悪役令嬢とヒロインちゃんと攻略対象
王太子最有力な第一王子ノイエ様とわたくしは、乙女ゲームのベタな設定通り、貴族子女が通う王立学院に通う17歳。あと一年で学院を卒業します。
卒業後、正式な婚約者を選定し王太子を擁立してゲームはエンディングを迎える事に。
メインの第一王子ルートならば婚約式と立太子のパレードでハッピーエンドに、騎士ルートならば王太子になられた王子を共に御守りして行こうと共に手を取り合うエンドに、宰相子息ルートならば王太子を支える子息に寄り添いながら子息邸で待つ感じ……だから、一番早く結婚するのかな?
こんな感じで、全部で8人?だっけ?の攻略対象キャラがいる筈だけど、わたくしの出番は第一王子が関わるルートでのみ!
正直、本気で王妃になんてなりたくないので、ヒロインちゃんには是非ぜひ!第一王子ルートかハーレムルートをお選び頂きたい所存。
そのためには……、ヒロインちゃんに軽くちょっかいを掛けた上でノイエ王子殿下の興味を誘い、マジギレされない程度にいじめ?を行えばいいはず。
うーむ、加減が難しそう。色恋に疎い生活だった前世を考えても、わたくしが策を講じて何とかなる相手なのかしらね……と、遠い目をしてしまう。
でもまあ、ヒロインちゃんって多分あの可憐で可愛いアグレッシブなあの子……よね?男爵令嬢で庶子だそうから、確定でいいかしら?デフォルトの名前が無いゲームだったからイマイチ自信が無いけど、もう少しすると聖なる力に目覚めるから確かめられる……筈!
好感度が上がらないと目覚めイベントが起こらないから、ちょっとドキドキなんだけど、そこはわたくしがなんとか……導くという事で。
そんな事を考えながら、ヒロインちゃん(多分)ことリリーナ・クレマチス男爵令嬢に話しかける。
「異性に誤解される行動は、慎んだ方が良いのではなくて?クレマチス男爵令嬢?」
学生が大勢いるランチタイムのカフェテリアで、ノイエ王子殿下、護衛騎士のデリフィニウム、宰相子息カンパニュラ(侯爵子息ね!)、裕福な商家の息子ムスカリと、楽しげに会話を楽しむリリーナ(ヒロイン?)・クレマチス男爵令嬢。いいぞ、その調子よ!
婚約者持ち、婚約者候補持ちを含む複数の男性が、一人の令嬢を取り囲む様は……前世知識があっても、あまり気持ちの良いものじゃない。
さり気なくボディータッチも忘れないけれど、流行りには疎くてちょっと純粋感を出してるところが、……オタサーの姫感あって笑えた。
「アナベル様……!ごめんなさい、わたしっ」
「貴女に名前を呼ぶ許しを与えたかしら?それに、使う言葉にはお気をつけくださいませ。ごめんなさい、ではなく、申し訳ございません、ではなくて?」
男爵家と公爵家には、明確な家格差がある。下位貴族と、王族の親戚なのだ。
「アナベル嬢、私が許しているんだ、良いだろう?」
よし、王子はヒロインを擁護したな!好感度も上がってそうで何より。
「殿下がお許しになったのは、殿下の名を呼ぶ事。わたくしの名を呼ぶ許可は、わたくしが出すものですわ。……それとも、わたくしは既に殿下の所有物だとでも?」
わたくしはまだ婚約者候補でしか無いのだ。そもそも、婚約者だったり婚姻契約を交わしていたからと言って、勝手に許可を出すのはおかしいだろうに。
「スターチス公爵令嬢、今のはいささか言葉が過ぎるのではないか?殿下に対し」
おっとー、宰相子息が絡んでくるか。こちらの好感度も上がり気味なのかしら。えーと、ハーレムルートなの?それともまだ迷っているのかしら?
「いいの、ジェリド。わたしが弁えて無かったんだわ。申し訳ありません、スターチス公爵令嬢」
カンパニュラ侯爵子息はジェリド君でしたか……、お名前忘れてました。もう名前の呼び捨てかあ……、宰相子息ルートに入り掛けてるかも。
「わたくしたちは学院で、淑女としての何たるかを、社交とは何かも学びます。学生の身なればこそ許される事が、来年、卒業と同時に許されない醜聞へと繋がり兼ねません。わたくしたちは既に最終学年です。クレマチス男爵令嬢が、今年からの編入生だとは存じております。まだ貴族社会に馴染んでいないと言う事も。けれど、卒業まではあと一年を切っているという事を、よくよくご理解いただけますよう」
「わざわざ彼女の出自に関わる事まで、ご忠告ありがとう、アナベル嬢。だが、それはこんな大勢の前で言うべき事だったかな?」
よし!反撃に出たのは殿下の方だわ!いい感じですよ、殿下。
……と、なんだっけ?ああ、めっちゃ正論だけど、なんでここで言ったの?って話よね。
「……犬の躾と一緒です。その時その場で言わなければ、分からないのでしょう?」
悪役令嬢的台詞、決まったー!!演れば出来るな、わたくし!元の台詞全くわからんから適当だったけど!
正直、不敬だぞと咎められる可能性もあるんだけど……、筋はこちらが通っている、筈。気を大きく、頑張ろうぜ悪役令嬢Aとして!
「犬の躾と同じとは……なかなかに手厳しい。が、それ故に的を射ているな」
「殿下、婚約者候補でしかない立場からの忠告を聞き入れる必要など……」
「スターチス公爵令嬢アナベル様。誠に申し訳ございません。重ねて、ご忠告ありがとうございます」
第一王子殿下は非を認め、宰相子息がつっかかり、ヒロインちゃんは謝った……と。
イベントとしては、まあまあかな。もう少しヒロインちゃんとの好感度が上がってくれたらいいんだけど、卒業までおおよそ10ヶ月、この時期なら妥当なラインかしら。
宰相子息の好感度を下げさせるか、全体的に上げるか……、難易度はどっちが高いかなあ。
「ご理解いただけたなら幸いですわ、クレマチス男爵令嬢。殿下も、わたくしのようなものからの言に、耳を傾けてくださりありがとうございます。カンパニュラ侯爵子息、あらぬ噂で、どなたが傷つく事になるか、よくお考えあそばせ。……では、わたくしはこれで」
嫌味イベントを無事こなした事で安心し切ったわたくしは、悪役令嬢特有の行動、押せ押せな好意の押し売りをすっかり忘れていたのでした。
学生寮の自室(広くて快適!)に戻ってからその事に気付き、先程までの演じ切った感が台無しになりました。
……が、わたくしに色恋アピールは無謀だと考え直し、それらは他の婚約者候補方にお任せする事にしてとりあえず寝る事にしました。睡眠大事!