悪役令嬢は売られた喧嘩は買う主義です
びっくりな話ですが、まだ準々決勝が始まりません
「はあ、ホントびっくりしました。ユーフォルビア殿下から褒章授与をお願いされるなんて思ってもいなかったので……」
わたくしとしてもびっくりしてしまいましたよ!
ユーフォルビア様はこの武術大会イベントのメインキャラだから、何かあるかしら……とは思ってましたが、好感度関係無くお願いがくるなんて思ってもいませんでした。
それにしても、現実だと隣国からの思惑が絡みまくってましたね。甘酸っぱいラブな展開皆無でした。
まあ、ラブ展開だったらもっと泥沼化していたので良かったと言えなくもありませんが。
「体術部門は何とかなりそうだけど、問題は魔術部門ですね」
ムスカリが思い出したように言います。
「ああ、イフェイオン様ですね。うーん、強行指名して来そうですから、他の方が優勝なさると良いですね」
ヤンデレショタは厄介そうだもんなあ。なんてのんびりしていると、
「アナベル様!ご自分の事をお忘れです!」
……ん?わたくし?
「魔術部門の優勝候補筆頭はネメシア様ですよ!」
あー……そんな事もあったわね。本気で忘れておりました。
「でも、アレって冗談だったんじゃないかしら?若しくは選ぶのが面倒で、という事だと思いますし」
ネメシアはとても悪い顔で笑いながら申し込んで来やがりましたので、嫌がらせとしか思えません。
「それもあるかもしれませんが、アナベル様に悪い評判が……」
第一王子の婚約者筆頭でありながら、魔術師団長子息にも跪かせたいっていうアレかしら。現実とはかけ離れてはいますが、わたくし悪役になるのは上等、むしろウェルカムな勢いなので気にしませんけどね!
「その事ですが、ネメシアは毎年違う女子生徒を褒章の乙女に選んでいるようです。なので、今回もそのような流れにしてはいかがでしょう」
数いる女子からたまたま選ばれたよって感じにしては?ということね。カンパニュラ、ナイスアイディア!
「そうね、その流れを作りましょうか」
特別な相手じゃないよ〜ってアピールと、可能ならばわたくしがお願いした訳じゃ無いです〜って言う弁解を込められるとベストなんでしょうが。
「ネメシア侯爵子息が、何か企んでいないといいんですが」
ムスカリ、フラグ立てるの辞めてください!ホント、サラ〜って流せたら最高なんだけどな!変な意味で魔術部門にドキドキさせられます。
「アナベル様、魔術部門が気になるようならそちらから観に行きますか?それとも剣術部門にしましょうか?」
いつの間にか、ヒロインが選択する筈の内容を、ヒロインに悪役令嬢が問われる事になっていました。
何でこんな事に???
「アナベル様と一緒に応援したいので!」
そんな可愛い顔をわたくしに向けて……!このゲームに百合ルートなんて無い筈なのに!
「あ、ありがとうリリーナ。約束していましたし、剣術部門を応援に行きましょうか」
大分遅くなってしまいましたが、予定通り剣術部門の応援に参ります。ノイエ様もデルフィニウムも、試合が終わってないと良いのだけど。
剣術部門会場に到着すると、最前列に不自然に空いたスペースが有りました。
え、何これ。なんかイヤな予感が……
「あ、あそこが空いていますよ!参りましょう」
おい止めろカンパニュラ、そいつは罠だ!不自然過ぎるだろう!?何で君はそんなに素直なの?そういう裏設定なの?
「ジェリド君、ノイエ殿下が席の融通したって聞いてる?」
流石にムスカリは警戒したようです。良かった、わたくしだけが裏を考えてしまった訳じゃないのね。
「いや、ノイエ殿下はそういうのは余り好まないから」
婚約者候補様御一行、みたいな予約席があったら絶対キレていました。こんなに良い席を遅れて座るなんて、めっちゃ心象悪いじゃない。
「どうしますか?今日は大会も大詰めですし混んでますから、大分後方になりますが……」
遅れて来たわたくしが悪いので、後方の席にしようとした時、女子生徒から声をかけられました。
「スターチス公爵令嬢、遅いので心配しましたわ。さあ、席を確保していましたので、こちらへ!」
結構な声量で言われました。うっ!先手を打たれた感バリバリです。
彼女の発言で、この混み合う会場の最前列をわざわざ確保させていた、というように取られる事でしょう。一部女子(ノイエ様ファンとネメシアファン)から目の仇にされてますからね!解せん!
席に到着すると、そこは最前列、ど真ん中の特等席でした。……うわ……、すっごい席。
空いた席の隣には、ベロニカ・スピカータ侯爵令嬢がいらっしゃいました。なるほど、彼女の仕業でしたか。
昨日、わたくしを排除したとノイエ様に遠回しに指摘されてたもんなあ。分かりやすい仕返しですね。
「スターチス公爵令嬢、席お取りしておきましたわ」
あくまでわたくしが取らせていた、というスタンスね。ふーん、そう。
カンパニュラが何か言いそうでしたが、目で制しました。
そっちがその気なら、乗ってやろうじゃない。
「あら、わたくしたちの為にありがとうございます。お願いした訳じゃないけれど、とても助かりますわ」
気持ち高く、芝居がかった無邪気な声で喜んでから、堂々と座ってやりました、特等席。取っててくれるって言うんだから、有り難く頂きましょう?
「なっ、貴女ね、ベロニカ様に席を取らせておいて!」
あ、この茶番続ける感じ?ベロニカ様の取り巻き女子が噛み付いてきました。
そちらが勝手に仕掛けておいてよく言うわ。
「昨日、ノイエ様にも心配されてしまいましたから、気になさったんでしょう?ありがとうございます、よく気が付かれるんですね?」
ノイエ様が指摘なさっていたのも事実ですし、わたくしが席取ってくれとお願いした訳でもありませんが、うーむ、悪役臭い台詞ですね、我ながら。滅茶苦茶上から目線で失礼!
ま、席の献上苦しゅうないって言ったも同然だもんね。お主も悪よのう。
ベロニカ様が持っていた扇子を握りしめておりました。
え?もしかして、わたくしが『いえ、申し訳ないわ』とか言って、席を断るとでもお思いでしたか?
マジか、わたくしそんなにか弱そうかしら?ならごめんなさいね、わたくしそれなりに厚かましいんですわ。覚えておいてくださいね。売られた喧嘩は買いますし!
「うーん、これで無自覚なんだよね?まあ、高位貴族として正しい対応だとは思うけど、割り切れないよね、ここまで」
ムスカリ、聴こえてますよ?
「無自覚な訳じゃないんじゃない?分かった上で、買った喧嘩なのよ。アナベル様意外と負けず嫌いだから」
だからリリーナ、聴こえてますって。
「うん、固辞するより見事な対応でした。流石ノイエ殿下の婚約者候補筆頭ですね」
カンパニュラ、それはちょっと感覚ズレてますわよ。
にっこり笑って三人を見れば、うふふと笑い返されました。……後でなんかする!覚えてやがれですわ!
とりあえず茶番は終了した様なので試合を観戦しましょう。幸い、ノイエ様もデルフィニウムもまだ試合が始まっていなかったようですし!
「王妃が嫌なら早く退けばいいのに」
ベロニカ様がボソリと呟きました。この方、こう言うところが可愛らしいわよね。
「退かせるだけの何かがお有りなら喜んで乗りますわよ?」
わたくしも呟き返すと、ベロニカ様が勢いよく此方を見ました。そんな反応もお可愛いらしい。
ふふ、と笑えば、性格の悪そうなチェシャ猫の完成です。
ベロニカ様が憎々しげにわたくしを睨みました。ここは華麗に『あらじゃあお願いします』くらい言えばいいのに。
「役者が違うかなぁ」
ムスカリ、もう少し小声で言おうね。ベロニカ様にギリギリ聞こえるかもしれませんわ。
幸いにも、ベロニカ様にムスカリの声は聞こえなかった様です。
聞こえてたら、瞬間湯沸かし器みたいに熱くなりそうですもの。
今回で10万字超えました。長くなったなぁ……。
実は10万字超えた文章なんて、論文以来なのでびっくりです。
まだかかりそうですが、最後までお付き合い頂けると嬉しく思います。




