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断罪予定の悪役令嬢の行く末  作者: みずのとさやか
断罪予定の悪役令嬢
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悪役令嬢と悪い噂

遅くなって申し訳ありません……

「昨日は大丈夫でしたか!?」


 朝からリリーナが大騒ぎです。

 まあ、ひそひそと噂する声もあちらこちらから聞こえてうるさいのですけれど。


「昨日の講義、私もやっぱり出れば良かったです!そうしたら、あんな噂になんか……」


 昨日の一件は、『聖結界をコントロール出来なくなったわたくしに、親切にも声を掛けてくださったご令嬢方を不当に罵倒した上で怪我を負わせ、止めに入ったネメシアが危険を感じる程の魔術を行使した』のだそうです。


 親切な声掛け?ああ、嘲笑と侮蔑のことかしら?

 不当?真実を伝えるのが不当とは片腹痛い。

 怪我?グループの彼女たちには謝った時に確認したけれど何処にも傷は無かったわ。気にしなくていいと言われたけど、本心では無いという事?そうは見えなかったけれど。


 そして何より、ネメシアが危険を感じるって……あの魔術の天才を?わたくしそんなに評価が高いのかしら?あはは、その噂がネメシアの評価も落してるって分からないの。なんてお粗末な。


 けれど信じる人もいるみたいで、わたくしを見ては眉を顰めています。噂に乗じた、わたくしの地盤崩しかもしれませんが。


「ありがとうリリーナ。でもわたくしの魔力が溢れそうになったのも事実なの。ちょっと、伝わり方がおかしいようですが」


 言いながら、辺りを見回します。

 冷めた目で見つめれば、元々吊り目なわたくしは睨んでいるかのような印象になります。

 疾しいなにかがある方たちは、そっと目を伏せた様です。

 ベロニカ様のご友人の関連ね、確認しました。


「何か理由があったのですよね。私で良ければ話してくださいませんか?」


 とても心配した顔で聞いてくれるリリーナ。柔らかなピンクの髪が揺れる姿は、ゲームで見たヒロインそのもの。

 愛されるためのヒロイン、そのものでした。


 わたくしが特別な存在ではないと分かった、ただそれだけの事なのだと言えば済む話なのに、心の何処かで認めたくない気持ちがあって、心配してくれているリリーナにすら打ち明けられませんでした。

 愛される存在のリリーナに、わたくしの気持ちは分からないでしょうから。選ぶ側は、選ばれる側の気持ちを理解する事は出来ないでしょうから。


「ごめんなさい大丈夫よ、気にしないでね。わたくし、昨日ご迷惑をお掛けしした方々に再度謝罪して参りますわ。リリーナは講義の準備をしていてね」


 なんだかとても惨めな気持ちになってしまい、逃げるようにその場を後にしました。




 昨日、多重聖結界を一緒に試した方々にお詫びに行くと、彼女たちはむしろわたくしの事を心配してくれていました。 お二人は仲が良いようで、わたくしが謝罪したところ矢継ぎ早で話し始めます。


「スターチス様、昨日の事は本当に気になさらないでください。わたし、攻撃魔術の講義も受けていますが、そちらに比べたらなんて事ないんですのよ。大体わたし怪我なんてしていませんし!」


「そうですわ!わたくしだって怪我なんてしておりません。まるで大怪我を負ったかのような不名誉な噂を!何故こんな事になってしまったのかしら!」


 大怪我を身体に残した、なんて噂が立っては今後に関わります。断罪されるために……と思って放置していましたが、迷惑を掛けるつもりは無かったのに。これは失態です。何でこんな簡単な事も思い付かなかったのかしら。


「わたくしのせいで……本当にごめんなさい」


「あっ!申し訳ありません、スターチス様を責めているのでは無いのです。わたくしたちも噂は真実では無いと言っているのですが、噂を止める事が出来なくて歯痒くて。一番お困りなのはスターチス様なのに、自分の事ばかりで……」


「配慮が足りなかったのはわたくしの落ち度です。むしろわたくしの心配までなさってくれてありがとうございます」


「そんな!スターチス様は何も悪くありませんもの!あんな悪意ある噂にする方が悪いんです!わたしにもっと発言力があれば……」


 昨日のわたくしは、この二人に怪我をさせたい気持ちはありませんでしたが、嫌味と嘲りをくださった方々については全くないとは言い切れません。なので、悪くないと言われると少々心が痛くなります。性根が悪役でごめんよ令嬢方。


「いいえ。この噂を流していらっしゃる方々に面と向かって反発するのは、お二人にとって良い事では無いと思います。ですから、お二人にはご迷惑をお掛けしますが何もなされないで。お二人の名誉は守りますから」


 ベロニカ様は分かりやすい手を使いがちなので、お二人が声高に噂は真実では無い!と叫ぼうとした場合、それによって危険が及ぶかもしれません。

 わたくしのせいで怪我を負う事になっては申し訳なさすぎるので、誰かに聞かれたら『怪我は無い』と言う程度に抑えてもらう事にしました。


 お二人はかなり抵抗なさって、


「スターチス様の言葉だけでは、隠蔽だ!と叫ばれたらどうなさるのですか!ピンピンしてるこのわたしを見て貰えば!論より証拠なのに!」


「そうですわ!守られるだけでなく、わたくしもスターチス様を御守りしたいのです!」


 とても嬉しい言葉が聞けました。お二人の気持ち、とてもありがたい……のですが、何でそんなにわたくしの味方になってくださるのかしら???


「あら、わたくしにも打算は有りますのよ?でもそれ以上に、わたくし個人が、スターチス様に好意を抱いております。ご迷惑でしょうか」


「そんなことは、ありませんが……え、好意?」


「わたしも!打算も少しだけあるんですが、スターチス様に憧れていました。……あの、良かったら、本当に良かったらでいいんですが、アナベル様って、お呼びしてもいいですか?」


 打算というのは、ノイエ様の婚約者候補筆頭だからでしょう。では好意?悪役令嬢っぷりが好意を?どの辺に好感度あったのかしら?


「勿論です、けれど……え?わたくし、お二人に何かしてしまいましたっけ?」


 わたくしが悪役令嬢を演じた際、何かしらの恩恵があったとか?……無いな。

 なら何故そんな事に?


「わたくしもアナベル様とお呼びさせてください。淑女の中の淑女であるアナベル様に憧れる生徒は多いのです。お美しく、正しく、公平で、それでいてお優しい。殿下が夢中になるのも分かりますわ!」


 ???一欠片も意味が分かりません。


「わたしは!アナベル様がとても努力家なのも知っています。それでいて、それをひけらかしたり、必要以上に隠したりもなさらない事も。貴族として、『こうあるべき』という事に縛られるのでも無く、でも盲目的でもなくて、きちんとご自分でその意味を考えてらっしゃるところが好きです。こんな方が国を支えてくださるんだって思ったら、本当に嬉しくて……」


 え?ちょっと、何故こんな事に???


「でも近頃は、とっても乙女な一面も伺えて……更にファンになりました!完璧なアナベル様が、可愛らしいなんて!殿下が羨ましいくらいです」


 これは、褒める事でわたくしの羞恥心を焼き殺すプレイなのかな?ってくらいに褒められました。


 とりあえず、多重聖結界グループのお二人が噂に絡んでいない事が確認出来て良かったです。これが演技だったら、ちょっと人間不信になっちゃう……。


 熱くなるお二人に、なんとか釘を刺してこの件は任せて貰えるようになりました。めっちゃ照れたけどね!






誤字報告ありがとうございます!

よくやる間違いでして……本当に助かります。

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