悪役令嬢と卒業式1 成績発表
昨日は更新出来ずすみませんでした…
卒業式では、学院長からの有難い祝辞や来賓挨拶など、いわゆる前世日本の卒業式で行われるあれやコレのオンパレードです。国どころか世界も違うけれど、その辺は変わらないのね。
ちなみに在校生、卒業生の両親が出席するのは勿論、有力貴族や国のお偉方も来賓としていらしてます。
この中で断罪劇を起こすって、……実際の顔触れを見ると寒気がします。これ、失敗すると社会的に即死ダメージ喰らうわよ?
そんな中で、賠償金と婚約者候補から溢れて行き遅れるだけで済んだって凄くないか?ゲームのわたくし。
卒業式は粛々と進んでいきます。
本当なら昨日までにはノイエ様に告白しようと思っていたのですが勇気も出なければ都合もつかず、では入場待機の時にでも!と思ったのですが、それも叶わず現在に至ります。
婚約者決定まで式が進めば断罪も発生しそうですし、……わたくしの覚悟とは一体。最悪の場合、この面々の前で告白もどきになるのかしら……なにそれ超怖い。ゲームの中のヒロインも悪役令嬢も度胸あるなぁ。
祝辞の後は各種表彰があり、その後に送辞、答辞、陛下からのお言葉を頂戴し、聖女お披露目の儀式、ノイエ様の側近発表、婚約者発表となります。
ううう、まだまだ長丁場ですから気をしっかり保たなければ。
「続きまして、成績上位者表彰に移ります」
これまでの実績や成績、最終課題を加味し成績上位者は表彰されます。これはその後の社交界でもステータスになるものでした。
ゲームだと、カンパニュラかノイエ様が取るのよね。
ノイエ様ルートの悪役令嬢アナベルは表彰にはギリギリ足りず、そのせいも合って感情が昂っていました。その程度の事で感情を表に出す時点でダメなのよね……。
なお、ノイエ様ルート以外だとギリギリ表彰されます。
「本年度の成績上位者は……」
本年度はノイエ様をはじめ宰相子息のカンパニュラ、隣国の第二王子ユーフォルビア様、魔術師団長子息のネメシアなど、凄い面子ばかりです。こんな中で表彰されたなら、その後の地位も安泰でしょう。
なので上位十人に入った方の名前を呼ばれる度、歓声と溜息が漏れ聞こえました。
分かるわ、その気持ち。十位から発表されるから、その人の上に自分は居なさそうとか分かるものね!
そんな訳で現在七位まで発表ありましたが、……これは無理そうです。デルフィニウムが七位で、ムスカリの名前がまだ出ていなくてノイエ様たち四人が入るだろうから……うん、これは無理だわ。
上位を狙っていた方々も、既に意気消沈していますが、わたくしもです。
表彰されるような成績なら更に婚約者に近づけたんだろうなぁ。今更ながらゲームのわたくしの気持ちを知ってしまいました。
更に騒ついたのは六位からです。
六位にユーフォルビア様、五位にカンパニュラだったのです。
「……カンパニュラ様が五位とは驚きましたね」
婚約者候補席と聖女席が隣だったので、つい本音が漏れてしまいました。
「そうですね、驚きました」
リリーナを見ると、少し緊張している様子でした。
カンパニュラが五位な事に驚いてはいる様子ですが、それよりもまだ呼ばれないムスカリの順位が気になるのかしら。
「ふふ、肩の力を抜いて。貴女が呼ばれる訳でもあるまいし」
冗談でも言って緊張を解そうと囁いた言葉を、ベロニカ様が拾ったようです。
「聖女になんて事をおっしゃるのかしら。ご自分が呼ばれないからと言って八つ当たりはいかがかと思いますわ。クレマチスさん、嫌なことは嫌と言っていいのよ?」
……相変わらず、額面通りに受け取る方ですね。
「ご心配には及びません。アナベル様はわたくしの緊張を解いてくださっただけです」
リリーナはベロニカ様の方をチラリとも見ず、成績発表者だけを見て否定の言葉を口にしました。
ベロニカ様は失礼な方!と、更に言いたかった様子ですが、四位の発生が重なり叶いませんでした。
「四位、アナベル・スターチス」
どよどよ!と会場が揺れたのが分かります。わたくしもびっくりです。
「……アナベル様、表彰です!」
「は、はい!」
壇上で学院長から成績上位者の勲章と盾を受け取り席に戻ると、リリーナは心からの拍手と賛辞を、ベロニカ様からは軽蔑の視線を頂戴しました。
「まさか、映えある成績上位者も権力に物を言わせて獲得するなんて思いませんでしたわ」
わたくしも結果にびっくりでしたけど、その感想にもびっくりですよ。
前にも思いましたが、その言いがかりのせいで学院を貶める事になると何故気付かないのかしら。
「学院で不正があると?」
「それについても後程お聞かせくださいね」
悪そうに笑うベロニカ様。
うーむ、彼女の中では断罪劇なのでしょうが、言いがかりの域を出ない可能性が出てきました。
そうなると、仕掛けてきそうなのは……。
そっと、ベロニカ様の隣を伺えば、此方を見てにこりと微笑み、
「スターチス様、四位おめでとうございます」
涼しいお顔でお祝いしてきました。
「カルセオラリア様にお祝いして頂けるなんて、恐縮です」
ずっとベロニカ様の影に隠れていらしたルールカ様が、わざわざ声を掛けて来たという事は、仮面を被る時間は終わったのでしょう。
相手がベロニカ様より巧妙なルールカ様となると、毒の件の証拠が足りないのは不味いかもしれません。
お互い笑顔のまま牽制していると、三位の発表が始まりました。
「三位、セブンスターク・ネメシア」
ネメシアにはわあ!という歓声が上がり、わたくしとの差に多少イラつきました。……まあね、わたくし自身が驚く順位だったのだからあの反応で仕方ないんだけどね。
「次席、ノイエ・アスター」
わたくしの時以上にどよめき、『そんな』『なら首席は?』と驚きを口にしています。
隣のリリーナを見ると、晴れやかな笑顔でした。
「ノイエ殿下には申し訳ありませんが、首席を取ると約束してくれたんです」
リリーナとの婚約で陰口を叩かれた後、ムスカリは誰にも文句を言わせない実績を作ると言っていましたが……、ムスカリは有言実行の男でした。
恐らく首席獲得は手始めで、これからも聖女の伴侶に恥じない活躍をするのでしょう。
ムスカリ……出来る男だわ……。そりゃリリーナも好きになるわよ。
「本年度首席、ウォンリード・ムスカリ」
どよめきと歓声それから拍手を受けながら、いつも掴みどころのない顔で笑っていたムスカリが堂々と勲章と盾を受け取りました。そういう顔も出来るのね。
ゲームでは最高で五位でしたが、もしかすると手を抜いていたのかもしれません。これからも付き合いのあるノイエ様を立てていたと考えると納得です。
ムスカリは販路の可能性や、新しい資材運搬方法の提案、伝達方法の新提案などかなりの数の論文や調査を各種最終課題で提出し、大半が現在国の議会で検討されています。
中でも運送ギルドの設立と伝達方法については、卒業後直ぐに立ち上げ検討議会の議員に名を連ねる事が決定したり、学生の域を出る活躍だと、説明がありました。
ムスカリの提案した内容は叙爵級のものでした。学生が僅かな間に考案した内容では無く、前々から理論やデータを蓄積していた事が伺える見事な提案であったと手放しで褒められています。
今までは単に学生の表彰でしたが、ここまでとなれば誰もムスカリに陰口を言う事が出来なくなるでしょう。
裏付けるように一人前の男性としての自信が漲るムスカリの表情に、リリーナがうっとりしていました。
ムスカリ……マジ凄いわ。リリーナの為に、もう数年掛かるだろう内容を一気に詰めたんだよね……。
この後リリーナは聖女のお披露目と、婚約者が決まった事を発表しますが、二人を反対する者はいないでしょう。
誰にも文句を言わせない、祝福された二人になる為に、ムスカリはリリーナに約束したんでしょうね。
まぁ、リリーナもムスカリがここまで凄い実績作るとは思わなかったでしょうけれど。
お披露目の前に波乱があった卒業式前半。この後婚約者決定で一悶着あるだろうに、卒業式は長くなりそうだな、と思うのでした。
ムスカリ上げ回になりました。




