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断罪予定の悪役令嬢の行く末  作者: みずのとさやか
断罪予定の悪役令嬢
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悪役令嬢と少しのモヤモヤ

「二人が無事で本当に良かった」


 無事ノイエ様たちと合流したわたくしたち。

 騎士団も含めて、負傷者は出たものの死者が出なかったのは幸いでした。重傷者はいるので油断なりませんが!


「ノイエ様がご無事で安心しました。至急屋敷に戻り、各所へ通達します。怪我人もおりますので」


 物語ではよく、聖女が癒やしの魔法で怪我を治したりしますが、この世界の魔術では怪我を治す事が出来ません。そのため急ぎ怪我人を手当てしなければなりません。


「ですから、詳しいご報告について今は省きますのでご了承ください」


 ノイエ様は、わたくしたちの無事もだけれど、聖女結界が発動したのかが気になっていらっしゃるのが丸わかりでした。

 申し訳ありませんが、今貴方の興味に構っている暇は無いのです!と、はっきり牽制しました。


「……これは手厳しい。流石にこの状況で自分を優先しろとは言わないよ。早く手当てしてあげよう。二人とも、お疲れ様」


 ひと段落着いたら教えろよ的な圧が言葉にありましたが、気のせいにしたいなあと思いつつ屋敷に戻りました。





「……で?どうだったの?」


 埃を洗い流して着替えて……バタバタの後、応接室で質問タイムです。もう少しゆっくりしたかった……。

 ただ、第一王子を危険に晒したのも事実なので、大型魔獣に遭遇したけど色々あって大丈夫でした★という報告では納得されないのも分かります。

 うーむ、ヒロインちゃん第一王子イベント大作戦構想が裏目に出ましたね。ノイエ様がいらっしゃらなければ誤魔化しきれたかも。


 しかし、リリーナも聖女として腹は決まったようなので、後ろ盾のわたくしも頑張らないと!

 なお、お父様には事後報告だったのですが、危険に身を置いた事は怒られましたが、それ以外は認めてくれました。むしろ喜んでいたようです。一安心。


「先ず始めに。リリーナ・クレマチス男爵令嬢は、学院卒業後わたくしの侍女となる事が決定しました。聖女としての活動要請は、わたくしを通して行っていただく事となります」


「……つまり、聖女結界は発動したんだね。発動の安定はどう?威力や有効範囲は?今回はどうだったの?」


「リリーナは発動条件は感覚的に分かった様子ですが、安定しているとは言い切れません。威力は、スターチス領騎士団の四分の一強を以て魔力を削りきれない大型魔獣の魔力を削ぐ事に成功しました。ただ、本体の動物を助けるには至っておりません。有効範囲ですが、距離にして30メートルは聖歌が有効でした。範囲、威力に関しては今回の事であり、今後どのように変化するかはまだ未知数です。後程報告書として、王家と聖協会それぞれに提出します、アナベル・スターチスの名で」


 明確に、わたくしが後ろ盾である事を宣言すると伝えます。

 ……ごめんなさいノイエ様。リリーナを嫁にしたかったかもしれませんが、ちょっと難しくなってしまって。

 でもな……今のところリリーナがノイエ様の庇護下を選んで無いからさ……。


 リリーナは一言も言葉を発しない。後ろ盾であるわたくしに任せてくれるのだそうです。聖女なヒロインちゃんを守る役が悪役令嬢って、このゲームどうなってるのか……まあ、ゲームと現実は違うってことよね。


「分かった。では、リリーナ嬢の能力はアナベル主導で。ただ、随時報告は上げてくれるかい?久しぶりの聖女だ、王宮でも浮き足立っていてね」


 にっこり笑ってノイエ様は了承してしまいました。え?もう少しゴネたりするんじゃないの?あともっとしつこく詳細を聞かれるかと思って覚悟していたのですが……いいのかしら?


「随分あっさり了承なさいますのね。各所への確認や……ノイエ様自身はそれで良いのでしょうか?」


 実は不満を抱えていて、後で冤罪からの……みたいな罠はごめん被ります!


「いや?リリーナ嬢の事はアナベルが適任だよ。……おかげで、厄介事が一つ減ったくらいだ。ありがとうアナベル」


 微妙に悪い顔で笑っていらっしゃるのが気になりますが、わたくしには推し測れませんでした。裏読んだりするの、苦手なんですよね……。


「それより、二人は……何故自ら危険に身を投じたの?」


 ……あれ?さっきまで悪い顔で笑ってらしたのに、雲行きが怪しいのですが?

 何かしら?先程よりは良い笑顔なのに……むしろ怖い……?


「今回程自分が不甲斐ないと思った事はないよ」


「でも、お立場を考えた上で即座に撤退の判断をなさったノイエ殿下は素晴らしいと思います!」


 リリーナ……!喋ったと思ったら、何のフォローにもならなそうな事を!

 つまり平たく言うと、居ても何の役にも立たない上、怪我でもされたらコッチの責任になるから、ツベコベ言わずに大人しくしててくれて良かったって事でしょ……!


「アナベル、視線がね……うん、目は口程に物を言うって本当だね。リリーナ嬢の意見が正しいよ。言わない内容も含めて」


 バレていました。リリーナはにっこり笑って、分かっているなら構いません的な頷きを返していて……?コレ乙女ゲームのヒロインと攻略対象だよね???何だこの関係性。


「ご無礼申し訳ございません。さて、先程のノイエ殿下のご質問、何故危険に身を投じたか、ですが……アナベル様をお守りしたかったからです。

私は卒業後、アナベル様の侍女にしていただくお願いをする為にスターチス公爵領に参りました。これが、アナベル様だけにお話したかった内容です。アナベル様の元で貴族として至らない箇所を学びつつ、励みたいと考えております。

お願いをする前に、私が役立ち、侍女として取り立てくださるきっかけが無いか、という打算があったのが正直なところです。

結果、私は卒業後アナベル様の侍女となる約束をいたしました。ノイエ殿下には無謀と思われたかもしれませんが、何の力も無い男爵家庶子の、必死の行動だったとお許しください。

また、学院編入から今までのご無礼、重ねて謝罪いたします。お二人には本当に申し訳ございませんでした」


 ヒロインちゃんによるイベント!……では無いと思っていましたけどね!いっそ清々しいくらいに打算を暴露しましたねリリーナ。そういうとこ、好きだけどね!

 あと、ご無礼というのは、男性陣との接し方とか、オタサーの姫状態だった事を指してる?のかしら。……え、でも、それを全部改善されちゃうと、ハーレムエンドも怪しくなるのでは……?めっちゃ臣下感出すのやめて、ホント!


「い、いえ、リリーナ。確かに貴族令嬢として相応しく無い振る舞いもありましたが、わたくしとしても見習うべき箇所もありました。いきなり変わるのは難しいと思いますので、少しずつで構いませんからね」


 ゲームのヒロインちゃんは、学院を卒業する頃には立派な淑女となっていました。その指導をするのは全く構わないのですが、確かもう少しラブを育てるイベントがあるはずなので、めっちゃ貴族令嬢!っていう振る舞いオンリーだと困るのです!


「ありがとうございますアナベル様。男爵家としての作法もままならない中、公爵家の侍女としての振る舞いなど夢のまた夢ですので、今後の事を踏まえ精進して参りますね!」


 うわーん、決意しちゃっている……。まあ、ほとんどの攻略対象は高位貴族だしね、出来て悪い事は無いんだけどね!


「今後の事を踏まえて、ね。ふうん?……ところでリリーナ嬢、いくつか質問しても?」


「勿論です。アナベル様が許可なさった内容であれば何でもお聞きください」


 いい?とノイエ様が視線で許可を求めます。不味そうな内容ならば止めます、と返しておきました。


「リリーナ嬢は侍女になるそうだけど、……それはスターチス公爵家の侍女?それともアナベル個人の侍女?」


 ん?そんなの、決まっているじゃないですか!


「スターチス家の侍女です」

「アナベル様個人の侍女です」


 意見割れましたー!え?そういう話だっけ???


「アナベルが納得していないみたいだけど、どうなの?」


 リリーナとの約束を思い出してみよう。うーん?


『スターチス公爵家の後ろ盾が欲しい』『アナベル様の侍女にしてください……』


 あれって、そういう意味だったの?


「私、スターチス公爵家の侍女にしてください、とは申していませんよね?アナベル様」


 美少女のキラキラ笑顔なのに、うわーん、ノイエ様と同じ圧を感じます。確かに、確かに言ってなかった!確認しなかったわたくし。


「……わたくしの解釈違いでした。リリーナはわたくしの個人的な侍女となります」


「分かった。ふうん、なかなか考えるね、リリーナ嬢」


「それほどでも」


 ?なんですか、この色々ボカしたやり取りは。結局この二人は通じ合ってるって事?まだ第一王子ルート息してるの?


「アナベル、君の考えは違うと思うよ。詳しくは……そうだな、卒業の頃には分かると思うよ」


 なんだか煙に巻かれたような回答ですが、二人の笑いが深まりちょっと怖かったので、スルーする事にしました。


「アナベル様は、気付いたら外堀埋まってる感じですね」


 にっこり笑って、何毒吐いてるのかな?リリーナは。


「それもアナベルの味わい深さだよ」


 フォローじゃないですよね、ノイエ様。

 もう!なんなんですか!


「さて、雑談はこの辺にして。……聖女結界の発動条件は何だったの?」


 切り替え早いですね、ノイエ様。

 さて、発動条件ですが……リリーナは動物を助けてあげたかったと言っていました。という事は、広義で愛、かしらね?


「恐らく、……役に立ちたい、という気持ちかと」


 ぽつりと呟いたリリーナの発動条件は意外な内容でした。


 心のどこかでリリーナは、愛や守りたいという思いが強いヒロイン気質があるのだろうと、思ってしまっていました。


「私、誰かに助けて貰ってばっかりだったんです。お母さんはそのせいで疲れて逝ってしまったし、クレマチス男爵もなんだかんだ助けてくれています。学院ではノイエ殿下や、ジェリドやみんなにも、……アナベル様にも。だから、私もって。助けられるだけの存在じゃないって、思いたかったんです」


 ここは乙女ゲームの世界かもしれないけれど、ここに生きているリリーナは、普通の女の子でした。自分を認めて欲しい、普通の考えの女の子。誰にだってある、承認欲求だったのに。


「……リリーナ」


 ゲームのヒロインというバイアスで見ていてごめんなさい、もっと貴女自身を見ようって、思っていた筈なのに。


「そうか。ともあれ、発動条件が分かって良かった。自身が自覚している、というのが素晴らしい」


 ノイエ様は至極あっさりとリリーナを肯定しました。少し自己嫌悪気味に発動条件を口にしたリリーナには、思わぬ肩透かしの様子でした。


「聖女なのに、こんな発動条件で、申し訳、ございません」


 恥いるように、深く頭を下げるリリーナに、ノイエ様がもう一度、優しく声をかけます。


「何が?言っただろう?自身で自覚している発動条件ならば全く問題ない。心で何を思おうと、聖女結界は発動するんだ。それで助かる命があるのなら、何を思おうが関係ない。こう言ってしまっては身も蓋もないが、助けて貰う方が、助けてくれる側に高尚な考えを強要するのは馬鹿げている」


 ノイエ様の言葉は、相変わらずデリカシーも無ければフォローとしても微妙なラインでした。

 けれど、リリーナの心に深く刺さったのは、見ていて明らかでした。


「ありがとう、ございます」


 俯いたリリーナに、優しく笑いかけるノイエ様。何の含みもない笑顔に、何でかモヤっとしてしまいました。流石悪役令嬢、心が狭いな、わたくし。


 二人が笑い合う姿は、シチュエーションは違えど、乙女ゲームの長期休暇イベントのスチルに、とても似ていました。


 なんだ、まだ第一王子ルート、生きてるじゃない。


 とても喜ばしい事です。


 とても、良い、事だと思います。


 この感じだとわたくしの断罪は無くなりそうで、それでいて聖女であるリリーナとの恋愛に発展する予感がします。

 願ったり叶ったり、最高のエンドもあり得ます。


 なのに、この心のモヤモヤは何でしょう。


「アナベル、変な顔してどうしたの?」


 デリカシーの無い言葉に、少し悪そうな笑顔でこちらをみるノイエ様。


 わたくしは、なんだかよく分からなくなって、その後何を話したのかぼんやりとしか覚えていません。


 こういう訳が分からない時は寝るのに限ります。今日考えて分からない事は、明日の自分にお任せしましょう。


 こうして、わたくしは深く考えるのを諦めたのでした。





やっと長期休暇イベントの終わりが見えました。

おかしい、全体で1万弱の話の予定だったのに。


申し訳ございませんが、もう少しお付き合いください。

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