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断罪予定の悪役令嬢の行く末  作者: みずのとさやか
断罪予定の悪役令嬢
53/92

悪役令嬢とヒロインに掛かった魔術1

長くなりましたので、分けます

 リリーナを探している途中、ネメシアと合流しました。


「見つかりましたか?」


「いや、まだだ。若先生が見送ってからそんなに時間が経っていないはずなのに変だな」


「若先生からお聞きしたんですが、先生が医務室を離れていたのは30分程度だそう。その時間にイフェイオンとワトソニア先生が医務室に来ていたの」


「……ワトソニア先生は精神魔術を使う可能性があって、イフェイオンはリリーナに執着している。……偶然か?それとも繋がりがある?」


 まさか攻略対象の二人が組んでリリーナを?イフェイオンはリリーナに対して執着があるみたいだったけれど、ワトソニア先生にそんな感じは無さそうなのだけれど……何故そんなことを?

 じっくり考え込みたいけれど、未だ見つからないリリーナを探すのが先決でした。


「一度医務室に戻ってみよう。ムスカリも若先生も探してくれているんだろう?」


「そうね、もしかしたら医務室で保護されている可能性もあるわね」


 リリーナを探しながら医務室に向かう途中、声が聞こえてきました。


「離して!私、もうムスカリ様の事なんて好きじゃないの!私はカトル君が……!」


 リリーナは無事見つかったようですが、明らかに変です。


 リリーナがムスカリの腕を抑え、若先生が医務室に走って行くのが見えました。ノイエ様も一緒です。


「リリーナ嬢、今の君は明らかに普通じゃない。落ち着いて、とりあえず医務室に戻ろう」


「私、わた、しは、ムスカリ様の事なんて……」


 ノイエ様に諭されると、リリーナはうわごとのように同じ事を繰り返し言います。


「君とムスカリはあんなにも思いやっていただろう?」


 リリーナは身体をびくりと震わせて、また同じように『ムスカリ様なんて……』と繰り返しました。


 もしかして、『ムスカリ』に反応しているのかしら?

 ……そういえば、さっきもムスカリの名前を出したら態度が頑なになったし。……イフェイオンの名前を出したら、反応していた?


「リリーナ、大丈夫。もし僕の事を好きじゃなくなったなら、また好きになって貰えるように頑張るから。気にしなくていいんだ。だから、医務室に戻ろう。そんなに手を握り締めていたら怪我をする」


 ムスカリは優しくリリーナに語りかけます。あんなにも拒否されているのに、優しい声で。リリーナが怪我をしないよう心配していました。


「私は、ムスカリ、様の事なんて、」


 同じように繰り返し呟きながらもリリーナは苦しそうに頭を振っています。


「うん。でも僕は君が好きで、とても心配なんだ。大丈夫、大丈夫だよ」


 安心させるように言葉を重ねるムスカリに、少しずつリリーナが落ち着いていきました。


「少しの間、互いの名前を呼ばないで。名前がトリガーになっている可能性があるよ」


 何かに気付いたらしいネメシアがわたくしたちに声をかけます。

 今のところ、『ムスカリ』『イフェイオン』に反応しているみたいだけど、他にもあるかもしれないという事でしょう。


「とりあえず医務室へ。まだ講義時間中だから、騒いでいると人が来てしまう。そこでまたリリーナ嬢が先程のようになると面倒だ」


 医務室の扉の前に若先生がいらして、他には誰もいない事を確認してくださっていた。


「私が離席していたせいでこんな事になり……すまない。離席前は所謂風邪の症状で落ち着いていたため、呼び出しに応じてしまった」


 先生は講義中に怪我をした学生がいるので至急来て欲しいと呼ばれ席を外したそうです。


「向かってみれば、ゼラニウム嬢が指先を少し切って血を流したようでね。血に驚いて立てない、との事だった。大した怪我ではなかったので、応急処置をして戻ったらクレマチス嬢は出て行く所だった」


 ゼラニウム子爵令嬢……、確か、ベロニカ様のご友人だったような?


 リリーナが具合が悪くて医務室で休み、たまたまベロニカ様のご友人のゼラニウム子爵令嬢が怪我をしたため医務室を30分程空けて(若先生の口ぶりでは呼ばれる程ではない?)、その僅かな時間にイフェイオンとワトソニア先生が見舞いに来た?


 ……作為的なものしか感じません。


「先程握り込んでいた掌は、赤くなっているね。もう少し長く握り締めていたら血が出ただろう。一応ガーゼを巻いておく。医学的には、熱が変わらずあるな。恐らく風邪だろう。……魔術的には、私は父程詳しく無いのだが……精神魔術を掛けられた人と似ているな」


「精神魔術は、魔力量に差があるとかかり辛いとされている。リリーナ嬢は聖女になる程の魔力量だ、精神魔術は無理なのでは?」


 若先生の見解にノイエ様が反論します。ノイエ様もリリーナの様子がおかしいのは分かっていても、不可解なのでしょう。


「体調が悪くなると、魔力のコントロールが崩れて、普段よりは精神魔術が掛かりやすくなるよ。疲れている時なんかもね。……でもまあ、リリーナ嬢の魔力量を考えるとそれも難しいだろうね。……何か追加の補助魔術が働いているか、精神魔術を掛けた相手の魔力量が凄まじいか、他の何かか……」


 ネメシアがノイエ様の疑問に答えるように説明をしましたが、リリーナが何故こうなったのかが分かりません。


「そういえば、リリーナはハーブティーを飲んでいたわよね」


 あのハーブティーは、恐らくわたくしも出された中毒性があるハーブティーで、アイスティーにする為普段より濃いと、ワトソニア先生は言っていた。

 でも、ハーブティー自体には精神魔術的な作用はないって話だから直接は関係ないのかもしれませんが。


「ハーブティー?ああ、あの軽く中毒性のあるやつ。体調が悪くて、中毒性のある飲み物を飲んだら、干からびた地面が水を吸うように精神魔術がかかりやすく……は、ならないよ?まあ、いつもよりハーブティーが欲しくなりやすいだろうけど」


「そのハーブティーが欲しくて先生のところへ行くと、繰り返し魔術を掛けられるように……とかかしら?それは今後気をつけるべき案件ね」


 ワトソニア先生がリリーナにハーブティーを飲ませた理由はそれでしょう。精神魔術は一度掛かると、それ以降は重ね掛けしやすいらしいから。


 しかし、今回は一度目の精神魔術の掛け方についてです。何故リリーナに掛けられたのか……?


「リリーナは、先生と話していて……疲れたり、不快感は無かった?」


 誰の名前がトリガーになっているか分からないため、ワトソニアの名前を呼べないので分かりづらいわね!


「若先生と……では無く、その、お茶を頂いた時に」


「……いえ?何も感じませんでしたが?」


 いつもよりぼんやりした声でリリーナが答えてくれました。良かった、少しずつ様子が戻って来ているみたい。


「アナ……、君は、先生と話すと何か感じるのか?」


 ノイエ様が思わずわたくしの名前を呼びそうになっていました。

 イフェイオンはわたくしを睨んでいたから、わたくしの名前もトリガーかもしれませんね。わたくしもうっかり名前を呼ばないよう気をつけないと。


「わたくしは、先生と話すと妙に疲れるというか、気持ち悪いというか……」


「故意になのか、無意識なのかはわからないけど、恐らく先生は精神魔術を使える。学生指導や相談も多く受け持っているし、精神魔術があると楽なんだろうけど、届出は出ていない」


 わたくしの言葉をネメシアが補足してくれました。


「ああ、君たちがコソコソやっていたのはそういう……」


 ノイエ様は何やら不機嫌そうにブツブツと呟いていました。急に機嫌悪くならないで欲しいわ。


「……で?君は精神魔術を掛けられたみたい、という事で合ってる?」


 ノイエ様の声は先程より尋問感が強くなりました。わたくし何も悪い事してませんのに!


「恐らく。彼曰く、無意識に精神魔術を弾いているせいだろうって」


 答えると、ノイエ様は更に機嫌が悪くなったようで眉間に縦皺が寄っていました。……そんなお顔、初めて見ましたよ?


「彼、ね。……ふーん」


「はいはい、今は名前が呼べないから仕方ないでしょ、気にしない気にしない」


 ネメシアを睨むように見ていたノイエ様をネメシアは軽くあしらっています。

 王族に対してもその態度か!と思いましたが、ネメシアも側近候補だったのですから、面識もあるのでしょう。思いの外気軽な仲なのかもしれません。


「……多分、君が思うより複雑な心境だよ、私は」


 ノイエ様は溜息混じりに苦笑していました。どんな心境なのかは分かりませんが、少しだけ機嫌が治ったようです。


「聖女結界について、オレは文献でしか知らないんだけど……普通の結界とは違うの?」


 気を取り直してネメシアがリリーナとわたくしに聞いてきました。


「わたくしの結界は、弾く感じで……」


「私の結界は、魔力を吸収した後、魔力を大気に霧散させる感じで……」


 わたくしたちの話を聞いて、ネメシアが突然大きく頷きました。


「魔力の性質が異なるのか。……つまり、聖女の魔力では、性質上、精神魔術を防げないのかもしれない!うん、そうに違いない。これは文献にも、無かった!面白い!」


 ……あ、これ、研究スイッチ入っちゃった?


「そうか、聖女は精神魔術は防げないのか……一度吸収してからだから、その時に掛かっちゃうのかな?じゃあ他の補助魔術だとどうなるのかな?先生の精神魔術は恐らくあまり強くは無さそうだから、補助魔術を使われているのかな?」


 ネメシアは言葉数が多くて早口になっています。面白いと感じるもの以外にはアッサリしているのに、この変わり様……。


「気になるな、補助魔術も同時に発動されてこうなったのか。それとも聖女魔力でブーストが掛かっているのか……。うーん、一回リセットして、もう一度掛けて貰えないものかな。そうすれば何故こうなるのか論文が書ける……」


 ネメシアは思考の海に沈んでいっているのか、かなり不穏な事を言い出しました。そんな実験マウスみたいな事、リリーナにさせられないわよ!


「ちょっ」

「今のは聞き捨てならないな!今のリリーナの状態を見て、それでもう一度精神魔術を掛けられろと!?冗談じゃない!」


 わたくしが抗議する前にムスカリがキレました。


「リリーナは苦しんでいる!精神魔術に抵抗しているせいだ。なのに貴方は……!」


 身長の勝るネメシアの胸ぐらを掴んで無理矢理下に向かせるムスカリ。普段穏やかそうで、体術は苦手って話だったけど……リリーナが絡めば違うわね。


 でもまあ、これはネメシアの自業自得です。助け船は出さないわよ。わたくしも怒ってますから!


「……ゴメン、ちょっと熱中しちゃった。本心だけど、やるべきじゃ無い事は分かっているつもり」


 ネメシアはハンズアップして謝るものの、本心は試したいって……何で今言うのよ。火に油じゃない?


「はぁ。ネメシア子息がわざわざ口に出したと言う事は実際やらないんでしょうけどね。思っていても言わないで欲しいし、絶対やらないでください」


 ……ムスカリは大人でした。口調もいつもの穏やかなものに戻っています。流石、大商家のご子息は違うな。


「リリーナが元に戻ったら、一発殴らせてくださいね、それで流してあげましょう」


 にっこり笑って不穏な言葉が続いたので、まだまだ大人にはなりきれていない様子でしたが。






2日程更新をお休みして申し訳ありませんでした。

今日から再開します……が、読み返す余裕が無かったので誤字脱字のご報告よろしくお願いします!

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