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断罪予定の悪役令嬢の行く末  作者: みずのとさやか
断罪予定の悪役令嬢
25/92

悪役令嬢と認定待ち聖女と隣国の王子

試合はまだ始まりません

 武術大会3日目の朝は薄曇りで、夢見の悪かったわたくしは目覚めに時間がかかりました。

 ゲームのスチルでは青空背景だった気がするので、やはり現実とは違うのね、なんてぼんやり考えていたせいか、いつもより少し遅れて武術会場入り口に到着してしまいました、ごめんなさい。


 さて本日の武術大会は準々決勝、準決勝まで各部門会場で行われ、決勝だけはメイン会場で行われます。メイン会場は所謂コロッセオ風の重厚感ある施設で、重要式典を行う際にも使われる野外会場です。各部門の会場も有りますから、学院の広さと財力が伺えますね!


 ところで、メイン会場を決勝まで使用しないのは、損害を少なくしたいからかしら?なんて、下世話な事を考えてしまいます。

 各部門決勝ともなると派手な争いとなりますが、中でも魔術部門は激しい魔術の応戦となりますからね。


 そういえば、魔術を行使するので、魔獣の心配は無いのかしら?と思いましたが、確か大会中は聖教会が聖結界を張ってくれている筈でした。

 ゲームの都合上リリーナの聖女覚醒が必要なのですが(王族含む高位貴族と自由恋愛出来る件)、以降はあまり魔獣について触れられないというか……エッセンス程度の登場だったと記憶しています。中々のご都合主義ですね!まあ、恋愛に重きを置くヌルゲーでしたし、しょうがないのでしょうが、長期休暇中の魔獣討伐を思い出すと、なんともモヤっとします。


 などと、会場事情やゲーム設定を思い出しながら、落ち合う予定のリリーナを探します。遅れてしまったし、もう移動したかしら?


「スターチス嬢、こちらに」


 声を掛けてくれたのはカンパニュラでした。ノイエ様とデルフィニウムは剣術部門会場へ行ったそうですが、リリーナとムスカリも既に行ったのでしょうか?


「遅れてしまい申し訳ありません。リリーナはもう剣術部門会場に?」


「いえ、リリーナ嬢とムスカリは……」


 チラリと目線を向けた先に二人はいましたが、ユーフォルビア様もいらっしゃいました。まだ試合が残っている選手なのに良いのかしら?


「ユーフォルビア様は既にアップも済ませてあるから、後は会場に走るだけ、とおっしゃってました。いやはや、実力者は流石の余裕です」


 待機訓練場には寄らず直接会場に行き試合をこなされるそうです。準備は整った、という事かしら。それにしては、カンパニュラの言にトゲがあります。


「どうなさったの?」


「ユーフォルビア殿下は、試合前訓練そっちのけでリリーナに褒章の乙女になって欲しいとお願いに来ているんですよ」


 おっと……、まさかそんなに好感度が上がっていたとは知りませんでした。ええ?ユーフォルビア様とリリーナの接点そんなにあった?


「リリーナ嬢は遠慮したいと何度も断っているのですが、どうにもならず……ムスカリが間に入っていますが、断りきれないようです」


 カンパニュラの方が身分的には適任でしょうが、昨日の成立しちゃった感や言葉の上手さを考えればムスカリで正解なのでしょうが、相手は他国の王族です。ムスカリと言えど丸め込むのは難しく、けれどリリーナのために引きたく無いと……。あらら。


 褒章授与を受け入れたとしても、恋愛的に成功するとは限らないのですが、少なくとも優勝者の好意は露呈します。リリーナが今以上に注目される存在となる事は必至。

 相手は他国の王族ですが、聖女の立場なら自由恋愛が出来ます。ユーフォルビア様による求婚宣言とも取る事が出来、リリーナを囲い込もうとしているように見えます。


 昨年迄はどなたに褒章授与をしてもらっていたのかしら……と思い出そうとしますが、前世を思い出す前のわたくし興味が無かったんでしょう、全く思い出せません。


「ユーフォルビア殿下はリリーナに好意があるのでしょうか?」


 リリーナは、ユーフォルビア様に対して友情や尊敬の念はありそうですが、色恋を含んだ眼差しはしていないように思います。

 ではユーフォルビア様は?ミサンガを頼むのだし、誰にも結ばせ無かった左手首にミサンガを結んでいました。恋愛感情と取れなくもありませんが、余りに薄くはないでしょうか。

 その証拠に、長期休暇明け以降行動を共にしているわたくしにユーフォルビア様接近の気配を感じ取る事が出来ませんでした。

 好きな相手なら、始終側に寄って来るのでは?それとももしかして、長期休暇前は押せおせで、休暇明けは引いてみる、所謂『押してダメなら引いてみろ』作戦だとか?

 ユーフォルビア様は脳筋なイメージなので、そんな駆け引きをしているとは思えないのだけど。


「良い友人だ、とは聞いた事があります。まあ、ユーフォルビア殿下は、数度会話が続いた相手を友人の枠に入れてしまう様なのですが」


 カンパニュラの目から見ても、この懇願は急展開な様です。

 ……という事は、何か裏があるのでしょうか。


「わたくしが、間に入ってみます。何とかなるとは思いませんが」


 話し合う三人にの元へ行くと、途方に暮れた顔でリリーナが挨拶をしてきました。


「ユーフォルビア殿下、おはようございます。準々決勝進出おめでとうございます。おはようリリーナ。遅くなってごめんなさいね。ムスカリ様もおはようございます。珍しい三人ですが、何をお話しされてましたの?」


「おはようございますアナベル様。え、ええと、私……」


「私の褒章の乙女になって欲しいとお願いしていたところだ」


 わたくしは棘を纏わせた話し方で、リリーナは戸惑った話し方で、それぞれユーフォルビア様を遠ざけたい意図を持って話していますが、対するユーフォルビア様は至って朗らか。


 うーむ、これ本当に求婚行動かしら?


「ユーフォルビア殿下、わたくしの記憶なのですが……殿下とリリーナはそこまでの仲では無かったように思いましたが……」


 それとも何かしらのフラグを回収して、一方的に恋に落ちたとか?それにしては熱が感じられない。


「そうだな、私とクレマチス男爵令嬢とはそれ程の仲では無い。だから、この機にその様な仲になろうか、とな」


「それは……殿下がリリーナに好意を寄せていると取られてしまいますが……」


 王族であるユーフォルビア様が、わざわざ褒章授与をお願いする事は、自らの心が何処にあるかの意思表示になりかねない。


「良い友人だと思っている。そして、私に見合う相手だとも」


 ユーフォルビア様の言葉にリリーナが息を呑む音が聞こえました。つまりユーフォルビア様は、リリーナとの結婚を視野に入れているからこそのお願いだと告げたのです。


「では、尚更お受けする事は出来ません」


 リリーナが硬い表情で断りました。昨日ムスカリといい感じになったんだもん、そりゃイヤだよね。


「なに、そう重く捉えるな。そうあれば良いと思ってはいるが、褒章の乙女になってくれたからと言って、何かしらの誓約を結ぶ訳では無いのだから」


 あくまで自然な笑顔のユーフォルビア様が分かりません。大会初日にミサンガを渡しに行った時はこんな空気になる気配は無かったのに!


 わたくしの目線に気付いたのか、ユーフォルビア様がわたくしを見ました。


「スターチス公爵令嬢が不審に思うのも無理は無い。ふぅ、やはり私には謀は出来ないようだ」


 少しだけ表情を崩し、溜息を吐きながら教えてくださいました。


「私が、聖女予定者と友人関係にあると本国が知ったからだ」


 隣国は我が国よりも魔術士が少ない。そもそも魔力持ちも少な目なのだそう。そのため魔獣対策は剣術や体術が優れた者が行うそう。ユーフォルビア様が武術に優れているのにも頷けます。

 聖結界を張れる者も我が国に比べ少なく、聖女は隣国に誕生して欲しいと願っていた様です。


 そんな中、リリーナという聖女候補が現れ、実際に聖女結界も発動出来た、という報せが届き、ユーフォルビア様に白羽の矢が立ったそうです。


 聖女結界は強い意志の力によって発動します。内容は聖女によって異なりますが、愛であったケースが多い。聖女は身分に関係なく恋愛をする事が可能な存在。

 そのため隣国は、留学中のユーフォルビア様に囲い込みを要請した様です。

 王子に求められたら飛びつくだろうって?誰しもシンデレラ願望が有ると思わないで欲しいわ。


「リリーナは遠慮したいそうです。まだ心が伴わない状態で囲い込む様な事はなさら無い方が良いのでは無いかしら?」


 ユーフォルビア様が国の要請を受けて接触して来ているという事は、断る事が難しいかもしれません。が、ダメ元でお願いします。


「私、今ユーフォルビア殿下に求婚されましても、お受けする事は出来ません」


 おっと!ハッキリ断ったよリリーナ!もう面倒になってしまったのかしら。


「君に求婚と取れる行動を取ったのは、スターチス公爵令嬢が言う通り君が聖女だからだ。色恋で婚約者を決められる立場に無かったので、友人であるクレマチス嬢がなってくれるのなら、と安易に考えていた。すまないな。だが、国からの要請を安易に断る事も出来んのだ」


 そうだよね、聖女がダメって言ったんで!で諦めるとは思えない。これは……断り切れないのか?


「私をユーフォルビア様の国へ連れて行ったとしても、恐らく聖女結界は発動させられないでしょう。更に、ユーフォルビア殿下は私自身ではなく聖女へ求婚したいと仰いました。私にも心があります、そういう風に言われ喜び勇んでお受けする事は出来ません」


 リリーナの聖女結界は、役に立ちたいという欲求なのだそう。聖女としてしか求められていないユーフォルビア様に願われても、役に立ちたいとは思えないって事でしょうね、分かるわその気持ち。

 だってリリーナ自身を欲する欲が全く感じられないんですもの。まあ、王族としてはこれが正しいのでしょうけれど。


「だからと言って引く事も出来ない。このままでは強制的に指名する事になるだろう。先に謝っておこう」


 うーむ、断りきれないのかしら、やっぱり……。


「ところで、ユーフォルビア殿下ご自身は聖女を求めていらっしゃるの?聖女がいなければ魔獣対策は行えないとお思いで?」


「これは、痛いところを突かれたな。スターチス公爵令嬢が考えるように、私自身は……今までも聖女が居なくとも何とかなって来たのだし、帰国後私自身が魔獣対策の先頭に立つ事でどうにか出来るという自負もある。力を試したい、という欲求も」


 あっ!これ、むしろ自身の力が試せない可能性あるから聖女いらなくね?と思ってるやつだ!

 ユーフォルビア様は本気でリリーナに求婚する気無いわ、本当に。


「にも関わらず、ユーフォルビア殿下はリリーナに求婚とも取れる褒章授与のお願いをしなければならない」


 これ、リリーナにとってもユーフォルビア様自身にとってもメリットが無い!いえ、隣国的にはメリット有りなんだけどさぁ。


「意見を申しても?」


 暫く黙っていたムスカリが発言を求めました。お!何か上手い手が?


「褒章授与の際、前口上を付けては?『聖女であるリリーナに、加護を願って』というように。ユーフォルビア殿下は聖女を求めたという実績が残り、国の要請に逆らってはおりません。しかし、前口上は言葉の受け取り方により、恋愛要素を含まない表明にもなるかと」


 ムスカリの提案は、屁理屈の域とも言えます。実際に聖女を、ユーフォルビア様が求めた事には変わらないからです。

 ですが……。


 しばし沈黙が続きましたが、ユーフォルビア様が決めたようです。


「ムスカリ、提案ありがとう。何処まで通用するかは分からないが、その案が良いだろう。何より私にはこれ以上どうしていいか分からん。クレマチス嬢、どうかこの案で妥協してはくれないか」


 今の時点で、着地点はこれしか思いつかない。本当はもっといい方法があるかもしれませんが、直ぐには無理そうです。三人どころか四人寄ったのに、文殊の知恵は無かった!


「分かりました、これでお受けします。ただ重ねて申しますが、今の気持ちでユーフォルビア殿下と共に国を渡ったとしても、聖女結界は発動しない、と覚えていて頂けると幸いです」


 ユーフォルビア様に気持ちは無い、隣国に行く気も無いと、ハッキリ断りました。カッコいいわねリリーナ。


「圧力を掛けるようなら、スターチス公爵家の総力を持って対応しますので」


 後ろ盾はスターチス公爵家だよ、と示しておきます。聖女個人では有耶無耶にされそうでも、近隣でも名の知れた大家である我が家が相手であり、現在なら第一王子の婚約者候補筆頭です、使える権力は示しておくに越した事はありません。


「ああ、分かった。少々残念な気持ちもあるが、自身の力を試したいのも事実。兄上と違い、私は所詮一介の武人というスタンスだ。謀には向かんな、やはり」


 ユーフォルビア様が頷いてくれて良かったです。ちょいちょい失礼な事挟んでいる我々ですが、それを許容する気概がある方で本当に助かりました。


「それに、クレマチス嬢には心に決めた方がいる様だしな。剣を持たない騎士もいる。これでは私の居場所がない!」


 朗らかに笑い、去って行きました。一応解決かな?安心したわ……。


「アナベル様、ありがとうございました。私だけではどうしていいものか分からず……」


「スターチス嬢、お礼を僕からも。僕の立場では、あそこまでの事は言えませんでした」


 ムスカリは恐らくだいぶ前にこの提案がしたかったのでしょう。けれど提案するには後ろ盾が必要でした。


「いいえ、二人がハッキリと意見を言ってくれたから、わたくしはほんの少し後押ししただけです。それに、二人の気持ちを考えたら協力したくなるというもの!」


 ハーレムルートは、ムスカリと成立しちゃってるみたいだから無理だろうしね!ならば現実を見るわ、ムスカリ×リリーナ推しです、わたくし。


「気持ちって……え、私まだウォンとは……」


 え?まだ付き合って無いの?でもそんなに赤くなって言うって事はほぼほぼ確定じゃない。


 って、ムスカリは微妙にショックな顔しないで。なんなの、ここに来て不器用なの?


「だって、ユーフォルビア殿下も、心に決めた方って仰ってたでしょう?ムスカリ様の事よね」


「あれは、アナベル様の事です!」


 更に顔を赤くして叫ばれました。えー、ムスカリの恋敵はわたくしなの?ムスカリルートでも悪役令嬢だっけ???


「でも、剣を持たない騎士は……ムスカリ様よね?」


 仕方なく仲を取り持つよう誘導すると、二人はお互いを見やり少しだけはにかみました。青春か。甘酸っぱいな!


「まあ、二人の事はこれからと言う事かしら。さて、カンパニュラ様も心配していますわ、説明してあげましょう」


 やきもきした表情で此方を見ていたカンパニュラに手を振り、合流しました。ぼっちにしてごめんね。



 これから試合を観る訳ですが……準々決勝が始まる前から既に疲れたな、と思ってしまったわたくしは、自身も褒章授与に関わるかもしれない事をすっかり忘れていたのでした。





感想ありがとうございます!

長くなってくると、これ面白い?大丈夫?と不安な時もあるので本当に嬉しいです。

感想は心の糧です〜!

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