了となりました。


 ゲームとは全然違う流れになりましたが、ヒロインはムスカリを選びわたくしは予定通りノイエ様と婚約します。

 悪役令嬢Aはヌルい断罪も受けましたが……これは概ねハッピーエンドとして良いのでは無いでしょうか。


 断罪予定の悪役令嬢の行く末は、これから始まったばかりなんですけれどね。







…という訳で、断罪予定の悪役令嬢の行く末、ひとまず完結です。

想定より長い間お付き合いいただきまして本当にありがとうございました!

なんとか完結しました……!


ラストだけ大体決めての見切り発車だったせいか、どんどん長くなり、攻略対象の人数多過ぎたせいでエピソードが多くなり…本当に、最後まで読んでくださった方には感謝しかありません。


ひとまず断罪予定は完結にしますが、嬉しいリクエストいただきました憧れのifルートを作成していきたいと思っています。

そちらが始まりましたら、またお付き合い出来たらとても嬉しく思います!あと小話とかも書きたいなあ。


初めてこの長さの小説を書いたので、ちゃんと完結出来て安心しております。

もし良かったら感想頂けると明日の糧になります、宜しくお願いします。


ところで今更ですが(本当に)ワトソニア先生はゲーブル・ワトソニアです。今更ですがよろしくね!


何人かは相変わらずファーストネームを付けていない為、慌てて付けるを繰り返しておりましたが、基本的に家名は花でファーストネームは某有名シリーズからでした。例外は何人かいましたけれど。

某有名シリーズがわかった方、こっそり握手しましょう笑


では、ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良くある転生物かと読み始めましたが、構想が練られていて最後まで楽しめました。 しかも!途中で物語がだれずに一気に。 キャラクターそれぞれ個性が強かったけど、だからこそ重い話しもサラッと書か…
[良い点] 一気に読みました! とてもおもしろかったです。個人的に王子様が嫉妬する話が好きなので、ノイエ様がたまらなく好きです。 [一言] 無事に思いを通じ合った二人のその後が読みたいです!!ぜひぜひ…
[良い点] ユイリィ嬢ほどのかっこよさは無理でも、もうちょっと、もうちょっと、言いようがあったでしょうノイエ様!(笑) もうこれは2人の子供が産まれたら側近の皆さんに究極のヘタレっぷりをばらされる未来…
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