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断罪予定の悪役令嬢の行く末  作者: みずのとさやか
断罪予定の悪役令嬢
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悪役令嬢と卒業10 動物の本能

「続けていいかな?」


 ノイエ様とルールカ様の静かな睨み合い?をぶった切るようにネメシアが言葉をかけました。ネメシア、意図して空気読まないところあるわよね!


「ああ、続けて」


「許可も出たので続けるね。先程のハーブだけど……、何度も言うけれど一つ一つは何の問題もないハーブなんだ。けれど、3種を掛け合わせてしまうと中毒性と、成分が蓄積されれば子が流れてしまう可能性が高くなる。ある一部の界隈で需要があるけれど、常識的な商人や医師、薬師、魔術師ならこれらを意図的に掛け合わせる事は無い。


 更に、この3種のハーブの成分を高濃度で抽出して他の薬剤を混ぜるとね……なんと!さっき話題に上がった聖女の靴に仕掛けられた毒針と同じ毒が!出来上がる。

 この国ではハーブの栽培自体難しい上に精製も難しいこの毒が、偶然の一致とは思えないけれど、念のため調査したよ。

 毒針の毒も、ハーブティーも、ワトソニア先生のタウンハウスのハーブも、みんな魔術協会で保管しているから、捏造を疑うなら保管記録を確認してね。ちゃんと物証はあるし、なんなら今取り調べをしているタウンハウスにあるハーブを調べてもいい。全部に同じ型の植物魔術の形跡があった」


「ワトソニア先生が恐ろしいハーブをお作りになった事と、お父様に何の関わりが有ると言うのです?ワトソニア先生が、講師という立場にも関わらずそんな恐ろしいハーブを使ったハーブティーを他国民と共謀して流行らせるなんて!お父様はただソリダゴ男爵とゴールデンロッド子爵に商談相手を紹介しただけでしょう!?」


 ルールカ様はワトソニア先生や偽りの令嬢方を切り捨てる事にしたみたいです。これにカルセオラリア伯爵も乗るように大きく頷きます。


「何故こんな事に!私はただ、不憫に思ってソリダゴ男爵とゴールデンロッド子爵に商談相手を紹介しただけなのに!私は巻き込まれただけの被害者に等しいのです殿下!」


 大袈裟でルールカ様の鸚鵡返しのような伯爵な言葉が響きました。先程も発言の許可について言われていたのに、何故こうも無視するのかな。疾しいところがありすぎて思わず発言せずにはいられないのでしょうか?


 親子で連携プレイを見せるルールカ様をチラリと見れば、彼女はもの凄く冷めた目で自分の父親を見ていました。


 ……?これは、父親切り捨て迄有る?


「あ!貴方が!必ず儲かるからと商談を持ち掛けて来なければこんな事にはならなかったのに!」


「私は紹介しただけだ。その後他国民を令嬢と偽るなどという恐ろしい事を行うなんて!誰が考えつくと思う」


 知らぬ存ぜぬなカルセオラリア伯爵に、文句を言わずにはいられないソリダゴ男爵とゴールデンロッド子爵。なかなかの泥沼です。


「……もう我慢出来ん!」

「あなた!止めてください!」

「子爵、どうか堪えてください!」


 ゴールデンロッド子爵の堪忍袋が切れたのか、何か決定的な事を発言しようとして、そして夫人とソリダゴ男爵に止められています。カルセオラリア伯爵はそれを見て満足そうに笑っていました。

 二人は恐らく、カンパニュラとネメシアが披露した内容以上の何かで脅されているのでしょう。ぐっと唇を噛み締め、耐えている様子でした。


「殿下がちゃんと調べたって言ったでしょ?大丈夫、彼女たちは保護してあるよ」


 ネメシアの言葉に、苦悶の表情をしていた男爵子爵たちは力が抜けた様子でネメシアを見返しました。


 ネメシアが言う彼女たち……それはつまり。


「デルフィニウム、詳細を」


「はい。ここにいる男爵子爵の偽りの令嬢たち。では本物の令嬢は何処か……自分は殿下に命じられずっと探していました。

 初めは自領で匿われているとばかり思っておりましたが、その気配も無い。彼女たちは、カルセオラリア伯爵領に軟禁されていました。

 保護当時はかなり衰弱しており……そして、件のハーブの酷い中毒症状がありました。現在は回復しており、王城にて保護しつつ取り調べを受けております」


「そ、そんな筈はない!大体そんな報告を受けては……」


 カルセオラリア伯爵は口が滑りやすい方の様ですね。知らないとだけ仰れば良いのに、余計な事まで口から出てしまいました。


「お得意の定時連絡ですね」


 デルフィニウムはポケットから小さな笛を取り出し、ピィィ!と鳴らしました。


 ばさばさばさ!茶色い羽根の鳥が何処からともなく入って来て、天井間際をぐるぐる旋回していました。

 デルフィニウムは真っ直ぐに腕を挙げ合図を送り、肩の高さまで腕を下ろすと、鳥は大人しく降りて来て、その腕に留まりました。


「我が国で鳥による伝達方法が盛んで無いのには理由があるのですよ、カルセオラリア伯。鳥や動物は速いし、人の目にもつきにくい。ですが……所詮は動物。強さというヒエラルキーを前に、本能で逆らう事が出来ないのです」


 茶色い鳥は媚を売る様にデルフィニウムに懐いていました。まるで手乗り文鳥のような仕草を見せる鳥は、鷹とか鷲とか鳶かな?と思うのだけど、あんなに甘えるものなのかしら?


「鳥による伝達を信頼し過ぎない方が良かったですね。お陰で途中からは難なく情報を掴む事が出来ました」


 普段堅い表情を崩さないデルフィニウムが小さく笑いましたが、猛禽類が小鳥のように甘える姿を前に、ときめく事など出来ませんでした。

 何をやったのかしら、鳥に……。


「まぁ、そんな訳だからさ。大人しく従う必要は無い訳よ。罪は確定しているけれど、洗いざらい話すなら、情状酌量もあるかもしれないよ?」


 ネメシアの言葉に、今まで娘を人質にされ何処にも訴える事が出来なかった男爵子爵とそのご婦人たちは頷きあっていました。


「全てお話しします。私たちの罪も、全部全て」


「おけおけ!今この場で、と言いたいところだけど、結託してカルセオラリア伯爵に罪を擦り付けたと誤解されてもアレだからね。四人それぞれ同時に別室で取り調べを受けて貰おう。殿下、会議室の準備は出来ています。彼等の退出許可を」


「新たな事実が有った場合はすぐに報告を上げるように。退出を許可する」


 四人が別室に連行される中、カルセオラリア伯爵は呆然としていました。


「何故、そんな、まさか。彼女たちは厳重に……大体アレらの鳥は猛禽類だぞ。どうやって手懐けたんだ……」


 伯爵、本当に口が滑りやすいのですね。独り言のつもりかもしれませんが、まあまあ距離のあるわたくしにも充分聞こえてこますわよ……。


「親がアレだと子は困るよねぇ、カルセオラリア嬢。分かるよ♪だからそんなに苦虫を噛み潰したような顔しないでね。……だって、君がその顔をしたくなるのはこれからなんだからさ!」


 ネメシアは楽しそうに、ノイエ様は無表情に、カンパニュラは侮蔑を込めて、デルフィニウムは不敵に、ムスカリは興味深そうに、それぞれルールカ様を見ていました。







ちなみに、ムスカリはワトソニアやカルセオラリアのハーブ入手ルートを特定したりしてました。カンパニュラと共同作業です。

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