悪役令嬢と事件の決着
「医務室にワトソニア先生とカトル君がやって来て……」
リリーナは早い段階で精神魔術をかけられたようで、記憶が曖昧なところもあるようでした。
「あの歳で凄まじいと思っていたが……イフェイオンは土魔術以外にも何か使えると思った方がいいか?」
ノイエ様がネメシアに問いかけました。
ワトソニア先生が精神魔術を掛けたとして、わざわざ一緒に来ているという事はそういう事で確定でしょう。
「イフェイオンは辺境伯だったっけ。……じゃあ、強化の補助魔術の可能性が高いな」
イフェイオン辺境領は魔獣討伐や国境警備を担っていて、戦闘に長けています。
魔獣発生率も高く、それに対応するため、魔力量も多い子が生まれ易いのだそうです。
うーむ、そういう事情なら補助魔術あると便利そうだもんね。生活の知恵的な……?違うか。
「さっきも説明したけど、時間が経つ程精神魔術は解き難くなる。イフェイオンは恐らく、明日にでもリリーナ嬢の様子を見にくるだろう。それによって、再度ワトソニア先生が精神魔術を使う可能性があるから気をつけるように」
「今の時点でイフェイオンとワトソニア先生を捕まえる事は出来ませんか?」
わたくしが聞くと、これにはノイエ様が答えてくれました。
「証言だけでは難しい。残念だけど、今の時点では警戒しか出来ない」
ワトソニア先生を捕まえたところで、『精神魔術を私がかけました!』とは言わないでしょうしね。
リリーナは医務室より女子寮にいる方が安全との事で、立てるくらい落ち着いたら移動する事になりました。
「アナベル様、助けていただき本当にありがとうございます」
精神魔術が解けてもリリーナは体調が良くない。少し熱があるのか、潤んだ瞳でじっと見つめられると、……うーむ、変な気持ちになるくらい可愛いなあ!
「あ、貴女はわたくしの侍女予定ですもの。わたくしが助けるのは当たり前です!」
ドギマギしてしまい、ついキツい口調で言ってしまいました。ごめんねリリーナ。
「なんか、もう大丈夫なんだなぁって実感しました、今」
ムスカリが笑いますが、どういう事?
「……で?あの二人はどうするつもり?野放しって訳にはいかないでしょ?」
軽い口調ですが、有無を言わせない問いかけをするネメシア。
そうよね、お気に入りのリリーナが精神魔術なんか掛けられたら怒るわよね……。
「放っておくつもりは無い。だが、ワトソニア先生は、少し泳がせていたい案件があるが、……まあ、直ぐに精神魔術を掛けて来ようとするなら現行犯で捕まえられるかもしれないが……」
チラリとリリーナを見るノイエ様。
現行犯逮捕するには、リリーナを囮に使わないといけないもんね。
「泳がせるのはいつまで?」
更に問いかけるネメシア。それほどまでにおこ、なのね……。わたくしもだから分かるわ!
「最大で3ヶ月だろう。卒業式前後にはなんとか」
ワトソニア先生に関しては、わたくしもハーブティーの事とか毒の事とか気になっていましたし、そうして貰えると助かります。……が、ノイエ様も同じものを追っている?でも何故気付いたのかしら?
「最大3ヶ月ね、おっけ!それまでにこっちも準備しとこうっと!」
突然明るい声をネメシアが上げました。
ホント、ネメシアの思考は分からない……怒ってたんじゃ無いの???
「捕まえたら、尋問とかする訳じゃないか。精神魔術という事は魔術協会にも声が掛かる。それがオレの担当になれば、使える人間の少ない精神魔術遣いについて、色々調べたり……犯罪者だもんね、ちょーっと酷い事しても、怒られたりしないよね♪」
おこ!じゃなかった!ネメシアは精神魔術が使えるワトソニア先生をどうにかする事の方に興味が移っていました!流石、楽しい事に従順な男ネメシアだわ!
「お手柔らかに頼む」
軽く引きつつ、ノイエ様はネメシアの案を肯定したのでした。
ワトソニア先生の命運はあと3ヶ月なようです。
ところで、明日以降は可能な限りわたくしはリリーナと一緒に行動する事になりました。リリーナを囮にする案はわたくしとムスカリで却下したせいもあります。
「じゃあ、ランチは毎日ご一緒出来るんですね!」
リリーナが嬉しそうに言いますが、これにはムスカリに申し訳なくてどうしようかと思いました。
「あ、じゃあオレも一緒していい?アナベルとは相談したい事もあるし、いいよね?」
ネメシアが同調してきましたが、問いかける相手はわたくしではありません。何故に?
「……いや、むしろ私と二人でどうだろう?相談したい事もあるし」
ノイエ様が謎の凄味を見せながらネメシアを誘っていました。
……つまり、ノイエ様と一緒にランチは出来ないという事、ですね。
「えー、殿下と二人ぃ?花がないなぁ。ま、いーけどぉ」
ネメシアはそのうち不敬罪で捕まるのでは無いかしらと思いつつ、胸に引っかかりを残してリリーナ魅了事件は幕を引くのでした。




