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断罪予定の悪役令嬢の行く末  作者: みずのとさやか
断罪予定の悪役令嬢
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悪役令嬢ともうすぐ出立の二人

今回短いです、すみません。

 大型魔獣を倒して3日、リリーナは帰宅する運びとなりました。約束を正式な契約とするため、わたくしとお父様連名で契約書を作成、クレマチス男爵からも認めてもらう必要があります。

 クレマチス男爵を呼び付ける事も可能なのですが、現在我がスターチス公爵領にはノイエ様が滞在中。リリーナが直接持ち帰る運びです。


「男爵からの許可と、それから推薦状をお願いね。聖協会からの許可は、わたくしが行った方がスムーズに事が進むから省いていいわ。ああ、推薦状は深く考えなくていいわよ。男爵ご自身と……可能なら学院の教授からもあると、何かあった時楽になるだけだから」


 何か……とは、無理矢理侍女にした!とか、不当に聖女の役目を放棄する気だ!とかの面倒な案件を指します。公爵家も聖女も面倒な立場ですね!


「分かりました。えと、父から許可が取れ次第……」

「勿論その後は、最後の長期休暇を謳歌してね!」


 言葉を被せるように言いました。だってそう言わないと、絶対行儀見習いに来るとか言いそうなんですもの!


「え、でも……」


 ゲームの世界だけど、人はキャラクターじゃないって理解はしています。……けどね!微妙にイベントに沿ってるからさ、あまりに外れた行動だと、何があるのか分からなくて怖いのよ、正直!


「リリーナ嬢、クレマチス男爵領から戻っても、俺はいないと思うよ?」


 スターチス公爵領からクレマチス男爵領まで、早馬で2日、馬車なら5日程度かかります。トンボ帰りでも10日。その頃には流石に他の婚約者候補と交流をするために出立しているでしょう。


 ……俺がいないから来ても仕方ないよって?随分な自信ですねノイエ様。


「そうですか。……それならば……」


 え?リリーナ、貴女もしかして図星だったの?そうなの?

 少しだけ、心がざわついた気がしました。


「うん。だからさリリーナ嬢、直ちにクレマチス男爵領に帰るといい。父君も心配しているに違いないしね!」


 キラキラ笑顔でリリーナに言うノイエ様。……あれ?なんか裏がありそうなんだけど……気のせいかしら?

 対するリリーナはふふふと笑って、


「では、ノイエ殿下がお帰りになった後に帰宅する事にしますね。ノイエ殿下は、いつ頃他の候補者様の元へ行かれますか?」


 と言うのですが、思っていた程ラブっぽい雰囲気がありません。何だろ、会話内容だけなら思い合ってる感じなのに?


 ともあれ、ノイエ様がいつまでも我が領に留まる理由は確かにありません。


「ノイエ様、出立はいつになりますか?」


 各婚約者候補へ、事前連絡はギリギリとの事でした。情報漏洩や、対応を見たいという意図は分かりますが、そろそろ出立しないと、今回の長期休暇では回りきれない可能性があります。


 ノイエ様は苦虫を潰したようなお顔で、


「明後日、出立する」


 と呟きました。

 かしこまりましたと告げれば、


「寂しがるとか、嫌がってくれてもいいのに」


 何やらボソリと独りごちているご様子でした。

 ちなみに、ノイエ様の独り言を拾うと、何か嫌な予感がしましたので、何も聞かないようにしています。触らぬノイエ様に祟りなし、チョイ腹黒キャラの独り言はヤバげと相場はついています。


「では明日は、お土産を買いに行きたいです!」


 空気を変えるように、元気にリリーナが提案してくれました。よし、街遊びイベント大作戦!発動ですね。


「ああ良いね。俺はアナベルと二人でこの前街を見に行ったから、少しは案内出来ると思うよ」


 わざわざ前に行った事を強調するノイエ様。どういう……はっ!これは、もう知ってる街だからリリーナと二人で行きたいって事かしら?


「……そうですか、お二人で……」


 リリーナ!違うの!特筆するところはそこじゃないの!


「私も二人で行きたいです」


 モジモジ恥じらいながら言うリリーナは、まさにヒロインちゃんでした。可愛いー!


 ……でもね、なんか視線がね、ちょっと違うんじゃないかなと思うのよ。その可愛いお顔はね、わたくしにじゃなくノイエ様に向けるのが正しいのでは?


「ご令嬢二人だけなんて、護衛がいても心配だからね。明日一緒に行こうか」


 ノイエ様はスマートに誘いました。本来ならお二人でどうぞ!と言うべきなのでしょうが、もしもの時を考えてそういう訳にはいかないのです。ごめんね二人とも……。


「そうですね。お土産は是非我が領にしかないお菓子を……」


 明日、土産を買うお店をピックアップして紹介しながら本日のお茶会は終了したのでした。




「席は……この並びで良いのですか?」


 はい皆様ご機嫌よう、本日は我が領の繁華街に行こうとしております。何で?勿論馬車でございます。

 曲がりなりにも公爵家の馬車なので、ゆったりラグジュアリーな広々馬車です。

 ノイエ様用と、わたくしとリリーナ用で2台だそうとしたら、道中も話したいというノイエ様のご希望で三人で乗車しております。


 ノイエ様は意外と寂しがりなんですかね?……なんて。大丈夫分かっております、リリーナと話したいんですよね!

 聖女結界の話以降、お二人の仲が大分縮まっていますもんね!


 ですから、お客様としてお二人で、わたくしは一人で……が良いかと思って提案したのですが。


「いやいやアナベル、ここは矢張り婚約者候補と仲を深める意味で俺の隣だろう?」


 と言うノイエ様の主張と、


「まだ婚約者ではなく候補ですもの。何か良からぬ噂が立ってもいけませんし、アナベル様は私の隣です」


 と言うリリーナの主張が激突しました。

 因みにわたくしの案は、


「「一番ない!」」


 と声を揃えて却下されました。息ぴったりですね。


 席問題についてお二人はかれこれ十分は主張し合っていましたが、行き帰りで交代する事で妥協した様です。わたくしに遠慮なくお二人で座っていただいて結構なのですが。


 前世の整えられた道路と違い、道中は揺れます。クッションの効いた公爵家の馬車でこうなのですから、庶民の馬車は大変なのでしょうね、などとぼんやり考えていたら、身体が大きく傾いてしまいました。


「大丈夫ですか?」


 支えてくれたのは、リリーナでした。体幹良いですね!しかし、ここはリリーナがよろけてノイエ様が支える王道展開希望でした。よろめいたのが悪役令嬢だとこうなるんですね。

 ノイエ様の右手が不自然に宙を彷徨っていましたが、もしかしてノイエ様もよろけていましたか?悪路で申し訳ありません、今度整備させますので。



 そんなこんなな珍道中を経て、お土産探しです。我が領で採れる果物を使ったお菓子や、手頃な宝石を見て回ります。


 リリーナ曰く、余りに高価なお土産だと不審に思われるので自分のお小遣いで買える程度が良いとの事。

 うーむ、感覚が貴族より庶民ですね。この辺りも教育していく必要がありそうだわ。


 ノイエ様は、スターチス領を出立した後更に他領に赴くため、馬車内で食べるお菓子が欲しいとの事でした。意外と甘いものがお好きなんですね。


「アナベルは?何が好きなの?」


「わたくしですか?わたくしは、ドライフルーツの入ったクッキーが好きですね。特にアプリコットと松の実が入った素朴なものが」


 前世とは違う食文化もある中で、小さな頃から前世の母と同じように作ってくれた素朴なクッキー。わたくしはそれが、前世も今世も大好きです。

 貴族女性は料理をしないのが通常なのに、今世の母は、


『お店で頂いた時に、何故か分からないのだけど……わたくしも子供が生まれたら作ってあげたいわ、と思ったの。変よね。お店にレシピを聞いて、初めて調理場に入ったわ』


 とおっしゃった。

 子育てだって乳母がいるし、あまり親子としての関わりが少ない貴族の中で、母との思い出が意外と多い事に驚く。

 前世を思い出したのは近頃なのに、幼いわたくしが初めて食べた今世の母のクッキーを、懐かしい味、と表現したそうです。


 それに対し、


『ならわたくしも作った甲斐がありました』


 と笑った今世の母。なんだか不思議な話だけれど。


 とまあ、そんなエピソード満載の好きなお菓子ですが、わざわざ披露するつもりはありません。ですからこれは、公爵令嬢が好きな風変わりなお菓子、という区分でしょう。


 ノイエ様が気になるとおっしゃるので、こじんまりとしたお店へご案内し、三人で食します。

 色々思い出した今、ますます好きになった懐かしい味でした。


「わー、これ味わい深くて美味しいですね!私も買って帰ろう」


 にこにこしながらリリーナが言います。


「うん、これを貰おう」


 ノイエ様は口数少なく、けれども多めにクッキーを買っていました。次の馬車旅が長いのかな?


「気に入って頂けたなら嬉しく思います」


 おすすめしたものが気に入ってもらえて嬉しいです。悪役令嬢とヒロインと攻略対象という微妙な関係性ですがね!


「うん、アナベルと同じものが食べられて嬉しいよ。素朴で、優しい気分になる味わいだ。……でも何故だろう、アナベルはとても華やかな印象なのに、このクッキーの印象とも重なるね。俺もこのクッキー、好きだな」


 ぽつりと呟かれた感想に、どう返答するか迷いました。

 素朴と言われて怒るべき?優しい気分と言われて喜ぶべき?


 結局わたくしはどちらの返答も出来ず、曖昧に微笑みました。

 その時のわたくしは、同じものを食べて、同じ感想を抱いたことを密かに嬉しく思ったのに、そのことに気付かない振りをしたのでした。


 以降も何軒かお菓子屋を回り、説明したりお茶をしたり、最後に名産にもなっているガラス工房を案内しました。

 所謂お土産なお手頃なものから、オートクチュールの一点ものまで扱う大きな工房なので、見甲斐があります。


 その中で、小さな小鳥のガラス細工が目に入りました。リボンを通せばチャームにもなる、ストラップみたいなガラス細工です。


「可愛い小鳥ですね。あ!お値段も素敵です!」


 ガラスで出来た小鳥のチャーム。そう言えばゲームの中のヒロインちゃんの手首、ブレスレット代わりのリボンに小鳥が付いていたような。


「あ、あの!アナベル様、良かったら私と同じ小鳥を、おそろいで持っていただけませんか?」


 ヒロインちゃんグッズをわたくしも持つんですか?まさかの展開です。


「そういう話なら、俺も揃いで持ちたい」


 ノイエ様も話に乗ってきました。ハイハイ、リリーナとお揃いしたいんですね。


 結局押し切られ、三人で同じ形の小鳥を持つ事になりました。リリーナがピンクで、ノイエ様が薄水色の小鳥、わたくしは透明にしました。お二人はそれぞれの瞳の色でした。


「その小鳥でいいの?」


 深い意味は無かったのですが、二人の関係を邪魔したくないなぁと言う無意識があったのかもしれません。たまにモヤモヤする時もあるけれど、わたくしの願い通りです。


「それも素敵だけど、うーん、アナベルはこっちがいいんじゃないかな」


 そう言ってノイエ様は、深い青の小鳥を差し出しました。


 わたくしの瞳は、深い青ではありません。緑がかった金色です。この世界では、青い鳥のお話もありません。ノイエ様にとっては何気ない提案で、深い意味はないのだと思います。


 けれど、わたくしが買った小鳥は深い青でした。





「お土産、たくさん買えて良かったです!」


 帰りの馬車でもリリーナは元気でした。体力ありますね!


 わたくしはノイエ様の隣に座りました。行きの馬車に比べて、背筋が伸びていらっしゃる……矢張りわたくしの隣では安心出来ないのでしょうね。申し訳ない事をしております。


「そうだな、とても楽しめた。学院を卒業したら、お互いこんなに気楽に街を歩く事などないだろうから、……本当に、楽しかった」


 ノイエ様は卒業と同時に婚約者を決め、立太子なさると言われています。羽根を伸ばせるのもあと僅かな時間。うん、リリーナ呼んでおいて良かった!


「また、一緒に、街歩きが出来たらいいな」


 ノイエ様が窓を見ながら呟きました。この自由な時間を、惜しんでいらっしゃるのでしょう。


 さあリリーナ!気の利いた一言を伝えるのよ!


 ガタゴトがたごと。ただ車輪が廻る音と、街の喧騒が聞こえます。

 ……?リリーナさん?台詞選択、長考し過ぎでは?


「……ヘタレ」


 小さくリリーナが何か呟いたようでしたが、聞き取れませんでした。


 結局、リリーナが返答しないため、しばらく無言が続き、無言に耐えかねたわたくしが無難な世間話を振り、場を繋いで屋敷に到着しました。


 馬車を降りる際ノイエ様が小さく溜息を吐いていらした。リリーナと街歩きの約束が出来なかったことを残念に思っているのでしょう。


 今後の課題はリリーナに恋心を自覚させることですね!と見えないところで拳を握っていたら、リリーナがそっとわたくしの肩に手を置いて、


「……恐らく、勘違いだと思いますよ?」


 と言って笑い、


「はあ」


 ノイエ様は再度、溜息を吐いていらした。






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