悪役令嬢と卒業式2 聖女のお披露目
「卒業と共に成人とみなされる諸君の中に、久方ぶりの聖女が誕生し、過日聖教会より認定が降りたことをここに報告する。今日の良き日に、今後は聖女として活躍する者のお披露目を兼ねる事を承認願いたい!」
式は進み、現在は聖女お披露目が始まったところです。
チラリと隣を見れば、カチコチに固まったリリーナが白い顔をしていました。
リリーナ、それ聖女のしていい顔じゃないわよ?
「承認は拍手をもって変えさせて頂く!」
拍手が重なると、パチパチ……なんて可愛い音じゃなくなるのね。まるで豪雨のような大拍手の中、リリーナがすっと立ち上がりました。
「いつも通りで大丈夫よ。今日のリリーナは無敵の神々しさだもの!」
こそりと声を掛ければ、この拍手で聴こえていたのかは分からないけれど、にこりと微笑んで小さくガッツポーズをしてくれました。
頑張って、リリーナ!
「新たな聖女、リリーナ・クレマチス!壇上へ!」
鳴り止まない拍手の中、その場で一礼し壇上へ進むリリーナ。
ムスカリが心を込めて作らせたドレスは、少し落とされた灯りの中でほんのりと発光ししていました。歩みを進める度、クレマチスの刺繍が白、ピンク、薄紫へと変わり、神秘的な印象を与えています。
これが全部十代の男子が考えたって言うんだから凄いわよね。
リリーナは最初、ムスカリの瞳の色の宝石にピンクのふわふわのドレスかな、と言っていました。ええ、これがゲーム中のムスカリルート衣装です。
ですが、それだけでは物足りないとムスカリがあれこれ提案し、リリーナが喜び、わたくしも少しだけ参加させてもらいました(首元のチョーカーとの兼ね合いもありましたので)。
この生地にすると言って来た時は、リリーナには大人っぽ過ぎると思ったのですが、その上にレースチュールを重ねてリリーナの希望に沿わせるなど試行錯誤したドレスです。
もうね、ホント美しいの。
卒業式の会場と灯りがどうなっているのか計算した上であの生地とは……キラキラ!じゃなくほんのりってところが、また奥ゆかしい感じで好感度も高い。ムスカリ……恐るべし。
会場からは『ほぅ』という嘆息が聴こえてきて、他人事ながら鼻が高いです。
「紹介しましょう、リリーナ・クレマチス!」
壇上で淑女の礼を取ったリリーナが顔を上げると、会場は拍手喝采でした。
良かった、皆に認められる淑女に見えるわよ!
「過日聖女として認定されたリリーナ・クレマチスです。ご挨拶が遅くなり誠に申し訳ありません」
スピーチの際は極力ゆっくり話すと、間違えたり詰まった時に誤魔化しやすいとアドバイスしましたが、ちゃんと覚えている様子です。良しよし、いい調子!
「皆様を悪意ある魔術から御守りするため、誠心誠意努めて参る事をここに誓います」
聖女自身は悪意ある精神魔術に弱い事が判明しちゃったけどね!まぁ、特殊な条件下だけれども。
それでも本人以外は守れるって言うんだから聖女は自己犠牲が付き纏いそうで、やはり後ろ盾は必要だなと思いました。聖女が国を守るなら、わたくしがリリーナを守らなければ!
「聖女のベールを、新たな聖女に授与する。……励みなさい」
聖教会の大司教様かな?リリーナ曰く、大おじいちゃんにベールをかけてもらっていました。
その際、大司教様に一言二言言われたようで、リリーナが小さく笑っていて、それがまた超可愛くて、会場全体でトキメキました。
ベールはリリーナのドレスに重ねられたチュールレースの色違いなようで、ムスカリが手配したのか、それとも事前にこのベールになると知っていての生地チョイスなのかが気になりました。いずれにせよピッタリ過ぎる!眼福です!
「新たな聖女に、祝福の拍手を!」
ベールをつけたリリーナが、再度淑女の礼を取り、その間鳴り止まない拍手が響き渡りました。
その後、感謝の聖歌をリリーナが披露し、その美声に完全に酔いしれた会場。リリーナを認めない者など一人もいませんでした。
「私は新たに聖女として認めて頂きました。慣例に従って、聖女の伴侶を発表いたします」
聖女は名義上は聖教会預かりの身ですが、基本的には自由な存在です。様々な特権もありますが、それゆえに利用される事がありました。
なので、聖女のお披露目の際に伴侶を明らかにし、彼女が必要以上に権力闘争に晒される事の無いよう守る意味合いも有ります。
聖女の聖結界発動条件は愛である場合が多かったため自由恋愛を許されていますが、不特定多数が聖女の相手になっても困る為、ここ数回の聖女誕生では、お披露目にて伴侶を発表してしまう慣例がありました。
……これって、大昔にもゲームみたいな事があってハーレムルートが発生したって事なのでは?と、今更ながら思いました。
さておき、リリーナからムスカリの名前が出ると、先程の表彰もあって、概ね了承してもらえた様でした。良かったね!
「私は卒業後、一年の婚約期間を経てウォンリード・ムスカリを伴侶とします。成人後は、アナベル・スターチス様の侍女として生計を立てつつ聖女を努めて参ります」
ムスカリ家はまだ平民なので(そのうち爵位がムスカリ家にもムスカリ個人にも来そうですが)リリーナの後ろ盾としては弱い為、伴侶が後ろ盾になる事が難しいための発表でした。
聖女は聖教会常勤も出来ますが、基本的には自由です。聖女として出動要請があれば一番に応じなければいけませんが、それ以外は自由。聖教会からは出動要請分報奨がありますが、縛りはそれくらいなので目の飛び出る額とかではありません。
歴代聖女には、国王と結婚したり、宰相と結婚したり、自ら商売を始めた人もいました。基本的には王家に近しい人との結婚と、就職が望ましいとされています。
リリーナの宣言に、唸る人も居ました。恐らくムスカリごと派閥に引き入れようとの考えを即座に断念せざるを得なかったからです。
リリーナ……この流れも考えて長期休暇中に侍女の打診をしてきたのよね。うん、正解だったわ。スターチス公爵家ならば自分だけじゃなくムスカリにも手を出され辛い。よく考えたわね……。
異議を唱えたい派閥もありそうでしたが、この後に控える婚約者決定によってはその後の対応が違ってきます。『やむなく了承するしか無い』と考えていそうな人がチラホラ見掛けられました。
わたくしの侍女になる件についても、了承が得られたかに思えた時、その声が上がりました。
「アナベル・スターチス様の侍女となる事に、賛同出来かねます!」
声を上げたのは……ベロニカ様でした。
うーむ、婚約者決定の辺りでくるかと思った断罪?劇は、早くも始まりのゴングを鳴らしたのでした。
仕事の関係で更新時間が遅くなる可能性があります。やっとラストが見えたのに安定しなくて申し訳ありません…
出来る限り現在の頻度で更新する予定です。
お付き合い頂けると嬉しいです!




