悪役令嬢と残りのミサンガ
リリーナがミサンガを渡しに行くのに、ほぼ喋らない回
武術大会が始まる前から心が騒つくというアクシデントがありましたが、そうこうしている間に大会が始まりました。
攻略対象の方々は、まだ試合はない様子です。なのでリリーナがユーフォルビア様とネメシアにミサンガを渡しに行くそうで、着いていく運びになりました。
本当はムスカリが一緒に行ってくれる筈だったのですが、第4試合が出番だそうで早めに試合待機に入りました。
ネメシアはまだ女子数人に囲まれていて、この中で渡す気力無いわぁ……とわたくしは思ったのですが、リリーナは何度も様子を伺うのが面倒になったのか、突撃しました。
リリーナって突然男らしいわよね。
「ネメシア様、たくさん戴いているようなので今更私のミサンガは要らないでしょうけど、お約束しましたので参りました」
な、なかなかに辛辣というか……。案の定周りの女子が睨みつけてきます。
「リリーナ嬢!ホントに作って来てくれたのかい、嬉しいな!じゃ、着けてつけて!」
魔術師団長子息なネメシアは、チャラ系担当なせいかノリが軽いのです。
なお各攻略対象ですが、キラキラ王子時々腹黒がノイエ様、眼鏡担当がカンパニュラ、騎士で真面目担当がデルフィニウム、気さくな友人からの〜担当がムスカリ、ユーフォルビア様は熱血筋力担当、あとショタ担当と大人担当の先生で全8人です。
手首だけでなく腕にまでたくさんのミサンガが結ばれており、着けてと言われてもどこに結べば良いのか迷います。
「うーん、もう腕は無理かな?じゃあさ……」
そう言って足首を見せるネメシアの笑顔に軽く引きます。
「足首ならまだ誰も結んでないよ!リリーナ嬢の特等席だ!」
マジで言ってる?何なのこの方。
「クレマチス男爵令嬢だけ特別なんてズルいですわ!」
「わたしも特別な場所が良いですぅ!」
取り巻きの女子たちよ、本当にそのチャラ男で良いのかい?
リリーナが困惑しているのが分かります。足首に結ぶってことはさ……
「お話し中失礼、ネメシア侯爵子息。貴方はリリーナに、貴方の足元に跪いて足首に結べ、そうおっしゃいましたの?」
ムカついてしまったので、元からよくない目付きを最大限吊り上げて、怒りを込めた声色で話しかけてました。
こんな関わり方、嫌だったけど黙って要られません。
「これはこれは麗しのスターチス公爵令嬢。でもね、あんまり深く考えないで♪難しい事言わないで。今日は武術大会、お祭りだよ〜」
諫め方もなかなかに軽い。
取り巻き女子たちも『堅い』だの『真面目』だの囁きあっております。
ふーん、そういうスタンスね。
「ネメシア様は、女性を跪かせるのがご趣味と言う訳ね。そちらのご令嬢方は喜んで膝を折るのでしょうが、わたくしには全く理解出来ませんわ。跪かれて求婚されるならまだしも、未婚の女性自ら服従を示すなんて……ねえ?」
久々に悪役令嬢モードを発動させて嫌味を言ってみましたが、うーむ切れ味悪いかしら?
ネメシアと取り巻き女子の顔色を伺うと、ネメシアは平然としていて、女子は真っ赤になる方と青くなる方半々といったところ。ご自分の言動と行動、よくお考えくださいっていうのよ!
「何なに?性癖の話?まあ、従順な女の子は好きだよ♪……でもさ、何でわざわざスターチス嬢に注意されなくちゃならない訳?言われた本人でもない癖に」
うーむ、微妙にイラつかれたかしら?攻略対象者と対立は……ん?いいのか?でもリリーナがなあ。
「クレマチス男爵令嬢リリーナは、学院卒業後わたくしの庇護下に入ります。正当な女性の扱いをなさらない方に、その様な態度を取られては、ひいてはわたくしの責任となりますの、お分かり?」
ここで明かすのは、ハーレムルート的にいかがかと思いますが、リリーナがネメシアに跪くところを見たくなかったというのが本音です。
リリーナは、もっと!可憐に咲く花で!こんなところで服従を示す必要はない存在なのよ!
「あらら、ご主人様でしたか。そりゃ失敬」
肩をすくめて戯けてみせる。まあね、恐らく本気じゃなかったものね。その分タチが悪いけれど。だからこそ引くのも早い。
「お分かりいただければ結構」
険悪になりたい訳でもないので、そちらが引くのならこちらも乗りましょう。
「ネメシア様、どうぞ」
冷たい表情でミサンガを渡すリリーナ。
うーむ、こんなに冷えた関係はわたくしの望むところじゃないんだけどな。
差し出したリリーナの手をそっと握り、ネメシアが口をパクパクさせていた。
恐らく、ゴメンね、とかそんなところでしょう。
「ん、ありがとね。スターチス嬢も、ご忠告どうも」
あくまで軽い雰囲気で言葉をかけるネメシアと、侍る女子の雰囲気は対照的でした。
あまりに早く引くところを見ると、もしかするとリリーナに関わって欲しくない女子が侍っていたり、遠回しに何か伝えたかったりするのかしら?
「わたくしたちは、これで」
彼等から距離を置くとリリーナが、
「アナベル様は、ご自分の事で無ければ鋭いし気が付けるんですねえ」
と、しみじみ言いました。
リリーナ、とても失礼ですよ!
ネメシアとは散々な感じでしたが、気を取り直して次はユーフォルビア様です。
ユーフォルビア様は隣国の第二王子殿下なのですが、剣ではなく体術が得意です。幼い頃、護身術を教えられたところハマってしまい、身体も鍛えるようになったのだとか。その後王族らしく剣術を習ったものの気が乗らず、剣は騎士に任せ、自らは護身術を極めるのが良い!と信じて止まないそうです。
ユーフォルビア様が言う護身術は、既にその域では無いと思うのですがね!
ユーフォルビア様は体術部門の二回戦から出場のシード選手なので、まだ自由にしてらっしゃる様子。
どちらにいらっしゃるか考えていたら、
「恐らく待機訓練場にいるのではないでしょうか?」
試合前のウォームアップをしたり、軽い手合わせが出来る試合会場隣にある場所です。わたくしより面識があるせいか(わたくしはゲーム知識しか無くてごめん!)、リリーナがアタリをつけてくれました。
「お!クレマチス嬢!約束守ってくれたのか!」
待機訓練場に入ってすぐ、立派な体格で短髪の爽やかな笑顔に出迎えららました。ネメシア案件でささくれ立った気持ちが浄化される気分です。
「ピンクか!これは意外な色合わせだな。だが、クレマチス嬢を感じさせる色だ、有り難く頂戴する!」
びかー!って感じの笑顔が眩しいです。
ミサンガの返答としては、1位ムスカリ、2位ユーフォルビア様、3位カンパニュラ、ブッチギリの最下位ネメシアですね。
「あ、でも、あまり上手に出来なくて……ユーフォルビア殿下の手首に拙い物をなんて、恐れ多くて」
リリーナが恐る恐るといった様子で言うものの、当のユーフォルビア様はどこ吹く風。
「着けたいものは私が決める。心を込めて作ったものを、そう卑下するものでは無いぞ」
リリーナの頭をポンポンとなで、ニッカリと笑う。
お、漢前です、殿下ぁぁぁぁぁ!
「左手首にお願いしたい。結んで貰っても良いだろうか?」
すっと出された左手首は何も着いていませんでした。右は結構いっぱいみたいだけど。
「私は今は両利きだが、元は左が利き手なんだ。だからつい、利き手を開ける癖がついてしまった。だが、信頼するクレマチス嬢のミサンガは、左に巻きたいと思ってな」
おっと!突然のラブイベントですか!あ、そうだった、この武術大会イベントのメインキャラでしたねユーフォルビア様。
そりゃ手首を差し出したユーフォルビア様に既視感がある筈ですよ。
「は、はいっ!」
照れながらミサンガを結ぶリリーナ、天使かな?
性格的なものを考えると、リリーナにはムスカリかユーフォルビア様ですね。……わたくしの王妃回避には全く関係ないルートですが!でも、リリーナが幸せなら……、まだ踏ん切りつかないけど!
そんなこんなでミサンガ渡しイベントは終了しました。
ハーレムルート無理じゃない?とか思いながらも、次回武術大会スタートです。
おかしな、全体で1万字位の短編予定だったのに終わりが見えない……




