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断罪予定の悪役令嬢の行く末  作者: みずのとさやか
断罪予定の悪役令嬢
55/92

大人枠の攻略対象の思惑

リリーナの精神魔術についての解答編です

 体調を崩したためクレマチス嬢が講義を欠席する旨を聞いた時、これはチャンスだと思った。




 ハーブティーは着実に我がワトソニア伯爵領の収益となっていた。

 それぞれのハーブは何ら違法性はなく、けれど掛け合わせ次第で中毒性や更なる毒ともなるハーブの栽培を提案した時、父は難色を示したのを覚えている。

 やりようによっては他国との貿易で収益を上げ、国内での地位を確立する事だって出来るのに。


 父は昔から堅実だった。真面目で、穏やかで、領民を愛する堅実な伯爵。没落する程困窮してはいないが、特段裕福でも無い。国内での地位を確立しようという気概も無く、ただワトソニア伯爵領を守り続けるだけの、平々凡々な男だった。


 我が領の気候的に、あの珍しいハーブを育てられる条件が揃っていると、父は気付いていた。

 ハーブを育てる為には、ある区画を更地にする必要があり、領民の移動も伴いそうな事も。

 父はそれを避けたのだ。領民の生活を変えてまで行うべきものでは無いと。そもそも、中毒性や毒を生成する目的を持ってハーブを栽培すべきではないと。


 母は侯爵家の三女で、こう言ってはなんだが派手な美貌の女性だった。私から見ても魅力的な女性だと思う。

 見れない顔では無いが、輝く美男でも無い、野心のかけらもない平々凡々とした父の元に嫁ぐような女性ではないと、子供ながら思っていた。


 母は独特の狡猾さがあって、美貌に見合う野心もある女性だった。だから何故、母が父と結婚したのかが分からなかった。


「そんなの簡単よ。わたくしが負けたからよ」


 母は陛下の婚約者候補だったと言う。最後の最後に、陛下は王妃を別の女性に選んだ。


「最後にモノを言ったのはお金。まさかアイツが買収されているとは思わなかったわ」


 まだ野心の火が消えていない母は、私が男子だった事を非常に嘆いた。普通は無事男児を産めて良かったと喜ぶところ、『第二戦の舞台に上がれやしない!』と悲しんだそう。


 母は歳周り的にも合わないから仕方ないと割り切りその後も子作りに励むが、ことごとく男児。

 ならば第一王子の側近に!と画策するも、第一王子と同学年には優秀な者が多く、弟たちも含めワトソニア伯爵家から側近が選ばれる事は無かった。


 すっかり気落ちする母を見たせいだろうか、私が母の夢を叶えてあげたいと思うようになった。


 第一王子が学院に進むのに合わせて、講師の座を手に入れた。第一王子と私は少し歳が離れているため、近付くには学院内が一番だと思ったのだ。

 講師として学生の信頼を得れば、第一王子に近づくのも簡単だと思っていた。


 しかし思うようにはいかない。思っていたより第一王子のガードが硬いのだ。

 更に、歳若い講師のせいか第一王子とは関係ない学生がひっきりなしに相談に来るせいで自由な時間も取れない。

 学院は6年間しか無く、その間に信頼関係を築く予定だったのに……とイラついていると、ある時から学生の相談がスムーズに解決出来るようになった。


「先生に相談すると、なんでも解決する気がしますわ!」


 そんな声を良く聞くようになる。初めは自分の対応力が上がったのかと思っていたが、どうやら違うようだ。微力ながら精神魔術が使えていると気付いたのは講師になってからだった。


 貴族の子女が自分の思い通りになる。

 なかなかの気分だった。


 母の為を思って灯った野心の火は、やがて自分の欲となった。


 母は結局は金がモノを言うと語った。手っ取り早く資金を集めようと考えていると、珍しいハーブの栽培に行き着いた。


 この提案に母は二つ返事で喜び、父は難色を示した。

 だが、4年前に起こった災害の前に、父は私の提案に乗るしか無くなった。


 精神魔術とハーブを使って、少しずつ将来の貴族たちを掌握する。周りくどいが、いい策だと思った。

 ハーブをハーブティーとして、主に女子学生に密かに流行らせる。そこから女性を中心に学生以外にも流行らせていく。

 急激に流行らせては、ハーブについて調べる者も出て来るだろうから、ルートは絞り気味に。

 絞ったのがプレミア感を呼んだのか、ある種ステータスを持たせたようだった。

 ハーブの作用については、知識がなければ辿り着かないに違いない。身のない話の多いご令嬢方にはバレないだろう。

 そうして中毒になったら、今度は子が流れやすくなる作用を打ち消すハーブを売る。

 原因も対処法もこちらの手の内で、笑いが止まらない。


 ある程度の財が手に入ると、更に欲が出た。欲というものは際限が無いのだと知った瞬間だ。母もこの欲に取り憑かれたのだろう。


 王家を相手にハーブや精神魔術を使うのは危険過ぎる。罰金どころか処罰もあり得るからだ。

 得意の手が使えないのにやきもきしたが、よく相談に来ている学生の言葉で良い案を思いついた。


 第一王子の婚約者はまだ決定していない。第一王子の婚約者は、つまり王妃になる女だ。これを操れれば、更なる権力に近づくのではないか。


 第一王子の婚約者候補を調べるうち、一人の候補と手を組む事が出来た。

 初めは婚約者候補筆頭に擦り寄る事を考えたが、公爵家の力は大きく隙が無かったから諦めた。

 だから、手を組んだ彼女が王妃になった時に便宜を図らせる。裏切らないように、彼女にもハーブ売買に関わるようにして……。

 計画は順調だった。


 第一王子が最終学年になると、計画は最終段階に入った。婚約者候補筆頭は難なく引き摺り落とす事が出来る筈だった。


 けれど聖女候補が現れて、計画にヒビが入った。どの婚約者候補も聖女に対して、何かしら思うものがあるらしい。


 私が手を組んだ候補者も、焦りが見て取れた。聖女候補が明らかに第一王子と懇意にしているのが分かるからだ。


 ハーブティー以外を使いたいと言い出したのは、彼女の方からだった。


 毒は、バレればこちらも危うい。

 難色を示すと、彼女は此方を脅してきた。彼女との関係性は、諸刃の刃だったと気付いた時には手遅れだった。


 一連托生よ、彼女が笑う。

 毒のような魅力だと、私は思った。




 聖女候補への毒は、失敗したようだった。ただ、毒を仕込んだのは別の候補者に仕立て上げる算段は出来ているようで、失敗も痛くはないそうだ。

 毒のルートはバレる確立は低いだろう。彼女が裏切らなければ。


 聖女候補の存在は相変わらず厄介だった。彼女をこちら側に引き入れるか、排除するか。手を出そうにも、第一王子とその側近がべったりで隙が無い。

 このガードの硬さは聖女候補が婚約者に決まるのか?と、焦りを覚える程だった。


 長期休暇が終われば、第一王子の婚約者決定まで半年になる。

 協力者である彼女に確認すると、厄介なのは婚約者候補筆頭に変わったと言う。だが、それにも手は打ってあるらしい。手を組む相手を彼女にして良かった、心強い。

 ならこちらは、もしもの事を考えて聖女候補の籠絡を視野に入れよう。


 聖女候補を調べていると、イフェイオン辺境伯子息の存在が目についた。イフェイオン少年は、聖女候補に執着を覚えている。

 ……これは使えるな、と直感した。


「君の力になりたいんだ」


 失恋したらしい少年に精神魔術を発動して囁けば、簡単に言いなりになった。魔力量の多い少年だったが、精神を乱していたのも幸いした。思春期の少年ほど操り易いものはない。

 しかも、少年はこちらに都合の良い魔術を修得していた。強化の補助魔術だ。


 私の精神魔術と少年の強化そしてハーブが有れば、もしや聖女を手中における?更に、婚約者候補筆頭の公爵令嬢も意のままになるかもしれない?

 協力者の彼女が婚約者とならなかった場合の保険はいくらあっても構わないのではないか。むしろ、候補者全てを意のままに操る事が出来たなら、王家だけでなく、この国の名だたる貴族まで?

 欲は際限なく広がる。


 そんな時、またもや幸運が私に訪れる。公爵令嬢に近づく機会を得たのだ。

 いつものように精神魔術を掛けながらやれば、彼女もハーブティーの虜になるだろう。なあに、所詮少女だ。公爵家の高等教育を受けていたとしても、ハーブと毒の関係性はバレないだろう。


 軽く考えていたのに、いつもと違う反応だと気づいた時は焦った。

 精神魔術と甘い台詞と己の容姿を持ってしても、公爵令嬢はグラ付かない。ハーブティーは気に入ってくれたようだが、油断は出来ないなと思った。


 ならば公爵令嬢は後回しだ。少年の希望もあるし、ターゲットは聖女候補に切り替えだ。


 公爵令嬢は魔力量が多いと言う。ならば聖女候補も、そう簡単に精神魔術は掛からないだろう。

 少年の強化と、そして何かきっかけが有れば……。


 聖女候補が体調不良で講義を欠席した時、これはチャンスだと思った。


 講義時間に少年と共に医務室を訪れると、面白いように精神魔術が掛かった。少年の意向を取り入れて、聖女候補の恋人の名前を聞く程嫌悪が湧くように。恋人への感情が少年に向くように。

 複雑な魔術となったため何度も重ねる必要があるかと思ったが、聖女候補の魔力が精神魔術と相性が良かった(聖女からすれば悪かったのかな)のか、かなりの威力になった。


「リリーナ!リリーナ!」


 初めは喜んでいた少年だが、精神魔術特有の虚な雰囲気を聖女候補の中に感じ取り、気を悪くした様子だった。


「この分なら、明日になれば大分精神魔術と彼女の魔力が交じる。そうなれば虚ろな雰囲気は薄まるだろうよ」


 教えてやれば、苛立ったように医務室を出て行った。少年は潔癖なところがあるようだ。まだまだ甘いな。


 ついでに聖女候補にもハーブティーを飲ませて虜にしよう、と欲が出た。

 いつも持ち歩いているハーブティーを美味しく淹れた。さあ、お前も私の掌で踊れ。


 だが、私は早く立ち去るべきだった。


 公爵令嬢が医務室を訪れたのはそのすぐ後。


 第一王子の婚約者候補筆頭の公爵令嬢は、どうにも私の思う通りには動いてくれない相手だった。






更新時間が安定しなくて申し訳ありません。

なんとか毎日更新したいと思っていますので、18時以降に覗いて頂けたら幸いです

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