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断罪予定の悪役令嬢の行く末  作者: みずのとさやか
断罪予定の悪役令嬢
21/92

悪役令嬢と7人目の攻略対象

 少女と見紛う容姿に身長のカトル・イフェイオン、辺境伯子息。

 前世のわたくしはショタ属性が無かったのですっかり忘れていましたが、彼が7人目の攻略対象者です。

 イフェイオンは3学年下の生徒ですが、魔獣討伐や国境警備を行う辺境伯家の方針で幼い頃から文武に長ける設定だったはずです。


「あらら、イフェイオン君が次の相手か。これは万策尽きたかな?」


 ムスカリも納得の強さなようです。あんなに可愛らしいのに実力派とは、なかなかのギャップです。


「リリーナは、イフェイオン辺境伯子息とは面識あるの?わたくしお名前しか存じてなくて」


 貴族として名前は知っていますが、イフェイオンのことは本当に前世知識すら無くて……ゴメンな!って気持ちでいっぱいです。ハーレムルート推奨しているのに、こんな事ではダメですね。


「カトル君?あ、カトル君ってイフェイオン辺境伯子息だったんですね。ああ……、私またしてもやらかしてました、アナベル様」


 お、リリーナはちゃんと接触していた様です、流石ヒロインちゃん!


「どうしたの?リリーナ」


 接触していたのは嬉しいのですが、リリーナが幾分しょんぼりしているのが気になります。


「長期休暇前に、私ホント知らなくて。……私の呼び方でお分かりの通り、馴れ馴れしくしてしまっていて……」


 わたくしが以前注意した事を、今は守ろうとしてくれているのね。不覚にも、きゅん!としてしまいました。涙目うるうるで、見上げてくるんだもん!凄く破壊力あって、可愛いがすぎる!


「イフェイオン様は許可なさっているんでしょう?なら大丈夫な筈よ。カンパニュラ様だって許してくださっているでしょう?」


 本当はもう少し苦言を呈すべきなのでしょうが、うわーん、この可愛すぎるリリーナを叱る事が出来ません。駄目主人でごめんなさい。


「リリーナ嬢。イフェイオンも私のように、名前で呼ばれる事を嬉しく思っている筈ですよ」


 カンパニュラによる追加フォロー!ありがとう助かります。

 まだ少ししょんぼりするリリーナでしたが、カンパニュラの言葉に少し持ち直したようでした。


「あら、そう言えば……。リリーナはムスカリ様の事、お名前で呼ばないんですね」


 ふとした疑問を口にしました。あんなに仲が良いのに、不思議だなぁと。

 ムスカリが名前呼びを拒否しているとは思えないし。


「……え!え、あの、えと、その……」

「リリーナ嬢は貴族ですから、仲良くさせて頂いていますが、平民の僕とはきちんと一線を引いてくださっているのかもしれませんね」


 リリーナが言葉に詰まっていると、ムスカリがサラリとフォローしました。

 フォローの内容は、少しだけ苦くて、何故わたくしは考え無しにこんな事を聞いてしまったのか、後悔しました。


「あ、あの」


 何か言わないと。リリーナとムスカリ二人の楽しげな空気がわたくしのせいで壊れてしまう。


「ムスカリ様、私、意識しちゃって、名前をお呼びする事が出来なかったんですが、あの、その……!」


 意を決したように、リリーナがお願いしようとしました。


「意地悪してゴメンね。リリーナ嬢、良かったら僕のことはウォンって呼んで欲しい。敬称はいらないよ、僕は平民だからね!」


 ムスカリは、ウォンリード・ムスカリというフルネームだと今更思い出しました。重ねてごめんよ!

 ところでムスカリはなかなか策士、計算高いね。この流れでいけば……


「ふふ、じゃあ私の事もリリーナって呼んでね。つい最近まで平民だったから、嬢って敬称がくすぐったいのよ」


「うん、分かったリリーナ」


 すっごい自然に名前を敬称なしで呼び合う仲になりました。もうね、ムスカリルートなんじゃないかな。


「……私が次負けるのは決定した。だがそれは実力で負けるんじゃない、傷心でだ!」


 カンパニュラも、なんかごめん!このくだり、成立しちゃった感あるもんね。カンパニュラの事はサラッと呼び捨てなのに、ムスカリの事は呼べないなんて。


「え、えーと」


 なんて声掛ければいいのか分かりません。どうしよう、またしてもわたくしのせいで。


「ははは、ジェリド君ドンマイ!」


 それはもう明るくムスカリが笑いました。


「お前が言うなあ!」


 これはキレ芸で誤魔化すしかないよね、空気を考えると。カンパニュラはいい奴だなあ、ホント。


「わたくしカンパニュラ様の事、誤解していました。カンパニュラ様はとっても気遣いの出来る優しい方ですね」


「スターチス嬢……」


「ほんと、誰かさんとは大違いです!」


 ほんわりしたカンパニュラでしたが、続けたわたくしの言葉にビシリと固まりました。……何で?


「ジェリド、ノイエ様の事忘れては駄目よ」


 先程カンパニュラを地の底に落としたリリーナが謎の追い討ちを掛けました。


「肝に銘じる」


 カンパニュラは神妙な顔で頷くのでした。……何なのこの流れ?


 などと話していたら、試合の終わったイフェイオンが近付いて来ました。


「リリーナさん!もしかしてボクの試合見ててくれましたか!」


 駆け寄って来るイフェイオンは、これまためっちゃ可愛いのでリリーナと二人で戯れ合う姿は可愛いが過ぎるというか、百合感があると言うか。


 でも、この話し方……変にあざとく感じます。天使な外見通りで居て欲しいと、傲慢な考えが頭を過ぎるけど、害が無いなら気にしない方向を心に決めました。わたくしはこれから空気になります。


「カトル君!……あ、ごめんなさい、私色々知らなくて。とても失礼な呼び方をしてしまって」


「そんな!リリーナさんにカトル君って呼ばれるの、すっごく好きなんです。だから今も呼んでくれて嬉しいです!」


 イフェイオン、ビジュアル的にその笑顔天使過ぎない?え、わたくし目覚めそうなんですけど……!


「ありがとうございます、カトル君。これからも失礼な事をしてしまうかもしれないけど、直していくから!だから名前だけ、カトル君って呼ばせて欲しいな」


 えっ!リリーナ、その顔めっちゃヒロイン味あるぅ!前世だったらスクショ撮ってる、可愛いのインフレが起こったの???


「勿論です!……ところで、誰がリリーナさんにそんな余計なこと……いえ、注意をしたんですか?」


 あれ?やっぱりイフェイオンは裏有る系でしょうか?ブラックな何かが漏れ出そうです。

 うーむ、ここはわたくしが名乗り出るべき?悪役令嬢らしく。でもなぁ、この場では空気になっていた方が楽なのよね。


「ご指摘は正しいのですから、誰が、など関係ありません。でも、私が尊敬して止まない方……とだけ教えますね。だからカトル君は、その方に意地悪なんてしないでくださいね」


 え、わたくしの事よね?合ってる?リリーナは尊敬してくれているの?しかもイフェイオンから何かされるかもしれない事まで牽制を?

 リリーナ、可愛いだけでなくイケメン!攻略対象だったんじゃない?今日二つ目の扉開きそうよ!


 つい嬉しくなってリリーナを見つめてしまいました。


 しかしそれが決め手となりまして、絶対にバレたようです。


「ふーん」


 あ、イフェイオンの尻尾を踏んだ気がします。彼が虎じゃない事を願うばかりです。外見子猫だから、そんな感じでお願いしたい。


「ところでカトル君、実は私、さっきの試合見れてないの、ごめんなさい。でも、すぐ終わったみたいですね。凄いわ!」


 リリーナが良さであり欠点でもある素直さを発揮しますが……全部伝えるのがいいとも限らないよ!見てなかったけど凄いって、場合によっては地雷になるから気をつけようね。


「そうなんですか、残念だなぁ。じゃあ次の試合はボクを応援してくださいね!」


 カンパニュラが微妙な顔をする。対戦相手だもんなあ。

 イフェイオンが次の試合相手を知っているか否かで、彼の性格が分かるんだけど……。


「イフェイオン君の次の試合はジェリドと対戦だから、二人の事応援するね!どちらも実力を発揮出来るよう願ってるね!」


 リリーナは天然なの?作りなの?って微妙なラインでイフェイオンに笑いかけました。さあ、どう反応するかしら?


「カンパニュラ侯爵子息と!そうか……、では先輩、次の試合は死力を尽くしましょうね!」


 ふわふわ天使スマイルでカンパニュラに握手を求めるイフェイオン。カンパニュラは絆される様に、


「お互い頑張ろうな」


 と、笑っていました。実力的にはカンパニュラ敗色濃厚なのに、器デカいわね。あと、ころりと絆されちゃってチョロ過ぎませんか?まあそこがカンパニュラがいい奴な所以ですけど。


 イフェイオンの態度はあまりに隙が無さ過ぎて、わたくし的にはクロです。あんなに天使スマイルだけどね!本物の天使は地上に舞い降りないのかな?


 とりあえず、今後はイフェイオンを警戒する必要があるかもしれませ……ん?あれ?イフェイオンがわたくしを恨めしく思って何か仕掛けられたら、もしかして断罪がありそう?なのかしら。

 それとも、ルートとは全く違うから、ヌルゲー断罪とは真逆の生命の危機とかが発生するのかしら?もう本当によく分からない。


 本当は、ゲームの事なんか忘れてリリーナの恋を応援したり、ランチメンバーと友達になったりしたいなって、思わなくは有りません。

 けど、そう思おうとする度に、攻略対象が絶妙なタイミングでスチルで見たわ!的な行動や、何となくゲームに沿った内容が発生するから、どうしても忘れられないのです。


 自分の思考にぐるぐるとハマってしまい、わたくしは言葉を発する事が出来ませんでした。


「じゃあ、私たちは剣術部門の応援に行くね。カトル君はどうするの?」


「ボクは、ネメシアさんの試合を観てようかと思います」


 ニコニコ言ってるけど、ネメシアを敵情視察するってことよね?つまり次は余裕で勝てるって事かな?うーむ、やはりクロだなあ。


「分かった!じゃあ次の試合でね」


 イフェイオンと別れ、剣術部門の試合会場に向かう事になりました。


「ムスカリはイフェイオンと全く話さなかったな。いいのか?繋がり欲しいって言ってたじゃないか」


 カンパニュラが気遣いながらムスカリに話しかけます。もうね、個人だったらカンパニュラを推せるレベルのいい奴だよ、本当に。


「あの感じ、僕は何もしない、が正解かなぁって。彼、多分見た目と違うから」


 ムスカリによる商人の勘発動!そして恐らく正解でしょう。

 イフェイオンはリリーナに興味が合って、そしてリリーナに影響を及ぼす人を排除したいみたい。

 リリーナがイジメられてるって思ってのあの雰囲気かと思ったけれど、わたくしだけでなく、カンパニュラやムスカリも、排除したそうな雰囲気でした。


 えー、ショタにヤンデレ属性とか、設定盛り過ぎじゃない?どちらも遠慮したい属性なんだけどなあ。


「そうか?まあ、ムスカリがいいなら私はいいのだが。さ、殿下の試合が近づいている。急ごうか」


 7人目の攻略対象は、不穏な空気の種を植え付けていったのでした。






ムスカリの名前が頑なに出なかったのは、考えていなかったからです、ゴメンなムスカリ。

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