悪役令嬢と定番イベント
定番の物を壊したり隠されたりするイベント編
さてさて、あれから1か月程経ちました。オタサーの姫状態は、隠れたところでする様になったヒロインちゃんと攻略対象者たち。
微妙に噂されているようですが、表立ってのチヤホヤ?が無くなり、学院内のピリピリムードが少しだけ和らいだようでした。
わたくしは、そろそろ小賢しいいじめ、物を隠すとか壊す、のイベントを起こさなければならない季節です。この後に、テストイベント、長期休暇イベント、怪我イベントときて、卒業パーティーイベントに至る訳で。
隠す壊すイベントでどの対象者が一緒に探してくれるか、テストイベントでどのくらいパラメータが上がっているかで、続く長期休暇イベントが変わります。
細かなイベントはありますが、長期休暇イベントでルート確定し、あとはハッピーエンドなのか、バッドエンドその他なのかのステータス上げになります。
ちなみに、聖女覚醒はテストイベントまでのステータス上げ次第なので、ヒロインちゃんには本気で頑張って欲しいところ。
じゃないとどの攻略対象者とも釣り合いが……みたいなエンドになっちゃうので!
と言う事で、物隠し壊しイベントです……が、どれだっけ?第一王子ルートの悪役令嬢は、どれを隠すんだっけ?壊す方だっけ?
適当に靴でいいか、なんて思ってたんですが……、これは……ダメなヤツだろって言うのを発見してしまいました。
因みに靴にしようと思った理由は、靴が無いならお姫様抱っこする〜みたいなスチルがあった気がしたからです★
第一王子ルートだったのか、そもそもこの作品だったのかも覚えてないけどね!
あ、靴は魔術学の時と護身術の授業で履き替えるのです。基本が日本のゲームだから、古典的だよね!
で、見つけてしまったのは、靴に針。これまた古典的!
そして、この針が……恐らく毒有りですわ。ダメでしょ、ヌルゲーにそんなトラップ入れちゃ!後遺症だったり死んだりしたらどうすんのよ!怖いなあ、もう!わたくしのせいにされたら、断罪が変わっちゃうじゃない!
毒の性質で誰が仕掛けたか分からないかな〜と思って、お持ち帰りする事にしました。
うーむ、自分で触るヘマをするフラグが見える……侍女を呼んで持ち帰るか?でもその間にヒロインちゃんが来ちゃったら……
そう考えて、そっと針付きの靴を持った時。
「それは……、貴女の物ではないのでは?」
ヒロインちゃんと王子殿下など御一行ご到着〜!これって現行犯になるのかしら?
わたくしが隠す壊すイベントを発生させる前から、他悪役令嬢さん方や殿下の婚約者候補の皆様がやらかしててくれたようで。彼等は警戒していたのだそう。
「その靴を、どうするつもりですか?」
ヒロインちゃんの靴を取り戻そうと、宰相子息が手を伸ばす。
って、不用意に手を出すなー!特にそこ、針あるから!正体不明の毒ありそうなのに!
「触らないでください!」
ピシャリと伸ばした手を払い落とす。
カンパニュラ侯爵子息の目付きが超怖いー!
「アナベル嬢?どう言うことかな?」
王子殿下の声色が黒いー!まだ半年以上あるのに、悪役令嬢Aはここで退場なんでしょうか!?
「……」
無言で近づく護衛騎士デルフィニウムの圧力も凄いし、何考えてるのかわからん表情の商家子息ムスカリもヤバそう……。
「スターチス公爵令嬢アナベル様、わたし、……わたし!何か理由があるって信じてます!」
わざわざ言うのがあざといわ〜とか思いつつ、ちゃんと好感度上げているみたいなのはいいわね!
「……これは、スターチス公爵家にて、預からせて頂きます」
毒盛られた、なんて普通の感覚なら肝が冷える。ましてや、今まで権力争いに関わる事などなかった男爵庶子では、卒倒してしまうかもしれない。
可能なら、毒の事は伝えず、わたくしのただのいじめとして処理出来れば良いのだけれど。
「わざわざ公爵家で預かる理由、ね」
殿下にはキラキラ感を大切にして欲しいな、黒い感じ止めてと思いつつ、殿下に顔を向ける。
「見つかってしまったなら仕方ありませんわ。後程、代わりの物をお持ちしましょう。では、わたくしはこれにて……」
そそくさと立ち去ろうとしたわたくしを、護衛騎士デルフィニウムが止める。
「目論みが露見なさったなら、無かった事にされるのが得策では?」
デルフィニウムが、わたくしの持つクレマチス男爵令嬢の靴から目を離さない。
「わたくし、逃げも隠れもしませんわ。やった事を無かった事になどしません。お咎めなら後日、正式な文書でお願いしますわ」
靴を持たない方の手でさっと払う。しっしって感じ?我ながらはしたない所作だこと。
「……アナベル、その靴をこちらへ渡しなさい」
ノイエ殿下、敬称〜!わたくしそんな仲でも無ければ、まだ犯罪者じゃないよ〜そちらから見た感じ限りなく黒だけど!
「スターチス公爵令嬢、出来るだけゆっくり、私に渡してください」
殿下とデルフィニウムの言葉に、カンパニュラ侯爵子息が首を傾げる。
……マジか、カンパニュラん家、毒の恐れ無いのか、羨ましい。
殿下と護衛騎士であるデルフィニウムは、さすがに気づいてしまったらしいが、クレマチス男爵令嬢の気持ちを考慮し何も言わない。ただ、寄越せと言うに留まる。
「何をもたついているんです、さっさと取り返せばいいんですよ。元々リリーナ嬢の物なのだから!」
強引に割って入ったカンパニュラに、思わず声が出た。
「下がりなさい!わたくし三度は言いませんわよ!」
びっくりしたわ〜カンパニュラ。毒への警戒が無いなら、勿論毒耐性ナッシングでしょ、場合によって大事なので!本気でやめて。
公爵令嬢が男爵令嬢の靴を持ち他者を威嚇する、なんとも微妙なこの状況に、終止符を打ったのは、大商家ムスカリ家の子息だった。
「……出元、公爵家ならば調べられるのでしょうか?」
「恐らくは。大事にしないためにも、貴方や殿下の手を借りる訳にはいきません」
殿下が毒について調べれば、王族問題になる可能性がある。ムスカリの手を借りればかの家に火の粉が降りかかる可能性もある。毒について、ムスカリ家では直接調べられず更に人を介するからだ。
幸い?というか、我が家には一か月に一度程度の割合で、毒付きの何某かが舞い込む。
有り余る財と、第一王子殿下婚約者筆頭を妬む敵対派閥からである。結構怨み買ってるなあ、我が家。
そんな訳で、少々なら毒耐性もあるのです、わたくし。だからこの場ではわたくしが処理するのが一番なのだ!
「アナベル、だからと言って君が持つ必要は無いだろう。……デルフィニウム、スターチス公爵家に届けてくれ」
言うが早く、デルフィニウムはわたくしから毒針付き靴を奪った。……早技。
こんな事出来るなら、最初からやればいいじゃないって、むくれたら
「聞き分け無いのがいけない。私が言ったんだから、言うことを聞きなさい」
と、めっちゃ亭主関白な台詞を吐かしやがりましたわ、ノイエ殿下は!
「ど、どう言う事なんでしょう?」
おろおろとわたくしと殿下を見比べるクレマチス男爵令嬢。ゴメンね、蔑ろにしたい訳じゃ無いんだ、ヒロインちゃん。
わたくしも殿下も、一応ヒロインちゃんに気を遣っているつもりなんだけど、……分かりづらいよね!何がなんだかわからないよね!
「リリーナ嬢の靴に毒が仕掛けられてたんだって。んで、対処は公爵家でやってくれるって話」
ムスカリー!お前、内容濁してた苦労考えろ!あと、ヒロインの心情もな!デリカシーなさすぎだろ!
真っ青になったヒロインちゃんをカンパニュラが支える。
……え?お前何も活躍してないのに、好感度はお前が上がるんかい?おかしくない?
「スターチス公爵令嬢アナベル様、お気遣い、感謝します」
小さく震えながら、ヒロインちゃんがお礼を言う。……あざといところあるけど、基本的には素直な子だよね!
「身の回りには、十分気を付ける事ですわね」
悪役令嬢っぽい言葉で締めるも、今回のイベントは失敗感があった。本当に反省する。
はー、それにしても、毒か。子供のいじめにしては、やり過ぎだ。
この頃は、クレマチス男爵令嬢の私物が複数人から狙われていた。わたくしだったから良かったものの、一歩間違えばクレマチス男爵令嬢だけで無くいじめ犯にも被害が出るところだった。
これからはいじめの統括?をしなければならないのかしら……と、頭を抱えつつ、現実逃避気味に布団を被るわたくしであった。