悪役令嬢とヒロインの追試
アナベル視点に戻ります。
ついに卒業まであと一か月になりました。
学院内は、わたくしへの悪意ある噂と擁護する噂が溢れていて、しばらく時の人感が出ていましたが、殿下からドレスが届いたと大声で話すベロニカ様の言葉で今は婚約者最有力はベロニカ様になったのかとの噂でいっぱいです。
なお、わたくしのところにもドレスは届いておりまして。物凄く凝った作りのドレスを4着……3着かしら?作らせたなら、合計額を想像して冷や汗をかきます。
「ちなみに私にもドレスの打診はありましたが、勿論お断りしました」
リリーナの言葉で、婚約者候補全員にドレスを作らせたという事が分かります。
「殿下がヘマするから余計な出費になるんですよ。方針をハッキリしないのが悪い。あぁ、これで予算編成を調整しなければならないかと思うと……はぁ」
本日のランチはお久しぶり!カンパニュラが一緒です。元気だった?と聞こうにも、大変忙しくなさっていて申し訳ない気分になります。
「そういえばリリーナ、今日ムスカリ様はどうしたの?」
「ドレスの件でちょっとという事で学外に出ているそうです」
珍しくムスカリ抜きだったのでカンパニュラが一緒なのかしら。
「スターチス嬢には気分の良くない噂や話し声も聴こえてきます。……一掃する事も出来なくは無いのですが……」
ここでそれらを一掃するという事は、わたくしがノイエ様の婚約者に決定したと言うようなものです。
ノイエ様にも何やらお考えがありそうですし、わたくしも覚悟が足らないと思うのです。
ですから正直な話、今の状態は助かっています。
「いいえ、このままで。卒業式まであと1か月ですもの、気になさらないで」
わたくしの言葉に、リリーナは曖昧な表情をしていました。何か言いたい事があるのね。声を掛けようと息を吸い込んだところで。
「そうそう、お二人は最終課題は滞りなく?」
カンパニュラの言葉に先程の曖昧な表情は途端に青褪めました。
うーむ、相変わらず間がいいのか悪いのか、カンパニュラ!お陰でリリーナに問いかける機会を失いました。
「淑女のマナーCが!合格出来ないんですぅぅぅ!AはBと同じくおまけで合格にして貰えたんですが、Cが!Cがぁ!」
リリーナは学力や知識方面では苦は無かったものの、どうしてもマナーが板に付かない様でした。
「長期休暇の時に、男爵から猛特訓を受けたのでしょう?わたくしと一緒の時はちゃんと出来てる事も多いのに、不合格なの?」
お互いこんなに砕けた話し方になっていますが、授業中やきちんとしなければならない場面ではリリーナは頑張っていました。ムスカリも協力していたので、実技のCもなんとかなると踏んでいましたのに?
「ウォンやアナベル様の前なら、恥をかかせないように頑張ろう!って思えるんですけど、実技Cって、自分の為じゃないですか。それもあって中々……」
リリーナは基本的に誰かの役に立ちたい子なのよね。だからやる気が起こらない……って、ダメよそれじゃ。
「本当は根本的に色々言いたいけれど!でもとりあえず今は置いておくわ。実技Cに合格する事が、わたくしやムスカリ様の為になると思って頑張りなさい」
恐らく言われなくても分かっているとは思うのですけれど。
「はい。日程を考えるとそろそろ不味いので次こそは……。はぁ、次は相性の良い方だといいのですが……」
「どういう事ですか?」
リリーナの言葉にカンパニュラが反応しました。
「実技Cって、複数人で受けるじゃないですか。それで私は下位貴族グループで受けるんですけど……」
実技Cは、求められる淑女のマナーが上位貴族と下位貴族で違う為それぞれのグループで受ける事になっています。
わたくしはユイリィ様を含め合計三人で受けましたが(採点ポイントが多い為)、下位貴族グループはもう少し大人数なのだそうです。
その内の何人かが、リリーナに絡んでくるせいで不合格になっているとのこと。
「ウォンの事とか、いわゆる恋バナに話題をすり替えたり、答えづらい内容になって言い淀んでしまったりして。そうなると動揺してしまい、お茶を溢してしまったり、……掛けられたり……」
え?
動揺しちゃう……辺りまでは、頷いて聞いていられた(試験中に意図的に恋バナにするのはいかがかと思いますが)のだけれど、お茶を掛けられる?
「それは……、掛けた方も不合格になるのでは?」
わたくしもそう思います。何のメリットが有るのか分かりません。
「その方も当然不合格で。次の機会でもたまたま?一緒だったんですが、その時は前回が嘘みたいに私に絡む事が無くて。代わりに違う方が……」
リリーナは実技Cの試験を3回受けています。その度に変わるがわる誰かしらが絡んでくるそうです。絡んでくる相手は複数人、そのうち何人かは不合格になる事を厭わない。
「それは、作為的ですね。ちなみにどなたが……」
カンパニュラがリリーナに絡んだご令嬢方を手帳に書いていました。
それにしても、何の為に?リリーナは聖女となったのだから、彼女を害するのは彼女たちにとってメリットが何も無いのでは?
「ウォンとの事以外だと、『スターチス様はこんな事も教えていないのか』ですとか『聖女を侍女にする不遜な態度だから、従いたくなくてこうなるんですよね』とか言われて、気にしないようにしてはいるんですけどどうしても……すみません、私のせいでアナベル様が……」
むしろわたくしのせいでこうなっているのかもしれません。リリーナごめんなさい。
「……そういう事は、もっと早く相談してくれていいの。わたくしの事は気にしないで。下位貴族グループの日程はあと3回……もしかすると……」
「もしかすると、不合格覚悟で邪魔してくるかもしれない?自分の卒業を賭けて嫌がらせを?……まさか……」
実技Cは最終学年必修科目です。自分も不合格になる可能性が高いのに、嫌がらせでそこまでするでしょうか?
「噂によると、下位貴族でお二人程、選択科目が足りていない方がいるみたいで……例の出席率で取れるアレを全落としした……」
留年組が出そうで、彼女たちが仕掛けてくると?う、うわ……死なば諸共的な?
ちなみに噂のお二人とはまだ実技Cで一緒になっていないそうです。最悪は最後にやって来る感じですか。
「そ、それは……。彼女たちと違う回を申し込むとかで回避は出来ませんか?」
どれに申し込むかも分かりませんし、最悪全部に申し込んで来そうです。恐らく回避はできないでしょう。
ベロニカ様派閥でしょうか?
リリーナを卒業させないメリットって何かあるかしら。聖女がわたくしの侍女にならないようにする為?管理が行き届かないと糾弾する気?
とりあえず、リリーナの卒業の為動かないといけませんね。
「分かりました。わたくしが何とかしましょう」
わたくし自身への攻撃では無く、周りから削ごうというその態度が気に食わない。
ベロニカ様はなんだかんだと、ターゲットに直接攻撃を仕掛ける可愛らしい方だと思っていたのでガッカリです。
「……口利きなどは通用しません。お茶会のいざこざは出来る限り自ら解決するのが実技試験の醍醐味という持論の教授ですし」
カンパニュラ?わたくしが何かしらの策を練ろうとすると裏工作だと思うのやめてくれない?
「安心して?きちんと正攻法よ。まぁ、リリーナは大変でしょうけれど?」
リリーナの卒業を賭けた戦いが今始まる!
昨日は更新出来ず申し訳ありません……
謎の体調不良がありまして、更新は出来る限り毎日しようと思いますが、出来なかったらすみません。




