悪役令嬢の後半戦スタート
今回からアナベル視点に戻ります。
後半戦スタート回です
失敗したのだか成功したのだかわからない長期休暇が終わりまして、また学院生活に戻りました。ご機嫌よう皆様、なんだか久々な気がしますね。
リリーナがわたくしの近くにいるせいか、攻略対象の皆様とも接点を持つ事となり、とても解せない気分です。
特にノイエ様。
ゲームでも悪役令嬢Aは第一王子をノイエ様と呼んでいました。確か勝手に呼んだ……的な誹りを断罪で取り巻きの誰かが言っていたような。
しかし現状では、本人から名前呼びを強要されており、あれ?断罪されないんじゃね?王妃ルート乗っちゃうんじゃね?という危険アラートが鳴り続けております。
ですが、ヒロインであるリリーナはノイエ様と親しげです。わたくしの心情的に、モヤっとするところもありますがそれには目を瞑り、卒業までの後半戦は、ハーレムルートを主軸にノイエ様ルートも視野に入れてリリーナを推していこうと思います。
学院生活後半戦は、武術大会イベントから始まります。所謂体育祭イベントですね!
一対一で対戦し優勝者を決めるもので、体術部門、剣術部門、魔術部門があります。基本的に男子生徒は全員参加、女子は自由参加。イベントでは選択肢に、どの部門を応援にしに行く?があった筈です。
女子生徒は基本的に応援要員で、応援したい各部門の選手に手作りのミサンガみたいなものを贈ります。怪我なく無事に大会を終えられますように、という御守りなのだそう。
優勝者は、セレモニーで優勝勲章みたいなものを貰うのですが、誰に褒章を貰うか選ぶ事が出来ます。
……どちらも好意を表す大チャンスですね!
ちなみに女子は、ミサンガを複数の方に贈るのも有りです。弟と婚約者とか、友達全員に、とかです。作るのは大変ですので、手先の器用な平民の子が小銭を稼いでいたりします。
対して男子の褒章授与者は一人のみ。まるで公開告白ですが、実際にお付き合いに発展するケースもあるそうです。あと、婚約者を選ぶというのも多々で、とても無難な上、今後の関係性も伺えるとあって、婚約者持ちの方が頑張る大会のようでした。
公開告白、キツいですもんね、思春期男子には。まあ、そんな事も言っていられない貴族なのですが。
第一王子ノイエ様が婚約者を決定していないせいか、現在の学院で婚約者持ちは意外と少ないのです。
学院生活後半戦は、政略含めた婚活が激化する事必死なので、心してリリーナを推して行くことにします!
なお、攻略対象の方で各部門優勝候補がおります。ノイエ様の護衛騎士兼学生のデルフィニウムが剣術部門で、魔術部門では魔術師団長御子息ネメシア、体術部門は隣国の第二王子ユーフォルビア様です。
はい、新キャラ登場です!
……いえ、既にリリーナとは出会っている筈なのです、出会っていてくれないとハーレムルートは無理なので出会ってくれていると信じております。
が、わたくしはネメシアとユーフォルビア様がリリーナと絡んでいるのを見かけた事がありません。由々しき事態です。
これを機に、是非距離感を詰めて頂きたいですね!本当に。
商家のムスカリ様と宰相子息のカンパニュラは今回のイベント、とても不利ですが……ムスカリは分かりませんがカンパニュラはほぼ落ちているので好感度は大丈夫でしょう。
リリーナが唯一名前呼び捨て(ジェリド呼び!)してますしね。むしろ好感度高過ぎるのが不味いくらいです。
「リリーナは、ミサンガ作りますの?」
そんな訳で、ミサンガ手作り大作戦を敢行すべくの問いかけです。
「そうですね、何人かに作ってくれと言われていて……。下手なので困っていたのです」
流石リリーナ、既に求められていましたか。ただ、人がたくさんいるカフェテリアでその発言は、ちょっとばかり反感買うから控えようね!うーむ、やはりこれらのオタサーの姫感は天然なのかしらね。
「アナベルも作るの?」
当然のように近くの席に座っていた攻略対象メンズの一人、ノイエ様が聞いてきました。貴方が聞くべきはリリーナでは?と思いましたが、既にお願い済みなのかな……とぼんやり思いました。
「わたくしは……どうでしょう?ただ、リリーナが苦手と言うお話でしたので、指導のため試作するかもしれませんね」
わたくしにミサンガを作ってあげたい方も、作って欲しいと願う方もおりませんでした。今年は最終学年ですが、学院生活で一度も。
……わたくしってモテないんだな、と遠い目をしたのは一年時の事です。悪役令嬢だからだと思いたい、今後の生活のためにも。
「ふ、ふーん」
ノイエ様が妙にそわそわした様子で、デルフィニウムがその様子を無の顔で見つめていました。
「アナベル様は、得意なんですか?」
キラキラした目でわたくしを見るリリーナ、ホント美少女です。
「裁縫は好きなので、おそらくお教え出来るかと思いますわ」
にっこり笑うと、リリーナが子犬のように縋り付いてきました。可愛いけれど、それは殿方たちにお願いします、悪役令嬢でなく!
「アナベル様だいすき!お願いします、教えてください!」
攻略対象たちより先にだいすきを頂いてしまいました、ごめんね皆様。
「アナベルが手先が器用とは……知らなかったな」
意地悪く笑いながら話しかけてくるノイエ様は、恐らく長期休暇中のわたくしの歌を思い出していらっしゃるようで。
「歌と手先だと、随分違うんだね?」
めっちゃ揶揄ってきます、なんなんですか。
「歌と手先は別物でしょう。わたくしをお疑いで?心配されなくても、リリーナにはちゃんと指導しますけれど?」
ムッとして、つい刺々しい返しをしてしまいました。……ん?これで良いリアクションなのでは?
近頃何が正解なのか分からなくなってきています、ちゃんと整理しないとなぁ。
「そんなに上手なら、私も見たいなと思って」
長期休暇中は、俺と言ってらした一人称は、学院にいるせいか、それともあの時は気安い雰囲気だったからなのか、今は私、に戻っていらっしゃる。
そして、前より意地悪気な表情を見るようになりました。キラキラ王子カムバックを要請します。
「わたくしが嘘をついているとでも?」
「だってアナベル、今までミサンガを作っていなかっただろう?大丈夫なのかな?って」
確かにわたくしは、渡したい相手もいなければ欲しがってくださる方もいない寂しい非モテでしたが!
「さ、流石に言い過ぎでは?」
わたくしに否定的なカンパニュラが間に入ってくださいました、お前いい奴だな!
「はは。スターチス公爵令嬢にお願いが無かったのは、殿下の婚約者候補筆頭だったからだろ?原因にそんな事言われたくないよね、スターチス嬢?」
ムスカリもフォローしてくださいました、お前もいい奴!でも多分見当違いでわたくしがモテないだけなんだけどね!サンキュー!
「ヘタレ」
ボソりとリリーナが何か呟きましたが聞こえませんでした。
とりあえず皆様フォローありがとうございます。
「では、わたくしがリリーナと作ったものをご覧くださいませ」
溜息混じりに言えば、ノイエ様は色まで指定してきました。わたくしのセンスが不安なんですか、失礼な!
「上手く出来てたら大会で着けるよ」
ノイエ様が笑います。馬鹿にしているのでしょうか?
「いえ、ノイエ様はたくさんのご令嬢から頂くのでしょうから、手首が動かせなくなってしまいますから、結構です」
わたくしが断ると、これまたヘンテコな返しを喰らいました。
「なに?他の子から貰ったものを着けて欲しくないって?」
そう言う事はリリーナに言えば良いのに。
「意識して見ないようにしているのなら、協力しますけれど、今はどちらですか?」
リリーナが真面目な声色で小さく聞いてきます。
わたくしは、分かったような、分かりたくないような、曖昧な顔しか出来ず俯きかけましたが、迷いを振り払うように宣言しました。
「とりあえず、リリーナとご指定の色で作りますわ。別に、ノイエ様に差し上げるものではありませんからね!」
ツンデレもかくや、と言う台詞を吐いてしまい、わたくし以外の皆様肩を震わせておりました。勿論リリーナさえも。
「う、うん、楽しみ……に、してる」
めっちゃ笑ってやがります!ああ恥ずかしい!
デルフィニウム、カンパニュラ、ムスカリにそれぞれ可哀想なコを見る目で見られながらリリーナと共にカフェテリアを後にしました。
悪役令嬢ってツンデレ設定だったっけ?と首を傾げつつ、リリーナとミサンガ用の糸を買いに行く約束をしたのでした。
……攻略対象あと二人出せていない…
ちなみにアナベルの脳内では、カンパニュラ、ムスカリ、デルフィニウム、ネメシアは敬称略ですが、呼びかける時は様が付きます。




