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断罪予定の悪役令嬢の行く末  作者: みずのとさやか
断罪予定の悪役令嬢
29/92

第一王子と武術大会準々決勝

引き続きノイエ視点です

 アナベル・スターチス公爵令嬢は、ノイエ・アスター第一王子の婚約者候補である、学院で知らない者はいない。

 だからこそ、華やかな見た目のアナベルに淡い思いを抱いたとしても行動を起こす者など居なかった、今までは。


「万が一俺が優勝したら、優勝褒章はアナベルにお願いするから」


 冗談混じりに言うと、アナベルは苦い顔で笑っていた。あ、揶揄われてると思ったな。


 運良く決勝まで進んだ場合、デルフィニウムは棄権するだろう。手加減するなよ、なんて言ったけれど、デルフィニウムは主に剣を向ける事は試合といえど絶対にない。


 準々決勝までは……と思っていたけれど、欲が出て来た。アナベルは褒章の乙女に選ばれた時、どんな顔をするだろう。


 それでも、自力で準々決勝、準決勝に勝てるかは自信が無くて、冗談混じりにお願いしたのだった。

 『君の為に勝つよ』なんて、言える腕前じゃないんだ私は。デルフィニウムが溜息混じりに肩を竦めていたけれど、宣言しておいて負けたら格好つかないじゃないか!


 だから、カンパニュラから魔術師団長子息ネメシアが褒章の乙女をアナベルにお願いしたと聞いたのは寝耳に水であった。


 何故?アナベルとネメシアに接点はあった?


 ネメシアも側近候補に名前が上がっていて、小さな頃から私との接点はあった。今でこそ浮き名を流す存在だが、幼い頃は人を食ったような性格を隠そうともせずに倦厭されていた。

 私個人としてはそう言う性格自体は嫌いでは無いが、何というか……同族嫌悪?のような感覚に近いものがあった。


 そういえば私が好きなお菓子をネメシアが一人で全部食べてしまったり、気になったおもちゃや本も先に取られてしまったっけ。


 ネメシアの魔術の才能は本物だ。対抗馬の名前を聞く限り、恐らくネメシアが優勝するだろう。そしてネメシアはアナベルを褒章授与の場に招いてしまう。彼女の前にネメシアが跪くのだ。


 とても、嫌な気分だ。


 アナベルがどんな顔で褒章を与えたとしても、嫌がっていても微笑んでいたとしても、ネメシアの表情は想像出来る。楽しそうに笑うだろう、そう言う奴だ。何故なら俺も、楽しそうに笑う筈だから。


 ならせめて、ネメシアと同じく褒章授与の場に立ちたい。先回りされてばかりの幼い頃とは違う。譲りたくないと、初めて思った。


 だから、3回戦を応援に来たアナベルに向かって決意の拳を掲げる。言葉に出来る自信は無いが、君が欲しくて勝ちたいよ。

 アナベルはよく分からないという顔をした後、首を傾げながらも同じように拳を握ってくれた。試合を頑張れ、という意味合いだろう。

 違うと分かっていたけれど、俺の決意の後押しをしてくれた気がした。



 4回戦、5回戦は問題なく勝利した。途中、アナベルを本気で口説こうとして通じなかったり、あまりに通じなくてヘタレてしまったり、それを見たデルフィニウムが笑いを噛み殺せなくて声が出ていたりしたが、なんとか勝利で2日目を終えた。

 なお、帰りの馬車でデルフィニウムが思い出し笑いをしやがって滅茶苦茶イラついたので、怒りの八つ当たりは今日の試合に出来たら良いなと思っている。


 と言う経緯を踏まえて本日は大会3日目だ。例年2日目で試合を終え、3日目は観覧席からの観戦だったのでとても新鮮な気持ちである。

 大会当初は組み合わせの配慮に眉を顰めたが、今となっては非常に助かる。精一杯頑張るとしよう。


「これはこれは、ノイエ殿下。今年は最終日までお残りとは!騎士候補生も形無しですな!」


 声を掛けて来たのは準々決勝の試合相手であるランタナ侯爵家次男グレミーだ。


 昔から身体が大きく腕力で物事を考えるタイプで、私が側近にデルフィニウムを選んだ事を不満に思っている。あと、太鼓持ちなのか貶してきているのか、判断の付きにくい物言いをする。簡単に言うと苦手な奴だ。


「最終学年だからな、胸を借りるつもり……とは言え、随分配慮もされたんだろう。準々決勝では宜しく頼む」


 個人的感情を切り離しにこやかに握手を求める。アナベルが見たら『胡散臭いキラキラ王子スマイル』と評してくれただろう。私としても胡散臭いと思う。


「まさかそんな!殿下の真の実力が発揮されただけの事でしょう。……しかし、殿下は運の悪い事です。騎士として手加減する事は叶いませんので、準々決勝では私が勝たせていただく事になりましょう。何卒、不敬などとは思われませんよう」


 私の手を握り返しながら、仰々しく話出す。

 なかなか無礼だなと思いつつも、これを不敬と取っていたらコイツは何度不敬罪に問われているか分からない。まあ、学院卒業後もこの態度ならば、私が手を降す前に上官から指導が入る事だろうから放っておく。コイツの躾をする義務がないからな。


「ははっ、まさか!胸を借りるつもりで、精一杯挑むとしよう。お手柔らかに頼む」


「ところで、今年もデルフィニウムの組み合わせは配慮されたんですか?全く、いくら殿下の側近候補のためとは言え、箔をつけるために組み合わせを操作したり圧力を掛けるのはいかがな物かと思いますよ?」


 ランタナは、デルフィニウムが側近に選ばれたのが実力では無く、見目が良いからだと思っている。

 デルフィニウムは伯爵家の次男で、侯爵家の自分よりも家格が落ちる。筋肉も腕力も背丈も厚さもランタナの方が上であるが、容姿だけは敵わないと長年思っているようだった。


 剣術の授業を免除されているデルフィニウムの実力を見られるのはこの武術大会でのみ。そして今までランタナはデルフィニウムと対戦した事が無い。当たる前に敗退しているからだ。


 これをランタナは、自分ばかり強者と戦わされ、更に不運が重なっている。デルフィニウムは対戦相手に恵まれていたり、わざと負けて貰ったりしているに違いないと毎年言ってくる。対戦した事が無い故に、デルフィニウムの実力を測る事が出来ないのだ。

 実力者ならば、試合を観れば自分との力の差を測ることが出来るが、……まあ、つまりはそう言うレベルということだ。


「どうだろうな?今年は……組み合わせを見る限りデルフィニウムと当たるには決勝まで進まないとならないな。ランタナの実力が発揮出来る事を願っているよ」


 力任せのランタナの剣技は、剣筋が読み易い。初手を外せば勝機はあるだろうが、もう少し勝率を上げておこうか。


 私は性格悪くランタナを煽った。これで更にわかりやすくなるに違いない。


「そうだ!良い事を思いつきました殿下!私が今年の剣術部門の優勝となりましたら、デルフィニウムに代わり私が殿下の側近となりましょう!学院を卒業してしまえば、御身が更に危険が増す事でしょう。学院内では見目を尊ばれていたのでしょうが、殿下が王太子、後に王となられた時、御身を守るはやはり強者。私ならば必ずお守り出来ます。偽りの強者デルフィニウムでは叶わないかもしれません。私は殿下の為を思って進言しているのです。どうか今日の試合結果を考慮に入れていただきたく!」


 煽り過ぎたのか、ランタナは興奮した面持ちで唾を飛ばしながら話して来た。距離を取りたい、唾のかからない場所まで。


 私が選んだデルフィニウムを過小評価し、自らを過大評価するランタナに多少イラついたけれど、準々決勝の事を考え矛を収める。


「そうだな、今日の試合結果を、充分に考慮しよう」


 にっこり笑うと、ランタナは喜色満面で


「試合では手加減出来なくなってしまいましたな!なあに、私の実力です、殿下に怪我など負わせはしませんよ!はっはっはっ!」


 笑いながら去って行った。


 ランタナを見送っていれば、デルフィニウムがどこからとも無く近寄って来た。

 お前、面倒だから離れていたんだろう?


「スターチス嬢は最前列で観ておいでですが、格好つけようとは思いませんように。ランタナの剣筋は単純ですが、剣を合わせようものなら力技で無理矢理折られますよ」


 アナベルの席を確認して来てくれたようだ、助かる。更に忠告など痛み入るな。


「何ですか、その余計なお世話だ!みたいな顔」


「いや?決勝は大変かもしれんぞ?と思ってな」


「殿下が勝ち上がれば自分は不戦敗なので何の苦労もありませんよ?」


 デルフィニウムは人が悪い顔で笑う。……コイツ、私が準決勝止まりだと予想してやがる。


「何らかの配慮があれば決勝進出でしょうが、……配慮、します?」


 望んでいないと分かっていてこういう事を言う。ホント、コイツはイイ性格だよ。


「まさか。私は死力を尽くすのみだ」


「はは。殿下はホント純情なところがお有りで」


 馬鹿にするみたいに笑うけれど、デルフィニウムが望んだ答えだったのだろう。

 褒章授与の為だけに我を通すような事はしない。


「正々堂々の方が、スターチス嬢に響きますよ」


 デルフィニウムが慰めるみたいに言う。まだ準々決勝すら始まっていないのに、失礼な奴だな。




「準々決勝第二試合、選手前へ」


 試合のコールが始まる。先ずは準々決勝、確実に勝ち上がらなければ話にならない。


「ノイエ・アスター!」


 一際大きな声援が上がる。最前列のアナベルも応援している姿が見えた。


「グレミー・ランタナ!」


 こちらは騎士候補生仲間からか、男子の声援が多く野太い。


「剣を掲げ、騎士道に反しない戦いを!始め!」


 私は王族が好んで使うレイピアをやや小振りに刀身をやや幅広くしたスモールソードを、ランタナは見るからに大きく重そうな長剣ロングソードを手に試合に臨む。


 私のスモールソードは装飾も美しく、魅せる剣技のための剣、ランタナはいかにも無骨で屈強な剣で両者はとても対照的だった。


 試合開始早々、ランタナが大きく剣を振りかぶる。予備動作が大きく、この後の剣の軌道が読み易い。


 剣を受け止めては恐らく力技で折られてしまうだろうが、身体の大きなランタナは長剣のロングソードを軽々と振り回してくるため、半端な距離が一番ダメだ。


 意を決してランタナの懐まで入り、振り下ろしてくる剣に逆らう事なく剣を流す。


 ランタナが剣を振り下ろしきったところを、掬い上げるように、手首を狙った。


 ランタナの動作が大きかったせいか手首に当たる筈の剣先はランタナの右薬指から人差し指に当たり大きく弾いた。


「ぐっ」


 この武術大会は、簡単な胸当てのみの防具しかない。本来の鎧のように指まで覆うものならここ迄のダメージは無かったかもしれないが、模擬刀と言えど剣だ。筋肉を付け辛い指は痛い。


 すかさず二撃目、剣の柄頭で左手目掛け横に薙ぐ。リーチはロングソードより短いが、小振りで軽いのがスモールソードの利点だ。


「痛っ!」


 この武術大会の剣術は、武器を落とす、破壊する、降参させる、場外に出す事で勝負が着く。

 激しく剣を合わせた戦いの方が準々決勝としては相応しいだろうが、ルール上は何の問題もない。


 ランタナが剣を握り直す前に、巻き込むように剣を弾けば、ロングソードはランタナの手から離れた。


「勝負あり!勝者ノイエ・アスター!」


 私の名前がコールされる。


 ランタナはがくりと膝を着いて呆然としていた。長剣で私の剣を破壊して終わり、そういう筋書きだったのだろう。勿論私の筋力や今までの剣技を見て、それで勝てると侮っていたのもあるだろう。


「そんな、まさか。こんな手で、私が」


 わなわなと肩を震わせ、今にも怒り出しそうな雰囲気だ。


「力を過信したな、ランタナ。守られる存在である王族の前に膝を着くお前の試合結果、存分に考慮しよう」


 ランタナの肩にそっと手を置き、歌うように告げた。


 ランタナはがばりと顔を上げ、抗議しようと私を見たが、流石にここで声を上げる程愚かでは無かったようだ。


 実戦ならばランタナの命はなかっただろう。また、私の剣技は王族の型を大きく逸脱していた訳でもない。ルールに則って正々堂々戦った上で、お前が負けたのだと意味を込めて、


「卒業後が楽しみだ」


 私は楽しく笑ったのだが、ランタナにはどう見えたのだろうか。

 口を真一文字に結び、再度肩を落とすのであった。


 ランタナの相手を過小評価、自分を過大評価する癖を治さない限り卒業後の大きな出世は望めないだろう。


 自分で気がつけば良いがな。


 比較的あっさりと準々決勝は勝利し、私は初めて準決勝へと駒を進めるのであった。





ノイエ視点はひとまずここまで。やっと準々決勝に入って武術大会編の終わりが見えてきました……


感想ありがとうございます!生きる糧です。

糧、いつでもお待ちしておりますのでお気軽にお願いします!

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