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断罪予定の悪役令嬢の行く末  作者: みずのとさやか
断罪予定の悪役令嬢
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悪役令嬢とヒロインに掛かった魔術2

遅くなってすみません……

「それで、リリーナはどうすると治るかしら?」


 医務室のベッドの上で、ぼんやりしているリリーナとすぐ側の椅子に座るムスカリを思うと、早く何とかしないと……と気が焦ります。


「本来なら体調を整えるのが先だ。体調が良くなれば今の状態よりは回復するだろう。……だが、聖女の魔力は独特な様だから、私では分からない。こんな時に限って親父は学会出席で暫く学院には戻らないし……!」


 頭を掻きむしりながら唸る若先生。手に負えない事態に、おじいちゃん先生の事を親父と呼んでしまっています。


「魔術協会的には、精神魔術を掛けられた場合、一、魔術を掛けた相手を探し出して解除させる。ニ、精神系の回復魔術を掛けてもらう。三、特殊魔術の魔術打ち消しを行ってもらう。四、荒技だけど自身に聖結界を張ってもらう。この四つの対処が挙げられる」


 ネメシアが魔術協会的な意見をくれました。こういう時凄く助かりますね。


「一は、難しいだろうな。ワトソニア先生が精神魔術を掛けた証拠が無ければ認めなそうだ。イフェイオンが掛けた場合も然り。……学院に二人も精神魔術が使える者がいるとは考え難い。話からすると魔術はワトソニア先生のようだが……」


「ニは、まず精神魔術が使える者が少ない。なので精神系の回復魔術修得者も少ない。生命の危機が迫っているならまだしも、今の状態では……依頼してもかなり時間が掛かるだろう」


「三の特殊魔術も同様。魔術協会に申請して……でも、魔術協会ってオレと同じ様な考えのヤツばっかりだから、容赦なく実験マウス扱いになると思う」


 ノイエ様、若先生、ネメシアの順で教えてくださいました。


 ……え?残りは四?でもリリーナの聖女結界は吸収しちゃうし……?


「つまり、本来なら本人に発動させてもらうところを君にやって欲しい!わー!初めての事例だ♪かなりの荒技だけど成功するかな?」


 すっごく楽しそうなネメシアですが……それって大丈夫なの?


「……リリーナに、危険は無いんですか?」


 そう、それなのよ。ムスカリが心配するのも当たり前だと思うの。わたくしが聖結界を発動するのは構わないのだけれどね。


「うーん、それは分からない!この間の聖結界練習の時みたいに相手を弾いちゃうと、最悪リリーナが吹っ飛ぶ。……ま、ここでやるならオレたち全員その危険はあるけど。あと、成功するかは分からない。二人の魔力量がどのくらいなのかも分からないし」


 ……なんか、凄く不穏な事を言われた?


「誰かが名前を言うたびに反応するなら、隔離するという手も有るか?」


「精神魔術を解く申請が通るまでずっとですか?流石に非現実的ですよ」


「でしょ?そんな訳で、聖結界が一番試す価値有りなんだよ♪オレの興味的にもね!」


 実は他に方法があるのに試したいだけってオチは無いわよね……。疑ってしまう程、ネメシアが浮かれていました。

 うーむ、見直しかけていたんですがね。ネメシアはヤバい人物でした。


「今すぐじゃないと駄目だろうか。例えば明日、広い場所で危険を最小限にして行うと言うのは……」


 吹っ飛ぶ話が出たので、若先生が心配し始めました。……わたくしもその案に乗りたいです。


「精神魔術の怖さは、染み込むように身体に馴染んでしまう所だ。時間が経つにつれて、荒技は効かなくなると思う」


 精神魔術がリリーナに馴染んでしまうと、魔術のみを弾く事が出来なくなるということかしら?

 なら時間勝負。結果的にネメシアを呼びに行ったのは正解という事で良かったのかしら。


「オレを頼ったのは正しい判断だった。……で、この中で一番魔術に長けるオレの意見は、今すぐ聖結界を発動、これしか無い」


 聖結界を発動させて、リリーナや他の人に怪我をさせたらどうしよう。


「因みに聖結界は全力で張ってね。じわじわやってリリーナ嬢に吸収されたりしたら面倒だし。君の魔力量の限界が先にきたら意味がないから」


 この前は、心がぐちゃぐちゃで聖結界が不安定でした。しかも全力で結界を張った訳じゃありません。あの時はたまたま怪我人は出ませんでしたが……今は?

 今は不安で。リリーナを助けられるなら頑張りたい。けれど、こんな狭い室内に叩きつけられる事になったら?


「……大丈夫。もし失敗しても、リリーナ嬢の事はあいつがクッションになる。私たちは……まあ、怪我をしても男だからな。名誉の負傷だと思おう。だから、試してみよう。あれが妙に楽しそうなのは気に食わないけれど」


 ノイエ様がわたくしの手を握って、珍しく嫌味も何もない素直な表情で言います。


「ノイ……」


 名前を呼びそうになって、慌てて口を押さえました。誰の名前がトリガーになっているかも分からないんでした!


「紳士は勝手に淑女の手を握らない」


 こほん!と若先生が咳払いと苦言を漏らしました。先生はいつもの調子が戻って来たようです。


「最悪の場合の責任は、殿下って事でいいんですよね♪」


 ネメシア、提案だけして責任丸投げなのね。まぁネメシアらしいんだけどね。


「僕は、もしリリーナの魔術が解けるなら僕が怪我するくらいなんて事無いので」


 ムスカリ!リリーナ、貴女の彼氏は男前よ!いい彼氏選んだわ。


「?」


 リリーナ本人は、ぼんやりとこちらを眺めていました。


 失敗したら、ごめんなさい。タンコブ位は許してね!


「分かりました。少し離れて……両足で踏ん張ってくださいね。リリーナの後ろで構えてください」


「分かった」


 みんな頷いてくれます。


「それから、あの、わ、笑わないでくださいね!」


 こう言ってはアレだけど、わたくし歌は下手なのよ。こんな事なら、もっと真面目に上手くなる練習をするべきでした。いえ、別に音痴な訳では無いのだけれど、聞かせる程のものじゃないと言うか、……今更ながら恥ずかしくなってきました。


「大丈夫、チャームポイントだと思っておくから」


 理由を知るノイエ様が笑っていました。

 ……覚えておきなさいよ!


「♪」


 一番マシに聞こえる聖歌を歌います。微妙な顔をする男性陣、いいから黙って足に力入れててよ!


 わたくしの聖結界の発動は遅い。だから歌わなければならない時間が長いのです。早く発動してよー!


 ぐわっ!


 魔力が減る感覚。慎重に、リリーナ本人を吹っ飛ばす事の無いように、彼女に掛かった魔術だけを弾く感覚で。


 長期休暇の魔獣戦の時のように、押し返される感覚があります。精神魔術自体は弱そうなのに、リリーナの魔力と混じり始めているのかしら?でも、もう一つ、三種類の魔力を感じるような……?


 魔獣の時同様、更に歌って出力を上げる必要があります。今でもかなりの出力なのに、コントロール出来るかしら!?


「全力で!最悪コントロール出来なくてもいい。手応えはあるみたいだ!」


 この押し返されてる感覚が手応えなのかしら?


「♪」


 結局、歌っているのか絶叫しているのか分からない状態になりました。


 がしゃん!ネメシアが後ろによろめいたようでガラスが割れる音がします。


「っ!」


 ノイエ様が背中を壁にぶつけたようです。


 二人には悪いけれど、もう少しで何かを吹っ飛ばせそうなの!


「♪」


 わたくしの歌声に効果音をつけるなら、正しくボエ〜!でしょう。でも、聖結界は歌の巧さには関係ないんですからね!


 感覚的には、ぶん!って感じがしました。魔獣を吹き飛ばす感覚に似ています。多分、出来たと思う。


 聖結界を解いて、みんなを見る。

 リリーナはムスカリに抱えられてぐったりしていました。ムスカリは少ししか動いていないようです。若先生は、事務机にぶつかっていましたが平気そう。ノイエ様は背中をぶつけて咳き込んでいて、ネメシアはガラスで切った様で細かく血が出ていました。


 恐らく魔力量が多い程被害が大きいようです。


「ごめんなさい。リリーナを傷つけないように、としか考えていなくて……」


「だ、大丈夫だ。魔術を発動させていない状態でこの弾き方って事は、何かしら発動していたら骨折していたかもな」


 ノイエ様の台詞により、わたくしの聖結界は守りだけでなく攻撃にもなる可能性が出て来ました。


「……今度アナベルの聖結界についても調べさせて」


 ネメシアはいつも通りだけど、手当てしようね?


 ところで、ネメシアがわたくしの名前を呼びました。わたくしの名前に反応するかは分かりませんが、どうでしょう?


「……」


 リリーナはまだ少しぐったりしているようで、反応がありません。わたくしの名前に反応する精神魔術では無かったかしら?


「どうする?名前を呼んでみるか?」


 ノイエ様がネメシアに相談します。魔術の専門家的にいかがですかね?


「まー、確かめてみるしかないよね♪どう?ムスカリ君!」


 躊躇なくムスカリを呼びました。

 先程までなら、ムスカリを拒否してイフェイオンを求めていましたが……?


「リリーナ、僕を、呼んでみて?」


 ぼんやりとムスカリを見つめるリリーナ。手応えがあった気がしたのだけれど、ダメだった?


「……ウォン。私、……ごめんね」


 リリーナが、少し疲れた顔で答えます。


「良かった。……良かった」


 ムスカリがリリーナをぎゅっと抱きしめました。

 もう一度好きになってもらう、と言って強がっていましたがムスカリも心配だったのでしょう。好きな人に拒否されるのは怖いものね。

 

 二人が確かめ合うように抱き合うと、若先生は苦虫を噛み潰したような顔をしていました。

 注意したいけれど気持ちもわかる、と言ったところでしょう。


「解けて良かったけど……、同じ術式の精神魔術は掛かり易い状態だから気を付けるように」


 急に真面目な顔でリリーナに忠告するネメシア。


 そうです、魔術が解けて一安心ではありませんでした。何故リリーナがこうなったのか。リリーナ本人に聞く必要があったのでした。


「リリーナ嬢、どうやって君は精神魔術を掛けられた?」







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